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「もう奇跡とは言わせない!」ラグビー日本代表が教えてくれた「勝つ」ための心得(大関暁夫)

   ラグビーワールドカップ(W杯)の開催に沸く日本。4年前のイングランド大会では優勝候補の一角、南アフリカを破る大金星を挙げて話題を集めた日本チームが、またもややってくれました!

   今回は、つい先日まで世界ランキング1位のアイルランドに7点差をつけて勝利するという、歴史的快挙。試合前時点での日本のランキングは10位。対戦成績は、これまで10戦全敗。今回の勝利は強い相手に対しても、決して臆することなく立ち向かった成果と言えそうです。

  • ラグビー日本代表が教えてくれたこと(写真はイメージ)
    ラグビー日本代表が教えてくれたこと(写真はイメージ)
  • ラグビー日本代表が教えてくれたこと(写真はイメージ)

2大会連続の大金星がフロックでないワケ?

「勝ちたいというメンタリティと、勝てるという自信が一番の勝因だと思う」

   試合翌日に会見した日本チームのキャプテン、リーチ・マイケル選手は、そう語っています。

   強く希望するメンタリティと、やり遂げられるという自信。共に気持ちの問題なのですが、スポーツでも仕事でも、あらゆる困難に立ち向かう時に何より必要なものは、気持ちで負けないことであると、リーチ選手は言っているように思います。

   どんなに入念に相手を分析し戦略を練っても、「ダメならダメでもいいや」と投げやりになってしまったり、「ダメかもしれない」と弱気になってしまったりしては、目的を達する可能性は大きく下がってしまうのです。

   リーチ選手がキャプテンとして、チーム全員に気持ちを強く持つことを徹底し、全員が前向きな気持ちを失わずに戦ったことが歴史的勝利に導いたのだと思います。

   しかしながら、「勝ちたいというメンタリティと、勝てるという自信」は、ただ単に気持ちだけで成立するものではありません。そこには希望と自信を裏打ちする努力が不可欠なのです。

   前大会で強豪、南アフリカ代表チームを破った時のこと。驚愕する世界のメディアを尻目に、選手が口々に「チーム全員が、これ以上はない極限と言える地獄の練習に耐え、それを乗り越えてきたという自信があった」と言っていたことが、特に印象に残りました。

   今大会のアイルランド代表チーム戦の試合をテレビ観戦していた私は、鉄壁のディフェンスと相手を翻弄する速攻で日本代表チームが遂に逆転を果たしたその瞬間に、思わずこの言葉が頭に蘇り、2大会連続の大金星は決してフロックではないと合点がいったのです。

「勝ちたい」というメンタリティと自信はあるか!

   銀行員時代に、苦境にあえぐ企業経営者を多々見てまいりました。同じように苦境に陥っても、「経営の死の淵」から生還した企業と、復活を遂げることなく息絶えた企業の違いは、まさに経営者の下での社員たちの「復活に賭けるメンタリティと、復活に向けた自信」の違いではなかったかと、ラグビー日本代表の下馬評を覆す大活躍に思い出されました。

   チェーンのディスカウント・リカーショップ経営のA社。酒販免許の自由化の波に押されて減収、減益が続き、それまで酒と一部おつまみや日配品を併売するなどしてきた店舗を、大手チェーンからノウハウを受ける契約を結んで、食品スーパーに衣替えして起死回生をはかるという策に出ました。

   当然、銀行も社長の決死の覚悟を受けて資金協力を決め、社長と改革をいかに進めるか入念な打ち合わせをしました。

   その時の社長の考えで、引っかかったことがありました。

「今の経営苦境は、オーナー家の経営判断が業界の変革に対して後手後手に回った結果であり、業態転換に際して社員に責任をなすりつけるようなプレッシャーはかけたくない」

   そう言ったのです。

   つまり来店客の減少は、現場も肌で感じていたのですが、スーパーへの転換が経営危機脱出の決死の策という伝え方はせずに、前向きな業容拡大的なイメージで新たな事業展開だと、社員に説明したのです。

   結果は危機的状況にありながら、自然体の現場社員は受身のまま「勝ちたいというメンタリティ」も「勝てるという自信」も生まれるべくもなく、業態転換からわずか1年で倒産の憂き目にあったのでした。

絶対的危機を乗り切ることは不可能ではない

   一方、ガソリンスタンド・チェーン経営のM社。過去の店舗拡大戦略が裏目に出て、慢性的な運営コスト高に陥り、折りからの競争激化による利幅減少が追い討ちをかけて経営危機に直面します。

   社長は、付き合いで本社でのみ取り扱っていたカーディーラー業務が思いのほか好調なことから、ガソリンスタンドを改装してこれを多店舗展開することを考え、銀行に相談しました。

   その時、社長が提示したプランは、経営危機を全社員で共有し、待ち受けビジネスから全社員を営業マン組織への転換を図ること。そのために営業コンサルタントの徹底指導を入れたり、社長以下全員を外部営業研修に派遣したりと、全社一丸で決死の戦略転換を打ち出したのでした。

   このM社の主力事業の転換には社員の戸惑いも多く、一部では「営業が主業務になるなら会社を辞める」という動きも出ました。しかし、残った社員は社長を中心として危機感を共有しつつ、必死の思いでセールス実践力を磨き、全社一丸でセールスプロフェッショナルとしての自信を身に着けてカーディーラーへの転換戦略を推し進めたのです。

   結果は、ほどなく出ました。従来から法人取引先に恵まれていたことも幸いして、カーディーラーとしての業績は順調に伸びて2年後には優秀販売店表彰を受けるほどにまでなり、M社の経営危機は過去のものとなったのです。

   強豪に挑む団体スポーツでも、組織として試練に立ち向かうビジネスでも、絶対的危機を乗り切ることはもちろん、たやすくはありませんが、決して不可能でもありません。

   まずは危機感を全員で共有すること。そして、黙って目の前の危機をやり過ごすのではなく、「これだけやったんだから」と自信が持てるだけの鍛錬を積んで、臆せず迎え撃つこと。皆が困難に「勝ちたいというメンタリティと、勝てるという自信」の境地に至るなら、どんな試練も乗り越えることができる、ラグビー日本代表チームの快挙は、そう思える力を与えてくれたのではないでしょうか。(大関暁夫)