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【襲来!新型コロナウイルス】ハンコ押すために出社する人多すぎ! 安倍さん、テレワーク推進なら「ハンコ議連」会長をなぜIT大臣に任命?

   安倍晋三首相は新型コロナの感染拡大防止のために、企業に在宅ワークを進め、出勤者を7割減らしてほしいと呼びかけている。しかし、テレワークが徹底しない理由の一つが日本の「ハンコ文化」だ。

   ハンコを押すためだけに出社を余儀なくされる人が、意外に多いようで、インターネットネット上では、

「安倍さんが率先してリーダーシップを発揮して、まずハンコ文化から一掃させなくてはダメなのに、真逆のことをしている」

との声まで上がっている。

   いったい、どういうことか――。

  • 「ハンコ」のためだけに出社する(写真はイメージ)
    「ハンコ」のためだけに出社する(写真はイメージ)
  • 「ハンコ」のためだけに出社する(写真はイメージ)

IT社長がハンコ押すのに出社なんて......

   ハンコを押すためだけに出社する経営者を紹介したのは、2020年4月11日のNHKニュース・オンライン版「在宅勤務なのにハンコを押すために出社...」だ。

   それによると、東京都品川区のIT企業「アステリア」では、平野洋一郎社長が、ほかに誰もおらず照明が消された薄暗い社内で、黙々と契約書に社長印を押していた。

「社内決裁をすべて電子化したりして、70人の従業員のほぼ全員を在宅勤務に切り替えた。取引先に対しても電子契約への切り替えを依頼し、8割の企業を説得できたが、まだ2割の企業では契約書に印鑑が必要なため4人の社員が定期的に出社し、書類を作成して印鑑を押す業務を続けている。社長自身も印鑑を押すため週に1度、出社せざるをえない」

というのであった。

   「IT会社なのにハンコのためにテレワークができないとは」とNHKは指摘し、電子契約の運用に関わる日本情報経済社会推進協会の話として、国内では電子契約を導入している企業は43.3%にとどまる、と報告している。

   フジテレビ系の朝の情報番組「とくダネ!」(4月14日付)もハンコを押すためにだけ出社する経営者や管理職たちの姿を取材。今回のテレワーク、オンライン化の促進のため、「電子捺印」を普及させようとする企業が急増。「電子印鑑ソフト」を開発した「シャチハタ」(シヤチハタ株式会社、名古屋市)に問い合わせが殺到していると伝えた。

   番組で、同社のシステム開発部・小倉隆幸部長は、

「3月中の問い合わせは1万3500件でしたが、4月は10日間余りでもう4万3000件をカウントしています」

と語った。

   ひと月の間に約10倍ものペースで伸びているわけだ。

ハンコを押さないと物事が動かないって、いったい何世紀の話?

   ネット上でも、わざわざハンコを押すためにだけ出勤する理不尽さについて、怒りの声が聞かれている。

「在宅勤務指示が出ているのに営業に頼まれた書類の押捺が必要な時は、結局上長の出社日に合わせて出勤させられる。在宅勤務期間に入ってから押捺のために何度出勤したか...。赤い丸は命より大事なようだ」
「うちの会社が古いのかなあ。契約書は、紙にハンコ押して出しているし、取引先からも紙にハンコ押してくるので、そこにハンコ押して返します。以前、改善を提案したけど却下され(=取引先に手間かけさせたくない)、今回の件でまた提案したけど、却下です。あと、役所に出す書類。出社してハンコ押して、社員の自宅に郵送して、社員が出しに行くということをやっています」
「契約書だけじゃないんだよ。契約書の締結なんて、全仕事量の1%以下。提案書や稟議書、仕様書などの作成をチームとしてやっているし、それぞれの上長のハンコが必要だから、テレワークはなかなか難しいんだよ」

   これに対しては、こんな批判の声が。

「ハンコ1つ紙に押さないと物事が動かないって、いったい何世紀の話だ。こういう実のないルーチンワークを改善しようとする気のないことが、今の日本をダメにしている。3Dで簡単に偽造できるハンコよりも筆跡のほうがましだ。タブレットもあるのだから、WEBサインで十分じゃないか」
「社内決裁や契約書締結に朱肉での押印を要求するような経営者は早く退いて後進に道を譲るべき。譲りたくないならデジタル技術を学んでほしい」

   そして、こう指摘する声が非常に多かった。

「本来、役所が、特に中央官庁が率先してハンコ文化をなくして、欧米並みのデジタル化を推進すべきなのに、安倍内閣のIT推進担当大臣が印鑑業界の代弁者になって、『ハンコ文化を大事にしよう』と公言しているのだから、お話にならないよ」

ハンコ業界の代弁者がデジタル化推進のIT担当相とは......

「ハンコ議連」の会長でもあると竹本直一IT相(2019年10月撮影)
「ハンコ議連」の会長でもあると竹本直一IT相(2019年10月撮影)

   これはいったいどういうことか――。2019年9月に発足した第4次安倍内閣で初入閣を果たし、IT担当大臣に就任した竹本直一氏のことだ。

   竹本直一氏は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(通称:ハンコ議連)の会長を務めている。「ハンコ議連」には逢沢一郎氏、石原伸晃氏、竹下亘氏、額賀福志郎氏、船田元氏などの自民党派閥領袖クラスの大物ら30余人が名を連ねている。

   じつは、政府は「ハンコ文化」の撤廃を進めていた。2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、行政サービスの100%デジタル化に向けた「デジタルファースト法」の成立を目指すとされた。

   デジタルファースト法は2019年3月に成立したが、一番大事な部分が骨抜きにされた。法案には当初、法人の設立などに必要な印鑑の届け出義務をなくす案が盛り込まれていたが、印鑑業界などの猛反発を受け見送られたのだ。「ハンコ議連」は、その急先鋒と言われた。安倍首相は、その代表者をこともあろうIT担当大臣に任命したのだった。

   当然、竹本直一氏の就任記者会見では、記者団から「ハンコ文化」の維持者としての立場と、「ハンコレスのデジタル化」を推進する政府の責任者としての立場をどうするのか、厳しい質問が集中した。

   朝日新聞(2019年9月13日付)「IT相はハンコ議連会長『印鑑とデジタル、対立せず』」は、こう書いている。

「日本の商慣行に欠かせない印鑑と、押印のいらないデジタル決済は両立するのか――。竹本氏は双方の立場は『ベクトルが反対方向では?』と記者から質問された。竹本氏は『印鑑とデジタル社会を対立するものととらえるのではない。工夫はいろいろできる』と反論。『印鑑を業とする人たちにとっては、死活問題だから待ってくれという話になっている』と述べ、議連会長としての立場を強くにじませた」

   そして現在、「ハンコ文化」の解消が進まないことがテレワークの妨げになっていることへの責任を改めて記者団に問われた。朝日新聞(2020年4月14日付オンライン版)「IT相『しょせんは民間の話』ハンコのデジタル化」によると、こう答えたのだった。

「竹本直一IT相は14日の記者会見で、日本のハンコ文化がテレワークの妨げになっているとの指摘について、『民・民の取引で支障になっているケースが多い』との認識を示した。ただ具体的な対応策については『民間で話し合ってもらうしかない。しょせんは民・民の話だ』と述べるにとどめた」

   こういう人物をIT担当大臣に任命した責任を、安倍首相はどう感じているのだろうか。

(福田和郎)