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就活生よ! 「自己分析」は時代遅れ...... いつまでも同じ「就活」ではダメだ

   近年、雇用や採用をめぐって、企業側から「転換期」を示唆する発言や動きが目立つ。その一つが新卒採用で、日本経済団体連合会は形骸化を理由に「就活ルール」の適用を、2021年春卒の就活生以降については廃止した。

   個々の企業では売り手市場を背景に学生の早期に囲い込み、内定直結のインターンシップが増える一方、新卒一括採用から通算採用に切り替える企業もまた増加している。

   デジタル化やグローバル化などにより社会が変化するなか、雇用をめぐる考え方も変わりつつある。企業側はそうした変化に応じて新卒採用もこれまでとは態度を変えて臨んでいるのだが、学生の就活は旧態依然のままだ。そう指摘して「シフトチェンジ」を促すのが、本書「新しい就活」だ。

「新しい就活」(佐藤裕著) 河出書房新社
  • 「新しい就活」では「自己分析」は不要
    「新しい就活」では「自己分析」は不要
  • 「新しい就活」では「自己分析」は不要

「古い就活」が招く雇用のミスマッチ

   著者の佐藤裕さんは、人材サービスのパーソルグループで新卒採用統括責任者を務めながら、同グループのパーソルキャリアが運営する若年層向けキャリア教育支援プロジェクト「CAMP」で、大学生を中心にキャリア教育を行っている。全国の大学で年間約200回の講演を通じ、これまで15万人以上の学生のキャリア・就活を支援してきた。

   本書は佐藤さんの初の著書。刊行の動機を、こう述べている。

「テクノロジーの進化やグローバル化の発展により、世の中が急速に変化しているのは皆さんもすでにお気づきのはずです。それにより、企業が求める人材や採用マーケットも変化し続けている。ところが、就活の方法だけは変わっていないという現実があります。私は今の時代にそぐわない就活、すなわち『古い就活』を今すぐやめるべきだと警鐘を鳴らしたいと思います」

   「古い就活」が問題なのは、ミスマッチが起こりやすいこと。従来の就活は、一般的に大学3年生の夏からスタート。インターンシップなどで、いくつかの企業について学びながらターゲットの絞り込み行い、4年生になって面接・選考を迎える。

   学生にとってはターゲットを絞り込んだつもりだが、「お客さま」扱いのインターンシップなどでは、現実の業務のことなど分かるわけがない。入社した後に実際のことを知り「こんなはずじゃなかった」と、すぐに辞めてしまう新入社員が多いのだそうだ。

「自己分析」など「終身雇用時代」の遺物だ

   「古い就活」のなかで、古さを代表するものが「自己分析」。自身の過去を振り返り、そこから夢や目標を強引に作り出すという作業だ。著者の佐藤さんは、「私からすれば、従来の自己分析は不要」ときっぱり。

   「終身雇用や年功序列が当たり前とされていた時代、40年同じ仕事をし続けなければならない時代であれば、過去の経験からつくられたアイデンティティや性格、今大切にしている価値観をしっかり分析して社会に出ていくことは有効」だった。

   だが、今の時代は「変動が激しく、終身雇用や年功序列は崩壊し、私たちは各々未来を予測しながら自分のキャリアを自由にデザイン」することが求められている。新しい就活での自己分析では、過去と未来を切り離して考えるべきなのだ。

   「古い就活」の就活生の多くは、「自己分析は過去を整理して未来に結びつけること」と教えられるという。友人の結婚式に参列して「ありがとう」と言われたことに感激しブライダルの仕事に就きたいと考えること。あるいは、人が好きだから人材業界に進みたいと思うことなどが、その例だが、実際のところ、視線が未来を向いておらず、「働く人と企業のミスマッチを生むだけ」の指導とさえいえるという。

未来を見越したキャリアデザイン

   先行きがますます不透明になる社会。時代の進み具合も早くなり、それに応じて企業の人材ニーズも変化する。就活生ばかりではなく転職希望者にとっても、希望する企業が先端的なほど、社会の動向や時代の変化に対応する力を備えていなければならない。だが、未来を見越したキャリアデザインは、日本では積極的に行われていないのが実情だ。

   米ギャラップ社が国際的に行った「熱意あふれる社員」をめぐる調査で、日本のその割合は6%だった。米国が32%で世界一。世界の平均は13%で、日本の順位は139か国中132位という。いわば、働くことを楽しんでいる会社員は日本では6%しかいないということ。未来志向のキャリアデザイン不在が関係していることが考えられる。

   学生たちが、入社後の実態と入社前の抱いていた理想との間に乖離を感じ、早期離職を招く「リアリティ・ショック」や、ミスマッチは、企業にとってばかりではなく、学生にもマイナス。就活生にも、就活そのものやキャリアデザインの考え方や在り方について変革が求められている。

「新しい就活」
佐藤裕著
河出書房新社
税別1400円