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「剣を育てて」勝つ 肉体的なトレーニングが好きな姉に研究熱心な弟(山九 大石栞菜さん、大石利樹さん) 後編

   試合のときは100人もの大応援団を仕立て、ワンブロックを独占してしまうほど。2020年の東京オリンピックの代表候補としてメダルを目指す、物流大手の山九株式会社の大石栞菜さんと大石利樹さん姉弟は、会社でも人気者だ。

   後編は、そんな二人にフェンシングのトレーニングについて聞いた。

  • フェンシングは繊細なスポーツです(写真は、左が大石利樹さん、右が栞菜さん)
    フェンシングは繊細なスポーツです(写真は、左が大石利樹さん、右が栞菜さん)
  • フェンシングは繊細なスポーツです(写真は、左が大石利樹さん、右が栞菜さん)

「8時間、しっかり睡眠をとる」繊細な栞菜さん

―― ふだんと、試合に臨むときのスイッチの入りどころはあるのでしょうか?

大石栞菜さん「試合を意識し始めるのは、だいたい1週間ほど前から。練習の最終調整くらいからなんですが、ピリッとしてくるのは前夜からです。私は8時間、しっかり寝ないと体調が上向かないので、起床時間などを考慮して睡眠をとるところからスイッチが入っているかもしれないです」

―― 8時間前にスッと眠りに入れるほうですか。緊張して寝付けないことはありません?

栞菜さん「海外遠征のときなどには、たまに寝付けないことがありますが、いつもすぐに寝られますね」

―― 意外と神経が太いほうなのかな(笑)?

栞菜さん「いいえ全然。繊細ですよ(笑)。剣を持っても、カラダのあちらこちらで『なんか違うな』っていうことはよくあります。自分の指先の感覚と剣が合わなくて、剣を変えることがあるのですが、そうするとそこから点を取り出すということもありますから。たとえば、キューバ遠征では5対0で負けていて、『剣が全然ダメだ』『合っていない』と思い、そこから負けてもいいという思いで剣を変えたところ、怒涛の8連続ポイントで逆転勝ちしました。そんなことがあるくらいなので、自分ではすごく繊細なほうだと思っています」

――「剣の感覚」というのは、持った時の感触のことですか?

大石利樹さん「剣は1本丸々を購入するのではなく、パーツを一つひとつ組み上げて、いかに自分の使いやすい剣を複製していくかなんですよ」

栞菜さん「でも、まったく同じものはできなくて、剣の硬さや癖があったり、ちょっとしたバランスや重さの違いなどもあります。自分はそれを細かく追求していくタイプなので......」

利樹さん「剣は繊細で、下手をすれば、飛行機の貨物室に入れても揺れる衝撃で曲がってしまうことがあるので、気になる選手は自分の手元で本当に気を遣って管理しますから、大変なんです」

――剣は練習しながら調整していくんですか?

栞菜さん「そうです。どんどん剣を育てていくみたいな(笑)。 育った剣が折れてしまうとすごくショックです」

攻める大石栞菜さん(写真正面、山九提供)
攻める大石栞菜さん(写真正面、山九提供)

利樹さんは対戦相手との試合の組み立てをイメージする

―― 利樹さんは、オンとオフのスイッチの入りどころはありますか。

利樹さん「僕の場合は、この日に試合があるとしたら、週ごとにその試合の日に向けた練習量を増やしていきます。日頃から意識していますが、実際にスイッチが入るのは、当日の移動のバスとかですね。あまり試合のことを考えすぎると参ってしまうので、あまり気にしないで移動のバスで対戦相手への対策をまとめるなどして、アップからそこを意識してやっていくみたいな感じですね」

―― 対戦相手への対策というのは、ふだんからビデオを見ながら、攻略法を組み立てていくのですか。

利樹さん「そうですね。いろいろ試合でビデオを撮っていたりするので、そのビデオや過去の経験から、ある程度の試合の組み立てをイメージしますね」

―― そのあたりは栞菜さんも同じですか?

栞菜さん「そうですね。最近は女子エペにはアナリストが就いていただいていますから、そのアナリストの方と話しながら、試合ごとに対策を練ります」

―― トレーニングがつらいということはありせんか。

利樹さん「僕は、フェンシングのトレーニングはいくらキツくても、つらいと思ったことはないですね」

栞菜さん「私、フェンシングの練習はイヤですね。肉体的なトレーニングのほうが好きです」

「肉体的なトレーニングのほうが好き」と話す大石栞奈さん
「肉体的なトレーニングのほうが好き」と話す大石栞奈さん

―― フェンシングの選手はみなさん、他のスポーツ選手のように筋肉でガッシリというイメージはありませんね。

栞菜さん「線が細いですよね(笑)。ボディービルダーやアメフト選手のようにはならないですが、陸上の短距離選手のようなカラダを作っているんです」

―― ふだんは、どんな鍛え方をしているのですか。体幹を鍛えるようなトレーニングを積んでいるのでしょうか。

利樹さん「フェンシングは高校までは技術をどんどん伸ばしていって、大学入学後にフィジカルを伸ばすという鍛え方が多いと思います。なので、高校までは右と左、左右で筋肉の量が全然違うんですよ。そこを大学で補っていくみたいな。そうやって鍛えてきました」

栞菜さん「道具を使うスポーツなので、剣の持ち方とか、持った時の感覚とか。それに、フルーレとエペも大きな違いがあるんです。エペには剣先にボタンがついていて、それが点かないといけないので、剣を相手に突いていくだけでも大変なんです」

利樹さん「しかも、半身ですからね。顔と前の足だけ、相手を向くんですよ。剣道とかバトミントンは正対じゃないですか。半身なので、『いまから剣を持って、フェンシングやるよ』と言われても、絶対できないですね」

栞菜さん「日常生活とかけ離れている動作だからこそ、小さいころからやれば身に付きますし、そうじゃない人はすぐわかりますね。筋力差が出てくるので、筋肉量を上げたいなら、やはり左右を揃えないと上がりません。大学以降は筋トレをメインにやっていました」

筋トレよりも瞬発力!

―― 瞬発力が出るようなトレーニングということですね。

栞菜さん「でも、一日で全試合をこなすので、それに耐えられる体力をつけるということでもあります。意外と調整が難しかったりするんですよ」

利樹さん「(筋肉を)つけすぎても、ただ単に重いだけになってしまいます。結局、筋肉の分量ほどの力を発揮する必要はなく、最終的には正確性が求められるので、最低限でいいわけです。他のスポーツのように、ムキムキまではいらないかな」

栞菜さん「トレーニングでは瞬発力の神経系を強化するくらいですかね。具体的にいうと、自分の最大で上げられるもの、仮に100とするとその60%の重さのバーベルを、4回程度スピードを意識してやる。そんなイメージでしょうか」

利樹さん「丸いボードの機械で数字がパッパッパッと点滅する、ボクシングの選手がやるようなトレーニングがあります。僕はやっていませんが。反射神経とか動体視力を鍛えるみたいな感じです」

―― カラダを鍛えたり、反射神経を鍛えたりするトレーニングは、毎日やらなければならないのですか。

栞菜さん「ええ。定期的にやっておかないと、筋肉が落ちますから。ただ、培ったものを落とさないようにといった程度しか、やらないですね。試合が近づいてくると練習量を増やしたりしますが......」

大石利樹さんは「一戦一戦、全力でやる!」と力強く話す。
大石利樹さんは「一戦一戦、全力でやる!」と力強く話す。

―― 2020年のオリンピック・イヤーに向かって、抱負をお聞かせください。

栞菜さん「一戦一戦、全力で日々後悔のないように過ごして、その結果が悔いのないようにしたいですね。もちろんオリンピックに出場が目標です」

利樹さん「オリンピックまでのスケジュールが見えているので、そこで結果を出していくと自然とその道が見えてくると思っています。一戦一戦、全力でやって、その先にオリンピック代表があり、さらに先にメダルがあると思うので、そこに向けて力を出しきりたいです」

―― モットーにしている言葉はありますか。

栞菜さん「シンプルに、『成せば成る』ですね」

利樹さん「夏目漱石の『こころ』からで、『向上心のないものは馬鹿だ』という、ひと言です」

(おわり)