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「お金」の育て方、米国では高校生からやっている 学んで伸ばす「金融リテラシー」

   日本と米国との「収入格差」が折にふれ取り沙汰され、最近では、日本では「富裕層」に属す年収額も米国では「低所得」に分類されると報じられたこともあった。

   なぜ、そうした格差が生まれるのか――。本書「アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書」を読めば、そのワケがわかってくる。

   米国では高校生のころから「お金」のことを詳しく学んでいるのだ。それも「お金とキャリア設計」「就職、転職、起業」「信用と借金」「投資」から「金融詐欺」「老後資産」などまで、生きていくうえで必要なさまざまなことが学びの内容に盛り込まれている。

「アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書」(アンドリュー・O・スミス著、桜田直美訳)  SBクリエイティブ
  • 日米の資産格差は「金融教育」の差(写真は、東京証券取引所)
    日米の資産格差は「金融教育」の差(写真は、東京証券取引所)
  • 日米の資産格差は「金融教育」の差(写真は、東京証券取引所)

日本の学校教育では機会なし

   しばしば指摘されるが、日米間では「収入」の差のほか 家計の金融資産構成にも際立つ違いがある。日本では「現金・預金」が半分を占めるのに対し、米国のその割合は12~13%。日本では「投資信託」「株式等」を合わせて13~14%だが、米国ではこちらが半分近い40~50%を占めるなど対照的になっているのだ。

   こうした違いが生まれる原因の一つは、「教育」にある。日本の学校教育では、「お金」についての教育機会はなく、近年になり、ようやく金融庁や日本銀行、金融機関の一部が経済の仕組みや株式市場、投資などについての学習ツールを提供ようになってきた。

   一方、米国では、日本とは国の成り立ちの違いもあって、個人の資産運用・管理について、消費者は人生の早いうちから学びを始める必要があるとの意識が強く、そのための教育の仕組みが整えられてきた。

   リーマン・ショック(2008年)後には、経済・金融の複雑化もあり、教育ニーズはさらに高まって、日米の「金融リテラシー」で違いが際立つようになっている。

   本書を通読すれば、日本ではなかなか学べないお金についての「必須事項」がわかってくる。

「若者のための資産管理・運用の実践ガイド」

   本書はタイトルに「教科書」をうたっているが、学校で使われている教科書ではない。原題は「Financial Literacy for Millennials(ミレニアル世代のための金融リテラシー)」。ミレニアル世代は、1980年前後から2005年頃にかけて生まれた世代。10代からデジタル環境になじんだ、初の世代に当たる。副題には「10代、大学生、若者らのための資産管理・運用のための実践ガイド」とある。

   現代ではインターネットなどのおかげで、若い消費者が学ぶための教材は豊富にあるが、豊富であるがために学習が迷走したり、急速に変化する経済状況の中では教材がすぐ陳腐化してしまったりする。それゆえ実践の場では、しばしば若者がどこから入っていいか戸惑うことがあるという。本書は、若者が迷わずに「お金を育てる」生活を始められるよう導くための、「指南書」として売り出された。

   著者のアンドリュー・O・スミスさんは、米国初の大学投資クラブの一つであるペンシルバニア投資連合の設立を支援したことで知られる弁護士。現在は、科学専門メーカーの最高執行責任者(COO)を務めている。投資ファンドで最高財務責任者(CFO)の経験もあり、本書では、資産管理では「枠外」だが、お金に関しては縁が深いと思われるトピックもカバー。キャリアプランニング、事業の始め方のほか、金融詐欺への言及ではパソコンやスマートフォンの安全な使い方にもふれている。

   主なテーマが「金融」であり、難い内容を想像しがちだが、文章は滑らかな語り口調で、翻訳も読みやすい。ところどころに配される、ゆる~いタッチのイラストが親しみを演出する。

   ちなみに、日本で2022年度から施行される新学習指導要領では、資産形成指導の一環として「投資信託」の授業が「家庭科」で導入される予定だ。

「アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書」
アンドリュー・O・スミス著、桜田直美訳
SBクリエイティブ
税別1500円