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日本の管理職は「アマチュア」ばかり? プロにならないとグローバル化のなかでは生き残れない

   日本企業による海外企業のM&A(企業の合併や買収)が盛んになっている。かつての金融危機の時代には、経営再建のために海外資本の軍門に下る企業があったが、近年はグローバル化の波に乗って、多くの日本企業が国内から海外に市場を求めて進出。M&Aはその有効な手段の一つとなっている。

   ボーダレスなM&Aは今後ますます増えるとみられるが、その中で日本式ビジネスの進め方がうまく機能しないことが、海外企業との経営統合をめぐる、新たな課題となっている。

   本書「日本人が知らないプロリーダー論」は、グローバル化するビジネスシーンで欠かせない存在となっている、MBA取得者らの「プロリーダー」について解説。その中で、日本の管理職は世界では「アマチュアリーダー」に過ぎないと喝破し、プロ化の必要性を説く。「部長・課長・チームリーダーなどリーダーを目指す人の必読本」とうたう。

「ハーバード・MIT・海外トップMBA出身者が実践する 日本人が知らないプロリーダー論」(小早川鳳明著)PHP研究所
  • 買収はうまくいったけど、経営統合はなかなか…
    買収はうまくいったけど、経営統合はなかなか…
  • 買収はうまくいったけど、経営統合はなかなか…

次期社長の身だったが...

   著者の小早川鳳明(こばやかわ・ほうめい)さんは、経営改革、企業再建の専門家。外資系のコンサルティング会社を経て、現在は、国内外の企業の経営改革、再建のほか、企業買収の業務に従事している。

   これまで50社以上とかかわり、役員・部門長100人以上と仕事をしてきたという。「私が共に仕事をしたハーバードはMIT(マサチューセッツ工科大学)などの海外トップスクールでMBAを取得したリーダーは皆、機敏に組織を動かし経営者の手足となって活躍してきた」。その経験を生かして上梓したのが本書だ。

   企業の中でグローバル化をけん引しながら、たくましく素早い仕事ぶりを見せるプロリーダーたちが、ビジネスの最前線で活躍をするのとは対照的に、根回しや機が熟すこと待つことを得意とする日本型のアマチュアリーダーたちが、時代の変化についていけず淘汰されるケースも増えているという。

   小早川さんは、自らがかかわった経営改革・再建、M&Aのなかで、自ら引導を渡したこともあると述べる。

   「会社やビジネスパーソンを取り巻く環境は大きく変化し従来のリーダー論は通用しなくなってきた」にもかかわらず、他人事のように考えている人が少なくないと小早川さん。本書ではまず、実例を示して、そうして自覚なしにアマチュアリーダーでい続けることの危険に警鐘を鳴らす。

   たとえば、有名私大から新卒で大手ソフト―メーカーに就職したAさん。出世コースに乗り、本社勤務、海外駐在を経て、1年前、48歳でグループの中核子会社の事業統括部長に就いた。ここでさらに人脈を築くなどして、50歳になったら本社副社長、さらに3年後には社長に昇格するというのが、社内の大方の見方だったが、社長になるどころか、プロ化できずにチャンスを見逃したため、転職先を探す身になったしまった。

「根回し」の日本流にこだわるあまり......

   社内での歩みは順調なAさんだったが、勤務している中核子会社は不振。営業赤字が5年間続き、資金繰りも苦しくなっており、Aさんは業績回復のための中期経営計画の作成に取り組んでいた。そのさなか、Aさんの中核子会社は中国企業への売却が決定。Aさんは重要人材として売却対象に含まれており、M&Aの知らせの3か月後に売却は完了した。

   これまでの社長は解任され、中国人の新社長が就任。米国でMBAを取得し、欧米の数々の企業の経営改革・再建を成し遂げた、グローバル経験豊富な、プロリーダーの人物だった。新社長はAさんに会社の事業状況を尋ね、新しい中期経営計画の作成を依頼するなど重要人物とみなしていたという。

   ところが、新社長就任から約2か月後に異変が起こった。新社長はAさんの業務について「成果が出ていない。仕事のスピードが遅い」などと述べ、Aさんに対し、製造ラインの作業をするか、退職するかのどちらかを選択するよう迫ったのだ。

   Aさんは中期経営計画の作成依頼を受けてから、社内の各部の部長に声をかけるなど時間をかけて新経営方針への合意形成を目指したり、急な環境変化に対する部下の心のケアに時間を割くなど、M&A前と同じように根回しを重視。中国人新社長にも直接「計画作成着手の前に、まずは、新経営方針を社内の各部と合意形成させてほしい」と訴えていた。

   新社長の主張はこうだ。

「新経営方針は我々トップが決めるものであり、各部長へ伺いをたてるようなものではない。我々の新経営方針に反対する部長がいるなら、その人たちには会社から去ってもらえばいい」

   Aさんは社長のこの指示には従わず、反対する部長に丁寧な説明を行うなど根回しを続けた。そして、しびれを切らした新社長からの退職勧告。一時は本社の次期社長に擬せられたAさんは結局、退職の道を選び転職先を探すことになった。

アウトバウンドM&Aでもプロ不足

   グローバル競争の激化により企業を取り巻く環境が変化した現代では、Aさんが経験したようなことは誰にでも起こり得るという。「あなたを取り巻く状況が変化したとしても、どんな環境でも常に正しくチームを動かし、成果を出せるチームリーダーとなることが、新時代のリーダーには求められる」と小早川さん。

   近年は、日本の会社が海外企業の傘下になるだけではなく、「アウトバウンドM&A」と呼ばれる、日本企業による海外でのM&Aが増加しており、M&Aコンサルティング会社の調べによると、2018年の日本のM&A総投資額は過去最大の2640億ドルで、そのうちアウトバウンドM&Aは約1680億ドルと6割を超えた。

   この動きは、人口減少で国内市場が縮小するなかで、海外でのビジネス拡大を狙ってのもの。ところが、せっかくアウトバウンドM&Aを実現させても、経営統合がなかなかうまくいかず、多くの企業で買収の効果を期待どおりにあげられていないのが現状という。

   その原因の一つは、プロリーダーの不在だ。国内でのM&Aなら、日本の企業同士で「あうんの呼吸」で意思疎通を図りながら、とくに急ぐことなく統合が進められていくのが一般的。だからプロリーダーはいらないかもしれないが、海外M&Aではそういうわけにはいかない。

   海外ではたいてい、買収先の企業に対して素早く事業の見直しを迫り効率化を図るもの。相手先の企業はそのつもりで待っているところに日本の独特のモードが持ち込まれて腰砕けとなり、マネジメントもオペレーションもうまくいかなくなるというわけだ。

   本書では、日本人の「アマチュアリーダー」2人が勤務するメーカーを、香港の競合メーカーが買収し、米国人と英国人の「プロリーダー」2人が、新しい経営幹部として乗り込み、それぞれの経営プロジェクトへの取り組みを通して、プロリーダーの在り方や、どのように企業の経営再建を進めればよいのかが書かれている。

   「プロリーダーは新聞を読むな。ほかの人同じ情報は不要」とし、その代わりに読むべきものを紹介するなど、ディテールにまで踏み込んだ指南、解説が随所にあり、一冊を通して解説は非常に具体的でわかりやすい。

「ハーバード・MIT・海外トップMBA出身者が実践する 日本人が知らないプロリーダー論」
小早川鳳明著
PHP研究所
税別1500円