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【日韓経済戦争】二階幹事長の発言「韓国に譲ろう」 日本ではベタ記事、韓国紙は1面トップの大騒ぎ

   「我々はもっと大人になって、韓国に譲れるところは譲ろう」――。読売新聞がベタ記事で報道した二階俊博自民党幹事長の発言が、韓国紙の1面で躍り上がる騒ぎになっている。

   悪化したまま膠着状態に入った日韓関係だが、「安倍政権が韓国に折れてくるシグナルかもしれない」という希望的な観測まで現れた。いったいどういうことか。韓国紙を読み解くと――。

  • 「韓国に譲ろう」と発言した二階俊博幹事長(2016年10月撮影)
    「韓国に譲ろう」と発言した二階俊博幹事長(2016年10月撮影)
  • 「韓国に譲ろう」と発言した二階俊博幹事長(2016年10月撮影)

「大人になって韓国の言い分を聞く度量がないとダメだ」

   日本では読売新聞以外ほとんど報じられず、韓国で大騒ぎになっている発言とは、読売新聞(2019年9月28日付)4面(政治面)に載った「『まず日本が手をさしのべて』日韓関係で言及」というベタ記事だ。じつは、政治面のトップには「二階氏、課題の山 改憲論議、都知事選対応 党内融和に腐心」という二階幹事長に関する特集記事が組まれており、その関連記事の一つとして載せた、わずか16行の記事だった。全文はこうだ。

   「自民党の二階幹事長は27日、BSテレ東の番組収録で、徴用工問題を発端に悪化した日韓関係について、『円満な外交が展開できるよう、韓国の努力も必要だが、まず日本が手を差しのべて、譲れるとことは譲るということだ』と述べた。二階氏は韓国政界に独自の人脈を持つ知韓派として知られる。『我々はもっと大人になって、韓国の言い分もよく聞いて、対応していく度量がないとダメだ』とも語った」

   これに多くの韓国メディアが飛びついた。東亜日報(9月30日付)「自民党幹事長『韓国に譲歩できることは譲歩を』は、こう伝える。

「与党自民党のナンバー2の二階俊博幹事長は、悪化した韓日関係と関連して、『円満な外交が展開できるよう、韓国の努力も必要だが、まず日本が手を差し伸べ、譲歩できることは譲歩すべきだ』と述べたと、読売新聞が報じた。安倍晋三政権の核心人物である二階氏が『韓国に対する譲歩』に言及したのは異例のことだ」

そう強調する。

   しかし、二階氏は7月末に輸出規制強化の猶予を求めて訪日した韓国国会議員団の面談要請を2回にわたってドタキャンするなど、安倍政権の対韓強硬基調に歩調を合わせた「前科」がある。だから、東亜日報は、東京のある外交筋の「韓日関係に肯定的なメッセージとみえるが、安倍政権の方向転換の信号と見るには早い」という慎重なコメントを紹介。「ぬか喜びするには早い」との立場を示している。

二階発言は日本経済が追い詰められてきたから

   一方、中央日報(9月30日付)「観光客の急減に...... 二階幹事長『韓国に譲れるところは譲る』は、もろ手を挙げて大歓迎といった雰囲気で、こんな憶測を伝えている。

「日本国民の間に反韓感情が高まっている状況で、有力政治家が韓国に対する譲歩を強調したことは異例だ。自民党の党職で幹事長は総裁に続いて2番目に高い。特に二階幹事長は、『高齢などで交代の可能性がある』という予想にも、(改造人事で)生き残るなど安倍晋三首相からの信頼も厚い。8月には韓国の朴智元(パク・ジウォン)議員(無所属)と大阪で5時間以上にわたって会談した。昨年、自身が率いる二階派所属議員全員と訪韓して研修会を行うほどの知韓派だ。だが、党内の強硬論などを考慮し、これまで韓日関係への言及や韓国側の要人との公開会談を避けてきた」

   そんな二階氏が日韓関係の改善を主張し始めたのはなぜか、と中央日報はこう分析。「日本製品不買運動と日本旅行忌避による日本経済の打撃のため」とみる。

   韓国人観光客の減少で西日本地域の経済が落ち込み、8月1か月間の日本ビールの韓国輸出は昨年同月比92%減少した。安倍氏側近の衛藤晟一・内閣府特命担当相が、最近対馬を訪問して韓国人観光客の急減実態を確認したではないか、というのだ。

韓国人観光客の減少で西日本地域の経済は落ち込んでいる?(写真は、大阪・道頓堀界隈)
韓国人観光客の減少で西日本地域の経済は落ち込んでいる?(写真は、大阪・道頓堀界隈)

   さらに中央日報は、首相官邸の事情に明るい日本の報道機関幹部のこんなコメントを紹介している。

「官邸内の穏健派といわれる菅義偉官房長官の場合、当初『両国の人的交流と経済交流に決定的な影響があってはいけない』という条件を前提に、韓国に対する輸出規制強化に賛成したと承知している。予想を越える韓国の反発に日本政府もかなり驚いている」

   つまり、菅官房長官や二階幹事長ら安倍政権の穏健派は、ここまで日韓関係が悪化することがわかっていれば、最初から輸出規制強化策には賛成しなかったというわけだ。

   中央日報の記事はこんな期待を持たせる一文で結んでいる。

「東京の韓国消息筋は、『徴用問題や輸出規制強化問題に関連し、日本側の譲歩の可能性など、手で捕えられるような気流の変化は感知されていない』としつつも、『日本政府内に、このままではダメだという世論が拡大しているのは事実』と話した」

米国が重い腰を上げ水面下で仲裁役を始めた効果?

   朝鮮日報(9月30日付)「自民党ナンバー2『韓国に譲れるところは譲ろう』」は「二階発言」に関する韓国政府側の「期待」の反応をこう伝える。

「二階幹事長が、韓日関係改善のために何らかの役割をする考えを明らかにしたのは、韓国人旅行客の減少などで日本経済に被害が発生していることが影響している。これと関連し、南官杓(ナム・グァンピョ)駐日韓国大使は9月28日、『韓国政府はもちろんだが、日本政府も早急な解決のために努力している』と述べた。ナム大使は東京・日比谷公園で開催された『日韓交流おまつり2019 in Tokyo』開会式終了後、記者たちに『韓日間の困難な関係はしばらくの間の問題』と言った」

   ナム大使が「もうしばらくしたら悪化した関係も変化するだろう」というニュアンスの見通しを示した背景には、米国から「韓日は対立を続けるべきではない」という強いメッセージが寄せられていることがあるという。

   米国務省当局者は9月26日、ニューヨークで行われた国連総会のインド・太平洋地域懸案に関する記者会見で、「我々は(韓日)双方に対し、過去に集中することはやめて、将来に向けて再び努力を始めることを奨励している」と述べた。また、韓米日3か国首脳会談の開催については「我々は興味を持っている」と述べた。

   これまで、韓国サイドから見ると、米国は悪化した日韓両国の仲介役を果たそうとしてこなかった。それが最近、ようやく重い腰を上げ始めたというわけだ。その米国の水面下の動きが「二階発言」という形で表れてきたと、韓国政府は見ているというのだが......。

(福田和郎)