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日米で空前の「暴露本ブーム」! 標的となったトランプと百合子は選挙で勝てるのか?(井津川倫子)

   期せずして、日本と米国で政治家の素顔を描いた「暴露本」が空前のベストセラーとなっています。

   日本では、東京都の小池百合子知事の半生を描いたノンフィクション「女帝 小池百合子」(文藝春秋)が話題になり、売り切れ書店が続出。米国では、トランプ米大統領の側近や親戚の手による「暴露本」が、発売前からアマゾンのベストセラー上位を占めるという異例の事態が生じています。

   センセーショナルな話題が満載の「暴露本」は、選挙を控えた二人の政治家にとって致命傷になるのでしょうか。

  • 暴露本「女帝 小池百合子」が売れている!
    暴露本「女帝 小池百合子」が売れている!
  • 暴露本「女帝 小池百合子」が売れている!

「暴露本」は英語で何と言うの?

   それにしても、小池百合子都知事の半生を描いた「女帝 小池百合子」の売れ行きには驚くばかりです。私も新聞広告を見て、さっそく本屋に行きましたが、どこを探しても「売り切れ」。運良く数件目で残りの1冊をゲットしましたが、これがおもしろい!

   読み始めたらページをめくる手が止まらず、400ページ以上ある分厚い本を一気に読んでしまいました。

   平成の時代を社会人として共に生きた人間にとって、まさに「平成あるある」のオンパレード。まだ女性の社会進出が珍しかった時代、とりわけマスコミ業界の周辺には、小池氏のような「ちょっと美人の野心家」で「ビミョーな経歴」の持ち主だけど、「おやじ殺し」の手腕を発揮して地位を獲得していく女性が存在していたのです。

   本の帯には「救世主か? 怪物か? 彼女の真実の姿」というキャッチコピーが書かれていますが、まさに「小池百合子という『怪物政治家』がなぜ生まれたのだろう?」と不思議に思っていたところ、遠く米国では現職大統領の姪が、同じような疑問を投げかけていました。

US President Donald Trump's niece is set to publish a tell-all memoir about him
(米国のドナルド・トランプ大統領の姪が、彼について「すべてを暴露する回顧本」を出版する)
tell-all:暴露本、すべてを話す

   なるほど、暴露本は「すべて(all)」「話す(tell)」から「tell-all」なのですね。勉強になります。

   話題の「暴露本」を書いたのは、トランプ米大統領の姪で心理学者のメアリー・トランプ氏。トランプ大統領の兄の娘だそうです。これまで、側近やジャーナリストが手がけた本はあったものの、親族が著すのは初めてとのこと。それもあって話題をさらっていますが、私が特に興味を抱いたのは、この本のサブタイトルでした。

How my family created the world's most dangerous man
(我が一族は、どのように世界で最も危険な男をつくり出してきたのか?)

   本の内容はまだ公表されていませんが、サブタイトルを見る限り「ドナルド・トランプ」という「危険な政治家」を作り出した家庭環境や時代背景にフォーカスしている印象を受けます。

   2020年6月に74歳になったトランプ氏は、7月に68歳になる小池氏よりも世代が上ですが、二人ともテレビ出演を通じて知名度を上げた後に政界進出を図るなど、メディアをうまく利用しながら、時代の波に乗ってきました。

「二期目」を目指す、よく似た二人

ボルトン前大統領補佐官も、この人の暴露本を出版
ボルトン前大統領補佐官も、この人の暴露本を出版

   さらに、二人に共通しているのが「fraudulent」(詐欺行為を行う、人をだます)と、多くの人から非難されている点です。

   「女帝」では、小池氏のカイロ大卒業という「学歴」に疑問が投げかけられていますが、名門ペンシルベニア大卒業のトランプ氏にも「コネ入学」のウワサが絶えません。

   さらに、小池氏は元秘書がからむ金銭スキャンダルなどが「暴露」されていますが、トランプ氏の半生も脱税などの金銭スキャンダルまみれです。

   二人とも頼れる側近がいない、身内から人気がないという点も共通していて、日米「スキャンダル政治家」のあまりのそっくりぶりに驚くばかりでした。

   11月に大統領選を控えたトランプ氏の周辺は、なぜか「暴露」ブームに沸いています。最近も、トランプ大統領の側近だったボルトン前大統領補佐官が、政権の内幕を描いた「暴露本」の出版を予定していると報じられ、注目を集めています。

John Bolton's bombshell book will accuse Donald Trump of being willing to ENDANGER the US
(ジョン・ボルトン氏の衝撃的な本は、ドナルド・トランプ氏が、わざとアメリカを危機に陥れようとしていると非難している)
bombshell book:衝撃的な本

   ボルトン氏は、「トランプ氏が中国の習近平国家主席に対して、大統領選再選のための支援を要請していた」「側近からくそったれとバカにされていた」とか、「bombshell」(衝撃的)なエピソードが満載のようです。あわてた政権は、機密情報が多く含まれているなどとして、事実上出版の差し止めを求める訴えを裁判所に起こしましたが、果たしてどうなることでしょうか?

   さらに、トランプ氏によって解雇された元FBI長官の「暴露本」がドラマ化され、米国で放送されることが発表されるなど、再選を控えたトランプ氏にとっては、とんだ災難続きのようです。

「暴露本」は出版界の「救世主」だった?

   ところが、こんな「暴露本」ブーム、不況にあえぐ日米の出版業界にとっては「予想外の救世主が現れた!」と報じられています。

   人々の活字離れが進み、長らく不況にあえいでいた出版業界でしたが、コロナ禍がさらに大きな打撃を与えました。ロックダウンや緊急事態宣言で街の書店が臨時休業したため、本や雑誌がまったく売れなくなってしまったのです。

   雑誌には広告が入らなくなり、書籍の発売も延期になる......。そんななか、突如として沸いたトランプ氏と小池氏の「暴露本」ブーム。とりわけ「売れない」とされてきたノンフィクション本の異例の売り上げに、日米の出版業界が沸き立っているというのです。

   確かに、「女帝」は発売以来ベストセラーの上位を占めていますし、トランプ氏の「暴露本」は、発売前にアマゾンの1位(ボルトン氏の著書)と3位(メアリー氏の著書)を占めるという「異常事態」で、出版社が早々に大増刷を決定したと報じられています。

   政治家としての小池氏とトランプ氏は「怪物」かもしれませんが、出版業界にとっては「救世主」だったようです。

   それでは、「今週のニュースな英語」「tell-all」を取り上げます。名詞と動詞、二つの使い方をご紹介しましょう。

It's a tell-all book(それは暴露本だ)

It's a tell-all interview(暴露インタビューです)

Please tell all the details(すべて詳細を話して下さい)

I will tell all my troubles to you(すべての問題をあなたに話しますよ)

   政治家にとって、話題になって露出が増えることは決して悪いことばかりではありません。都知事選と大統領選と、規模はまったく異なりますが二期目を目指して再選に挑む小池氏とトランプ氏。果たして「暴露本」ブームが凶と出るか吉と出るか? 二人は選挙に勝てるのでしょうか?(井津川倫子)