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GAFAに挑む!「情報銀行」 個人情報を運用して利益を得るビジネスモデルとは?

   グローバルなビジネスの潮流の中で、日本のデジタル化やIT化は、米国や中国にはとても及ばないレベルなのだという。

   その最たる例の一つが、データの活用。米中の巨大IT企業では、顧客のデータを収集、蓄積、分析、検討して利用する仕組みをビジネスモデルに組み込んで成長の歩幅を広げているが、日本では個人の生活と密接な分野の個人のデータは、多くの場所に分散されて効率的に管理することができていなかった。

   このことを問題視して、国内でデータ活用を推進するための方策として考えられたのが「情報銀行」。2019年から認定が始まり、20年にはメガバンクや大企業が加わって、新しいビジネスモデルの萌芽になるとみられている。

  • 分散している「個人情報」を「銀行」に入れて運用…
    分散している「個人情報」を「銀行」に入れて運用…
  • 分散している「個人情報」を「銀行」に入れて運用…

分断している情報を「共有化」する

   GAFAと呼ばれる米国の巨大IT企業4社(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、インターネットで提供しているサービスの利用をデータ化し、蓄積したものを分析、検討して新たなサービスの展開を効率化。収益を拡大しながら巨大企業に成長した。

   デジタル化、IT化が進んだことで可能になったこうしたデータ活用を、国レベルの事業でもできるようになれば、多くの人が幸せになる社会が実現するだろうと考えられて船出したのが「情報銀行」だ。

   データ活用といっても、こちらの活用の主役は、わたしたち「個人」。たとえば、健康診断の情報と「かかりつけ医」の診断情報など、同じ個人の健康情報にもかかわらず分断されているものを共有できるようにする。それをコントロールできる権利を個人に帰属させたうえで医療に使えるようにすれば、医療がより効果的になる可能性があり、国レベルで医療費の効率化が図ることができるようになる。

   わたしたちの購買情報や金融資産の情報も同じ。GAFAに独占されているわけでもないのに、その方法がないために利活用できない。銀行で資産を運用できるように、パーソナルデータを「情報銀行」を使って利活用できる態勢をつくろうというのが狙いだ。

データ提供のインセンティブになるものは......

   総務省と、情報銀行の認定団体である一般社団法人、日本IT団体連盟(IT連)が2018年10月に「情報銀行の認定に関する説明会」を開催。会場には、当初の想定を大幅に超えて、約200社・400人が詰めかけた。

   ビジネス界の関心の高さが示されたもので、その後のテンションの高まりを予想させたという。

   19年7月に行われた認定証の授与式では、三井住友信託銀行とイオングループのフェリカポケットマーケティングが、初の「認定取得済み情報銀行」に。12月には、みずほ銀行とソフトバンクのフィンテックに関する合弁会社、J.Score(ジェイスコア)が認定を受けた。

   20年には、三菱UFJ信託銀行、大日本印刷、電通など日本の代表的企業が参入、参入を表明しており、情報銀行が産業として大きく動き出すとみられる。

   情報銀行は、個人に関するデータを集約するPDS(パーソナルデータストア)というシステムを使って、データの主である個人からの「包括的な同意(信託)」を基に第三者提供などを行うデータ活用サービス。資産運用を行う信託銀行のように、個人から情報を預かって第三者に提供して運用してもらい、その利益を個人に還元する。

   情報銀行が利用者を集めるためには、魅力的な還元や便益を提供する必要がある。多くの情報銀行では、データ提供の対価として企業からポイントや金銭、キャンペーン情報を提供する仕組みを想定している。

   だが、多くの実証実験では「ユーザーの多くは、金銭やポイントの提供にはあまり魅力を感じておらず、データ提供のインセンティブとはなりにくい」との検証結果が出ている。

   一方で、アーリーアダプター層では、「金銭的メリットより『斬新な体験』、『社会に貢献している実感』などに魅力を感じる傾向」があることがわかった。情報銀行のデータ分析はまだ続きそうだ。

   著者の3人は、デジタルアセットマネジメントを行うAOSデータ(東京都港区)などで構成するIT系企業のグループ、AOSグループの経営メンバー。佐々木隆仁氏はグループ代表、春山洋氏はAOSデータ社長、志田大輔はグループCTO(最高技術責任者)。

   本書は、「情報銀行」が新局面を迎えるのに合わせて出版されたタイムリーな一冊。これまでの歩みや意義、参入企業や考えられるサービスについて、わかりやすく解説している。

「My Data エコノミー パーソナライズと情報銀行」
佐々木隆仁、春山洋、志田大輔著
日経BP
税別1500円