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新型コロナ対応への止まぬ批判 安倍首相の有事対応はどこで誤ったのか?(大関暁夫)

   巷では今、新型コロナ問題が大変な騒ぎになっています。これに関連して、政府や関係機関の対応につき、さまざまな批判も渦巻いています。有事対応は前例がないものであればあるほど対応が難しく、政府や関係省庁に批判が集まるのも、ある程度はやむを得ない側面をもっています。

   今回の予期せぬ有事対応に、いかなる批判があり、それを組織マネジメントにおける有事対応における他山の石とすべきか。そんな観点で、一連の動きをみてみます。

  • 新型コロナウイルスが猛威をふるっている……
    新型コロナウイルスが猛威をふるっている……
  • 新型コロナウイルスが猛威をふるっている……

対応の早い遅いは判断力と決断力の問題

   まずは、対応の早いか遅いか。これは判断力と決断力の問題です。

   中国は、社会主義国家だからできたということはあるにせよ、新型コロナウイルスの発生源である武漢をいち早く封鎖。住民の武漢市内と市外の移動を国として禁止しました。この対応の早さにより、武漢市内への発症者の封じ込めは、かなりの精度で実行され、中国における武漢市内とそれ以外の地域での感染者の発症数に、圧倒的な差が見られる結果に至ったのです。

   これに対して、日本政府の対応はかなり後手に回った感が否めませんでした。武漢市のある湖北省からの入国を拒否したのが2月1日。武漢市の閉鎖措置から1週間が経っていました。

   この時点ですでに米国、シンガポール、オーストラリアなどでは、中国全土からの入国を拒否していました。日本が中国全土からの入国に制限を付けたのは、それから1か月以上も経った3月9日。明らかに後手に回った感が否めず、その点に関して国内世論は政府の対応に疑問視する向きが強くでています。

   なぜ、このような判断になったのかですが、日本政府の考えは中国からの入国を完全に制限してしまった場合、インバウンド需要の大幅な減少や国内の企業関係者の日中の行き来などの経済的なマイナスの影響と、疫病流布の阻止とを天秤にかけた結果だったように思えます。そのために、どっちつかずの結論になってしまった感が拭えません。

   特に外部要因を主因とする先が見えない有事発生の場合には、思い切った舵取りによる問題の拡大抑制、早期終息策を最優先しつつ、推移をみて付随発生した内部的悪影響に対しては随時対応策を検討する、という流れが望ましかったのではないかと思われます。

対外政策と内部対応には違いがあって当たり前

   入国制限措置に関しては、もう一つ余計な問題を引き起こしています。中国と同時に行った韓国に対する入国制限措置です。ただでさえ微妙な関係にある韓国です。新型コロナの発生源である中国と、同時かつ同レベルの入国制限措置をとったことで、先方からは「敵意ある対外措置」と受け取られ対応措置を講じられることで、不要な軋轢を生じさせることになりました。

   韓国との関係は現政権下でこれまでも一進一退が続いており、その点を熟慮した対応の検討並びに、トップ間での事前の根回しが必要であったと考えます。

   新型コロナ関連の対外政策で、政府が後手後手に回っているとの批判をかわす意味からと思しき政策として、2月27日夜に突然発表された「小中高校の一斉休校要請」という措置がありました。

   実行は週明けの3月2日から。一部でこの対応を評価する声がある半面、あまりに突然の要請に、教育現場や市町村長、子育て世代の親からは大きな批判を招いてもいます。ここには、入国制限などの対外的な要因とは異なる問題があります。

   内部対応に関しては、やった場合、やらなかった場合それぞれについて、どのような効果や問題があるのか、ある程度容易に想像がつく問題でもあるのです。学校での感染が問題化していない状況下で、少なくとも数日間は各方面の調査を行なったうえで最終判断を下すという流れでも、問題はなかったように思えます。

   すなわち、すでに問題化して早期に決断すべき対外的対応を、どっちつかずのまま先延ばしし、問題化していない内部的対応を可能な調査を経ずに即決して急ぐというのは、有事対応のセオリーから外れていると言えます。

政府の「姿」を自社の有事対応のヒントとすべし

   新型コロナ関連では、感染の有無に関する医療検査も問題です。発熱などの症状があり、検査受診を希望していても検査が受けられないという人が全国的に相当数いることが明らかになっており、

「政府がオリンピック開催国という事情を踏まえた国際的な立場を考え、感染者の数を増やさないための作為的な現場指示があるのではないか」

と、言われています。

   真偽のほどは定かではありませんが、数字的な裏付けの隠蔽や作為的な操作を感じさせるような行動は、対外的な不信感とともに内部的にもリーダーに対する信頼感を損ない、有事対応の求心力を失わせることにつながります。有事対応時には、とにかく真実を包み隠さず、真摯な姿勢でありのままを伝えることが重要です。

   ほかにもクルーズ船の乗客の扱いなど、今回の新型コロナ問題への対応には、さまざまな有事対応批判があるわけですが、前例のない有事対応に完璧を求めることは不可能です。今回のような時にこそ、有事対応に対する失敗や批判の数々を知っておき、いざという時どうすべきなのか自社対応のヒントとしてストックしておくことは滅多にないチャンスでもあります。

   そんな目で政府や関係機関の対応を注視しつつ、早期の新型コロナ問題の沈静化を、心より祈る次第です。(大関暁夫)