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孫社長はいかに? 巨大企業のワンマン社長は「独裁経営」のリスクを悟れるのか!(大関暁夫)

   Zホールディングス(ヤフー)とLINEの経営統合が、大きな話題になっています。

   ヤフーはインターネット黎明期にソフトバンクの孫正義氏の先見により、日本初のWEB検索エンジンとして1996年に創業し、その後さまざまな事業拡大をはかりながら、親会社ソフトバンクとの連携を含めてIT業界で確固たる地位を築いています。

   一方のLINEは韓国資本ネイバーの子会社で、対話ソフトLINEアプリの我が国における爆発的なヒットによって、今や国内8000万人を超える利用者を抱える一大IT企業として一目置かれる存在であり、この両社の統合はネットとスマホの両雄統合によるメガプラットフォーマー誕生への布石として注目を集めているわけです。

  • ソフトバンクグループを率いる孫正義氏はどう動くのか!?(写真は2010年5月撮影)
    ソフトバンクグループを率いる孫正義氏はどう動くのか!?(写真は2010年5月撮影)
  • ソフトバンクグループを率いる孫正義氏はどう動くのか!?(写真は2010年5月撮影)

圧倒的なシェアの「巨大」Payが誕生

   この経営統合の背景にある重要な事情のひとつは、今まさに主導権争いが加熱している我が国におけるキャッシュレス化の進展、すなわちQRコード決済におけるイニシアチブ奪取があります。

   QRコード決済は昨年来、雨後の筍の如く多陣営が乱立して、消費者もどこを選んだらいいのか、まったく判断基準が提示されないまま、各陣営が乱発するバラマキ・キャンペーンに翻弄されている感が強くあります。

   具体的には、大手各陣営が主導権を確保しようと断続的に100億円単位のコストをかけて、やれキャッシュバックだ、ポイント還元だと、過激な陣地争いを仕掛け合っているわけなのです。

   ヤフーは現時点での利用率1位のPayPay、LINEは同3位のLINE Payを引っさげて、まさに争いの渦中にあるのです。ただこの争い、現時点では利用者の引っ張り合いの域を出ず、確固たる主導権をどこが手にするのか、その先行きまでは見えないまま、消耗戦に突入した感が強く漂っています。

   同時にQRコード決済はキャッシュレス・ビジネスという新時代を切り開く最先端サービスであるがゆえに、他陣営に先駆け次なるサービス開発競争もポイントであり、その開発コストも半端ないと言われているのです。

QRコード決済のホントの「大きなメリット」とは何か

   そんな負担が大きく圧し掛かるなか、LINEは2019年12月期の決算見通しで300億円超の大幅な赤字転落を公表しています。同社は、会話アプリ事業という本業は順調であるにもかかわらず、LINEペイ関連のキャンペーン費用並びに新サービス関連のシステム開発コストが、足を引っ張ったとしています。

   この赤字が一過性のものであるのならやり過ごすこともできるのでしょうが、QRコード決済の主導権争いに当面決着がつく見通しがない以上、ソフトバンク、楽天に比べて規模で見劣りするLINEとしては、この主導権争いから脱落することなく勝ち残るために、今回ヤフーとの統合を決断したとも言えそうです。

   では、この争いにおいて主導権を取ることが、どれほど重要なことであるのか――。それを知るにはQRコード決済での主導権が単に決済手数料を増やすということにとどまらないビジネスで、将来にわたってとてつもなく大きなメリットが見込めるという点に着目する必要があります。

   それは、購買者個人に紐づけられた膨大な個人データを活用できるということであり、来るべき将来の新たなビジネスモデル、たとえば利用者の購買データを有料で第三者提供する情報銀行と言われるビジネスや、購買履歴や決済履歴を元に購買者を格付けする信用スコアリングビジネスなど、さまざまな未知・未開のビジネスの主役を務めることが可能になるわけなのです。

   ところが、同時に問題になるのが巨大情報産業化に伴う個人情報の取扱リスクです。これは単純な個人情報の漏洩リスクではなく、営利目的のビジネスとしての個人情報の活用が思わぬ方向にも行きかねないということです。

   その実例が、先人である中国のメガプラットフォーマー、アリババのグループのQR決済会社アリペイが手がける、芝麻信用なる信用スコアリングビジネスに見て取れます。アリペイの利用実績に応じてスコアが打ち出される芝麻信用で一定以上のスコアが取れない利用者は、希望するホテルに泊まれない、家が借りられないなどの逆差別が発生し、社会問題化しているのです。巨大情報産業が力を持ちすぎたがゆえに、営利目的での個人情報の活用に派生し大きな問題が生じているわけなのです。

注目される孫正義氏の去就

   なぜこんなことが起きてしまったのか――。これはアリババという巨大ビジネスグループが、創業オーナーであるジャック・マー氏のワンマン経営によって、次々と営利ビジネスを拡大し巨大化してきたことの弊害であると言えます。ワンマン経営は結果的に経営者個人が強権を持つようになり、経営者が善とする営利目的のビジネスモデルに対して、その弊害を検証する等の牽制が働かなくなるというリスクを抱えることになるのです。

   すなわち、個人情報は使われ方によっては利用者に利便性と裏腹に大きな反社会的不利益をも与えかねない、ということを芝麻信用のビジネスは教えてくれており、同時に牽制の働かないワンマン経営組織で膨大な個人情報を扱うことの怖さをも物語っているのです。

   今般LINEを統合するヤフーは、いまや我が国を代表する巨大ビジネス集団、ソフトバンクグループの一員です。ソフトバンクグループは創業者である孫正義氏のワンマンオーナー経営であり、いわばジャック・マー氏とアリババグループとの関係と同じ状況にあると言えます。

   孫氏が今後信用スコアリングビジネスで、ジャック・マー氏と同じ過ちを犯すだろうとは申しませんが、未知・未開のビジネスでの個人情報取扱に独裁経営のリスクが伴うことには何ら変わりがありません。つまり、孫正義氏の独裁経営企業体ソフトバンクグループのヤフーとLINEが統合して生まれる巨大情報産業企業体は、孫氏の支配下にある限り独裁経営であるが故の大きなリスクを感じざるを得ないのです。

   ちなみにジャック・マー氏は、「アリババは個人の資質に依存した体質から、組織や人材、カルチャーを軸とした企業へとステップを登ります」とのコメントを残して、今年9月54歳の若さでトップの座を降りています。

   経営者は、自身が独裁経営を続けることのリスクを悟り後任にバトンが渡すことが最後の重要な仕事でもあります。孫正義氏がいつそれを悟るのか、今回の統合の成否はそこにかかっているように思います。(大関暁夫)