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【決算ウォッチ】日産、6712億円巨額赤字のショック!「脱ゴーン」を急いでコロナで火だるま、救世主は現れるか?

   日産自動車は、2020年3月期連結決算で最終利益が6712億円という巨額の赤字に転落したと、5月28日に発表した。

   赤字額は、前会長のカルロス・ゴーン被告が再建に大ナタをふるった2009年3月期に迫る水準だが、今回はその時より状況が悪い。

   その「脱ゴーン」を急いださなかに新型コロナウイルスのパンチを食らった形だが、日産の奇跡のV字回復は再び起こるのだろうか。5月29日付の主要新聞の論調から読み解くと――。

  • 日産自動車の内田誠社長(2019年12月、就任時のプレスリリースより)
    日産自動車の内田誠社長(2019年12月、就任時のプレスリリースより)
  • 日産自動車の内田誠社長(2019年12月、就任時のプレスリリースより)

役員会のグローバル化が逆に改革の足を引っ張った?

「2年前から拡大路線の転換を図ってきたが、利益を出していくのが困難にになった。失敗を認め、過度の販売台数を狙わず、日産らしさを取り戻す。正しい軌道に修正し、構造改革を一切の妥協なく断行していきたい」

   日産自動車の内田誠社長は、5月28日のオンライン会見でこう述べた。内田社長が発表した2020年3月期連結決算は、純損益が6712億円の赤字(前期は3191億円の黒字)だった。赤字転落は11年ぶりで、損失額は2000年3月期に次ぐ過去2番目の規模だ。販売不振に加え、前会長のカルロス・ゴーン被告の体制下で膨張した過剰な生産能力の削減など構造改革費用が収益を圧迫した。

   立て直しのため、スペインとインドネシアの海外2工場を閉鎖し、生産能力を20%削減するなどリストラを加速するという。すでに国内でも5工場の閉鎖などを決めている。ただ、いったい何人リストラするのかという質問には、「公表を控えたい」と明言を避けたが、これまでは「1万2500人の人員削減を行う」と発言したこともある。

   コロナ禍の中で厳しい状況とはいえ、自動車大手7社の3月期連結決算で赤字に陥ったのは日産と、その日産と連合を組む三菱自動車(257億円の赤字)の2社だけだ。

   別格のトヨタ自動車は2兆761億円の最終利益(前年比10.3%増)を計上。ホンダ、スズキ、マツダは新型コロナの感染拡大による需要減少や部品供給網の混乱などで大幅減益となったが、何とか最終利益は黒字を確保した。

   特にホンダは中国・武漢に工場があり、長く生産停止に追い込まれたのが響いたが、それでも黒字を維持できたのは、二輪部門が好調で、ベトナムやフィリピンでの販売台数が過去最高を更新したからだった。

   そんななか、なぜ日産は巨額の赤字に陥ったのだろうか――。「世界戦略の見誤りと果断に決断することを怠った役員の情実感覚」と指摘するのは、読売新聞だ。「日産脱ゴーン急ぐ 拡大路線を転換 欧州工場閉鎖」の見出しの記事で、

「日産が赤字転落に陥ったのは、需要に見合わない過剰な設備を抱え、世界での生産能力と販売実績に200万台以上の差があったことが最大の原因だ」

と指摘する。

   具体的には、閉鎖準備を進めるスペイン・バルセロナ工場は、欧州で2番目の主力工場だが、年20万台の生産能力に対して、5万5000台しか生産していなかった。7~8割が理想とされる工場稼働率が3割程度だったわけだ。なぜ、放置していたのだろうか。読売新聞はこう続ける。

「日産が、不採算が続く欧州事業の改革を十分に進められなかったのは、グローバル化が進む同社の役員の中で多数を占める欧州出身者の反発に対する懸念があったからだ。(日本人)幹部の多くも欧州で事業経験があり、『手をつけなければならない地域だが、反対を押し切るほどのきっかけがなかった』(西川広人・前社長)という『聖域』だった」

   新型コロナの感染拡大はくしくも欧州改革の追い風になったという。低迷する事業の再建を任されたアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO・編集部注:インド人技術者、実業家)ら幹部が欧州を視察、提携するルノーとの相互生産などによるコスト削減が可能だと判断し、中期経営計画にネックになっていたスペインの工場閉鎖を盛り込むことになったのだ。

新型車を開発せずに旧車を値引き販売、ブランドに傷が

カルロス・ゴーン被告(2014年撮影)
カルロス・ゴーン被告(2014年撮影)

   カルロス・ゴーン被告が行ってきた拡大路線の「後遺症」という日産独自のお家の事情を指摘するのは、朝日新聞の「『ゴーン路線』引きずり窮地」という記事である。

「内田誠社長は記者会見で新型コロナの影響に加え、『日産固有の事情』にも言及せざるを得なかった。拡大志向のゴーン前会長が長年率いてきた日産は近年、新興国を中心に生産能力を増強する一方、クルマのモデルチェンジを控え、古い車種が増えた。それを値引きして売る無理な販売活動を続け、ブランド価値は地に落ちた。そこへ前会長が逮捕される『第二のゴーンショック』が加わり、業績不振に歯止めがかからず、悪化した」

というのだ。

   販売低迷に陥ったきっかけは、新車開発費を抑え、魅力あるクルマを造る力が落ちていることが背景にある。2020年3月期の販売台数は、日本で前年度より10%減、米国14%減、欧州19%減。主な地域で2ケタ減となり、唯一好調だった中国でさえ1%減と下落に転じたのだ。世界全体では11%減の493万台に落ち込んだ。

   日本経済新聞「日産、改革遅れコロナ直撃 財務脆弱、日仏連合カギ」も、ゴーン被告の拡大路線で膨らんだ生産体制を、新型コロナウイルスの影響による需要減が直撃した問題を主に財務面から明らかにしている。

「ゴーン被告が進めた拡大路線の修正に手間取っていたところに新型コロナが直撃、抜本改革を迫られた。(ゴーン前会長による)前回までの改革ではコスト削減と海外成長でV字回復につなげた。今回は止血の先の成長に欠かせない財務体力に不安が残る。(ルノー、三菱自動車との)日仏3社連合をうまく生かせるかがカギになる」

と指摘した。

   日本経済新聞も、読売新聞と同様に、業績悪化の原因は「コロナより事業戦略の失敗」と説明した。

「新興国で生産を増強したが稼働率が低迷した。米国での値引き販売の傾斜でブランド力が落ちた。2018年のゴーン被告逮捕による経営の混乱で時間を空費した。北米での販売奨励金の見直しが進まず、売れ筋の多目的スポーツ車(SUV)に新型を投入できなかった。仏ルノーとも経営の主導権を巡って対立した...。」

   結局、あれやこれやが重なって、財務体力を消耗してしまった。資金力は他社に比べ、見劣りする。2020年3月期末で有利子負債は自己資本の1.9倍と、1倍以上も他社より高いのだ。これはリーマン・ショック前の2008年3月期より悪い数字だ。

   日本経済新聞が続ける。

「今後の資金調達に不安が残る。格付け会社ムーディーズ・ジャパンは日産を格下げ方向で見直している。格下げされれば日銀の社債購入対象外になるとみられる。『大きな規模の起債は難しい』(銀行系運用会社)との声がある。弱い財務基盤を補完するのは仏ルノーや三菱自動車との3社連合だ」

頼りのルノー、三菱連合も足元に火だね、じり貧状態に

   さて、その日仏3社連合は大丈夫なのだろうか。産経新聞の「日産反攻にコロナの壁 12新車投入目標、体力に課題」が、こう伝える。

「当面の苦しさをしのぐ後ろ盾が企業連合だ。5月27日発表の連合の分業計画は3社間の『生産の集約』を明記した。ただ、効果を迅速に出せるかは不透明だ。3社の車種の半数を分業に置き換えるのは5年後が目標で、早期の収益貢献は期待しにくい。まずは単独で固定費削減を進めるしかない」

というありさまだから、大丈夫だろうか。

   前出の読売新聞が、3社それぞれが苦戦しており、「3社連合」そのものが危機的状態だと、こう伝えている。

「世界的に自動車需要が減るなか、ライバル社との競争は激化しており、3社連合の先行きは不透明だ。3社の世界販売台数は、2017年上半期に独フォルクスワーゲン(VW)を抜いて初の首位に踊り出た。だが、販売が伸び悩み、2019年にはVW、トヨタ自動車に次ぐ3位に落ち込んだ」

   ゴーン被告の逮捕後、世界の自動車業界は合従連衡が進み、3社連合の地位はますます下がった。さらに新型コロナの影響で状況は一変。日産と経営統合をめぐった主導権争いをしていたルノーは、足元の経営状況に火が付いた。5月29日、1万5000人の人員削減を発表したほどだ。

   早期の業績回復を優先せざるを得なくなり、資本統合を棚上げした。同社のスナール会長は5月27日の会見で「統合はまったくない」と強調した。

   三菱自動車も日産同様、赤字に転落している。読売新聞は、アナリストのコメントを紹介しながら、こう結んだ。

「『(3社連合の目的が)短期のコスト削減策が中心では、3社はジリ貧だ。中長期で利益を上げる策が見えない』(東海東京調査センター・杉浦誠司シニアアナリスト)との指摘もある。『ゴーン後』の3社の正念場が続いている」

(福田和郎)