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【襲来!新型コロナウイルス】緊急事態宣言全国に拡大! 安倍首相のホントの狙いは「公明党のいいなり」隠しだった? 主要紙で読み解く

   安倍晋三首相は2020年4月16日、新型コロナウイルスの感染急増を受け、全47都道府県に緊急事態宣言を発令した。これまで発令済みの東京都などの7都府県に北海道など40道県を対象に加えた。

   期間は5月6日まで。大型連休に向けて全国的に人の移動を抑制し感染拡大を抑え込む。しかし、別の狙いもあるという。いったい何か? 4月17日付の主要新聞の朝刊を読み解くと――。

  • 非常事態宣言の全国拡大をした安倍首相のホントの思惑は?
    非常事態宣言の全国拡大をした安倍首相のホントの思惑は?
  • 非常事態宣言の全国拡大をした安倍首相のホントの思惑は?

麻生財務相や岸田政調会長のメンツをつぶさないために

   緊急事態宣言の全国拡大に隠された安倍首相の思惑とは何か――。朝日新聞「時々刻々:緊急事態9日後の急転 『経済に打撃』政府内は当初否定的」が、こう伝えている。

「首相の政治決断の背後に見え隠れするのは、公明党からの圧力を受けて余儀なくされた(減収世帯向けに30万円から国民一律に1人あたり10万円への)現金給付をめぐる政策変更だ。政権幹部はこの政策変更を『宣言を全国に拡大するから一律10万円になった』と説明したが、額面通り受け取る与党議員は少ない。自民党幹部は『公明党に言われたからやりますっていうわけにはいかない』と語り、緊急事態宣言拡大を、政策変更の『口実』にしたとみる」

   この政策変更とは、4月16日に公明党の山口那津男代表が安倍首相に直談判して、収入が減少した世帯に限って30万円を支給する案を撤回させ、全国民に一律1人あたり10万円を支給する案を、丸飲みさせたことを指す。

   このため安倍首相は、麻生太郎財務相や岸田文雄自民党政調会長らに補正予算の組み替えを指示することになったが、そのままでは麻生氏や岸田氏らのメンツをつぶすことになる。そこで、公明党の要求に屈したわけではないという「大義名分」が必要になり、緊急事態宣言の全国拡大が「政治利用」されたというのだ。

   宣言を全国に拡大するためには、基本的対処方針諮問委員会の専門家たちの「了承」が必要だが、委員たちは急きょかき集められ、その意見は無視される形になったという。

「諮問委員会の後、委員からは(感染者が出ていない岩手県を含むことに)なんで47都道府県になるのか。基準があるなら『そうだな』となるけど、唐突だった」(日本医師会の釜萢敏常任理事)

と、驚きの声があがったそうだ。

   毎日新聞「焦点:緊急事態宣言 対象拡大『政治判断』 補正組み替えの『大義』」も諮問委員会の委員たちの不満を、こう書いている。

「(宣言の全国拡大という)方針変更は諮問委員会にとっても唐突だった。ある委員への連絡は開始3時間前だった。委員会開始後に職員が慌てて資料を配布するドタバタだった。委員の一人は『全国に広げる議論もしていない。今までの議論はなんだったのか』と漏らす。別の委員は『政治判断だ』と突き放した」

   そして朝日新聞と同様に、こう書いている。

「政府は一律10万円の現金給付を盛り込むため、補正予算を組み替える方針を公明党に押し込まれた形になった。閣議決定したばかりの補正予算案の組み替えは『首相の政治責任も問われかねない』(自民党幹部)事態だ。政府与党内の理屈ではなく、『大義』が必要となる」

   自民幹部はこう話す。

「『(コロナの)局面が変わって宣言の範囲を全国に広げた。フェーズが変わった。だから経済政策も変える。総理がそう判断したということだ』。野党中堅議員は『10万円のための言い訳作りでしょ。もうメチャクチャだ』と呆れた様子だった」

「医療崩壊を防ぐためにオールジャパンで戦わないと」

現金10万円給付の「大義名分」つくりが目的?
現金10万円給付の「大義名分」つくりが目的?

   しかし、朝日新聞、毎日新聞ともに安倍首相自身の政治的思惑はどうであれ、今回の非常事態宣言の全国拡大については、基本的に反対はしていない。それぞれ外部の専門家の意見を紹介して、医療崩壊阻止のためにはやむを得ない面もあると認めている。

   新潟大学の斎藤玲子教授(公衆衛生学)は、「地方は元々病床数が少ないので、中核的な病院で院内感染が起これば一気に受け入れ態勢が崩れる。全国一律に警戒感を高めることは意味がある」と、朝日新聞にコメントを寄せた。

   また、大東文化大学の中島一敏教授(感染症疫学)も、「最初の緊急事態が宣言されて以降、患者が全国的に増加傾向にあり、対象地域を拡大する判断は妥当だ」と、毎日新聞に答えている。

   一方、読売新聞「スキャナー:GM感染拡大阻止 緊急事態、人の移動最小限に」は、あくまで5月の大型連休が終わるまでに人の移動を最小限にとどめるための狙いであることを強調、4月16日現在で感染者ゼロの岩手県まで含めたのは、こんな危機感が政権にあるからだとした。

「閣僚の1人は岩手県の観光名所・小岩井農場を挙げ、『県外からかなり人が訪れている』と指摘。政府は結局、『遂一追加するより、まとめて一気にやった方がいい』との判断に傾いた」

   そして、諮問委員会の委員の中にも「宣言の全国拡大」を認める意見もあったとして、こう書いている。

「ある委員は会議の終了後、『オールジャパンで対応しなければいけない』と強調した」

知事たちの苦悩「うちは東京都のようにできません」

各自治体は飲食店などへの休業補償で悩む
各自治体は飲食店などへの休業補償で悩む

   ともあれ、緊急事態宣言が全国に拡大されたことで、各県の知事は対応に迫られることになった。飲食店などに営業の自粛を求めても、東京都のように休業に対して協力金を支払う余裕がある自治体は稀だ。日本経済新聞「『全国に網』自治体対策急ぐ 休業要請には温度差」は、そうした知事たちの戸惑いと苦渋のコメントをこう紹介している。

秋田県の佐竹敬久知事「在宅勤務を求めようにも(うちの県では)テレワークの環境も整っていない。感染拡大地域など県外からの流入を抑えるのが主眼になる」
新潟県の花角英世知事「県民にお願いしてきたことを急に変えなければいけないことが今、私には理解できない」
鳥取県の平井伸治知事「鳥取と東京は違う。直ちに休業要請につながるかというと、そうとも言いきれない」
愛媛県の中村時広知事「朝令暮改という言葉が浮かぶ。慌てて変えるのはどうかと思う」
山形県の吉村美栄子知事「政府が出せば効果がある。知事が独自に宣言を出しても様々な規制があった」

   ......などなどだ。

   そして、吉野直也政治部長のコラム「政治はスピードと責任を」を掲載。

「現金給付は国民に一律10万円となった。緊急と銘打ちながら経済対策の議論に1カ月以上もかける。10万円と固まったなら、それこそ煩雑な手続きを省いて少しでも早く国民に届けるのが政治の責任だろう。コロナのえたいの知れない恐怖や不安を和らげるのは迅速な政策しかない」

と訴えたのだった。

   日本経済新聞は、非常事態宣言の全国拡大自体が「遅すぎた」として主要紙の中では一番厳しく批判している。社説「ドタバタ劇を演じている場合ではない 地方への感染拡大を防ごう」では、こう書いている。

「大型連休に人の移動が活発になることはわかっていたことだ。なぜ最初から(7都府県ではなく)全国を対象にしなかったのか。外出自粛を早く実施するほど、感染拡大を止める効果は大きくなる。ちぐはぐな対策では、感染はだらだらと続きかねない。
感染状況は地域によって異なる。商業施設などへの休業要請は知事が総合的に判断すべきだ。学校の再開もこれまで通り、地域の判断に任せるのが望ましい。今回の決定に戸惑う地域もあろう。政府は正確な情報や判断の根拠を示すことに務めるべきだ」

(福田和郎)