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中年ビジネスマンは「筋トレ」にハマる!「仕事は裏切るが、筋肉は裏切らない」

   最近、40~50代の働き盛りのビジネスマンのあいだで「筋トレ」が人気を集めている。忙しい会社員が通いやすく、使いやすいスポーツジムも増えている。

   そんななか、「なぜ筋トレがビジネスマンを引き付けるのか。それは、仕事では裏切られることはあっても、筋肉は裏切らないからだ」とするレポートが発表された。いったいどういうことなのか、研究者に聞いた。

  • 筋トレは目に見える成果が表れる(写真はイメージ)
    筋トレは目に見える成果が表れる(写真はイメージ)
  • 筋トレは目に見える成果が表れる(写真はイメージ)

週1~2回1時間ずつでみるみる成果が表れる

   このレポート「なぜビジネスマンが筋トレにはまるのか~裏切らない筋肉。社会保障財政へのプラス効果の可能性も。~」をまとめたのは、第一生命経済研究所調査研究本部の首席エコノミスト、永濱利廣さん(48)だ。2019年11月5日に同研究所のウェブサイト「Economic Trends」に発表した。

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部記者の取材に対し、永濱さんは自分自身の「筋トレ経験」をこう語った。

「4~5年前のことです。健康診断で高脂血症にひっかかり、ショックを受けました。ズボンもきつくなったし、会社近くのスポーツジムに通い始めました。最初は器具の使い方、食事のとり方からトレーナーの指導を受け、週に2回ほど通ったら、1か月で医師もびっくりするほど高脂血症がよくなったのです。ズボンもきつくなくなりました。体重は増えたけど、ウエストは細くなった。筋肉質の体形になったのですね」

   レポートによると、現在、「筋力トレーニング(筋トレ)ブーム」が続いている。フィットネスクラブの利用者数は年々増えており、2018年度は累計2億5700万人で、前年より1.7%増えた(経済産業省「特定サービス産業動態調査」)。それ以上に増えているのがフィットネスクラブの事業所数だ。2018年度は同5.9%増の1443事業所に至っている。

   永濱さんは、

「背景には、働き方改革で仕事以外に使える時間が増えていることに加え、個室などで個人指導してくれるパーソナル・スポーツジムや、24時間営業のフィットネスジムが急増して、会社員が利用しやすくなっていることがあります」

と説明する。

   注目すべきは、30代後半~50代前半のまさに働き盛りの会社員の間で筋トレが人気を集めていることだ。総務省の家計調査(2018年度)を元に、世帯主の世代別に見たスポーツクラブ使用料を比較すると、平均では前年から若干減少しているのに、「35歳~44歳」と「45歳~54歳」の年代が前年より増えているのだ=グラフ(1)参照。働き盛りの年代は、「人生100年時代」の高齢化社会を生き抜くため、できるだけ長く仕事ができるように、自らの健康管理をしようという意識が高まっていることが考えられるという。

グラフ(1)世帯主の世代別スポーツクラブ使用料
グラフ(1)世帯主の世代別スポーツクラブ使用料

   それにしても、なぜ筋トレがブームなのだろうか。健康管理という意味では、ランニングなど他のトレーニングも考えられるが、筋トレには働き盛りの会社員を魅了する独特の魅力があるという。それは、「成果が目に見えて表れる」ということだ。

   永濱さんがこう語る。

「筋トレは、週に1~2回、1回1時間でもしっかり追い込んでトレーニングすると、目に見えて筋肉が太くなり、体形が変わるのがわかります。筋肉がつくと代謝が盛んになり、筋肉組織がカロリーを消費してくれるので、食べても太らない体質になります。ランニングの場合は、毎日のように走らないと、なかなかタイムがあがる効果は出にくい。それに走るのってしんどいじゃないですか。筋トレは、壊れた筋肉の修復に時間がかかるから、毎日やってはダメ。週1~2回程度でも適度な食事制限をすると成果が表れやすいのです」

「仕事では得られない自己達成感が喜び」

   このように筋トレは短い時間で高い効果を上げる点が忙しい会社員に格好のスポーツということになるが、永濱さんはさらに重要な魅力を強調した。

「40~50代というと、年齢的な身体の衰えを実感し始める時期ですが、筋トレは年齢を問わずに始めることができます。また、40~50代の会社員というと、昇進など、ある程度会社内での自分のポジションが見え始める時期です。仕事って、どんなに努力しても思い通りにいかず、成果を出せないことがあるじゃないですか。ところが筋肉は絶対に裏切りません。正しいやり方で筋トレをすれば、必ず目に見える成果をもたらしてくれます。仕事では得られない自己達成感を得られることも筋トレの大きな喜びですね」

   こうした筋トレブームは、トレーニングジム以外の経済活動にも影響を及ぼしている。特に広がりを見せているのが、低糖質・高たんぱく食品ブームだ。外食産業でも低糖質メニューが多く提供されるようになった。吉野家がライザップ監修の「牛サラダ」を、ローソンが低糖質のブランパンを、ジョナサンが「糖質0麺」のタンメンを、くら寿司がシャリが野菜の「酢漬け大根」を出したりしている。

   こうした糖質制限ブームの影響は、酒類市場にも表れている。糖質制限ブームでウィスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒の糖質が低いことが認識されて以降、酒類全体の市場が縮小傾向にあるのに蒸留酒の市場は拡大を続けている=グラフ(2)参照。こうした動きも、アルコール消費量が多い中年ビジネスマンの筋トレブームの表れといえるという。永濱さん自身、「私がいつも飲むのはハイボールです」と語る。

グラフ(2)酒税課税推移数量
グラフ(2)酒税課税推移数量

「最悪の世代」団塊ジュニアはスポーツジムを目指せ

   最後にレポートが指摘しているのは、中年ビジネスマンの筋トレブームが与える社会保障財政へのプラス効果だ。「社会保障の2040年問題」という言葉がある。これまでは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年」が越えるべき峠とされたが、その先に「2040年」というもっと高い峰が控えていることが最近わかってきた。現在40代の団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になるのが2040年代で、1人の高齢者を1.5人の現役世代を支えなくてはならなくなる。

   現在、48歳の永濱さんも「団塊ジュニア世代」である。

「団塊ジュニアは最悪の世代です。バブル崩壊で就職は氷河期、入社してもリストラ、そして将来は下の世代のお荷物になる。しかし、私たちの世代がいつまでも健康でいないと、日本はやっていけません。今後も筋トレにはまり、健康な団塊ジュニアが増えていけば、医療費や社会保障費の抑制にもつながります。最近、母が認知症になりました。筋トレは、認知症の予防効果があると聞いています。ぜひ、筋トレを続けていきたいと思っています」

と語るのだった。

(福田和郎)