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【ウィズコロナのドイツを歩く】マスク義務! 1.5m間隔確保! ドイツに「自粛警察」がいらないワケ?(神木桃子)

   コロナ危機で事実上、ロックダウンとなったドイツが、それまで課していた行動制限の緩和を発表したのは、日本政府が全国を対象とする緊急事態宣言を発した2020年4月16日の前日、15日のことでした。その日から早くも2か月。小規模の商店や学校の再開から始まり、文化施設や子ども用遊び場、そしてすべての商店にレストランと、厳しかった外出自粛規制が段階的に緩んできています。
日本よりひと足早く、感染拡大防止と社会経済活動の両立に舵を切ったドイツ。街には日常が戻ってきたのでしょうか――。

  • すべての商店が営業を再開し、街には活気が戻ってきている
    すべての商店が営業を再開し、街には活気が戻ってきている
  • すべての商店が営業を再開し、街には活気が戻ってきている

営業が再開しても、状況は厳しい

   まずは現地のレストランで働く日本人男性のSさん(30代)に、話を聞いてみました。

   ―― 3月22日のドイツ政府の発表により、すべての飲食店の閉鎖が決まりました。

Sさん「(営業が認められている)テイクアウトや配達サービスを行っていました。正社員ということもあり、週4日、一日5時間ほど働いていました。一方で、アルバイトの人は辞めさせられていたので、自分は恵まれていたと思います。国からの補償も合わせ、通常の90%くらいの給与をもらっていたので、金銭的な不安を抱えなくてすみました」

   ―― 5月中旬から通常営業を再開したそうですが、どのような状況ですか。

Sさん「店内の席はひとつずつ空け、スタッフはマスクを着用しています。テーブルの消毒やお客さんへの質問票の回収など、以前にはなかった作業も増えています。ただ、以前ほどの客入りはありません。テラス席もあるので、例年であれば今の時期から売り上げが伸びるのですが......。今は様子を見ている状況です」

   何もかもが元どおり、とはいかないようです。

Sさんのレストランがあるノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、飲食店側にお客の氏名・連絡先などを4週間保管し、必要な場合は保健当局に提出する義務がある(写真はイメージ)
Sさんのレストランがあるノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、飲食店側にお客の氏名・連絡先などを4週間保管し、必要な場合は保健当局に提出する義務がある(写真はイメージ)

   現在、ドイツにおける感染者数は19万人を超え、死亡者数は8885人となっています。(6月22日時点)6月に入ってからも、新規感染者の報告数が200人を超える日もあるほど。依然として感染のリスクは残っています。

   ドイツ政府も慎重な姿勢は維持しており、感染拡大防止のため、法的に拘束力のある接触制限を6月29日まで延長することを決定しました。

   ・公共の場では、人と最低1.5メートルの距離をとること
   ・公共交通機関や買い物など指定場所ではマスク着用が義務
   ・飲食店などの公共空間では、最大10人または二世帯グループまで
   ・自宅でのプライベートな集まりでも、参加人数の制限や参加者の把握、十分な換気が必要。可能であれば屋外で実施する

   この方針にのっとり、各州が感染状況や州の特色を考慮し、細かい規制を定めています。たとえば、私の住むノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州では、バーは他の飲食店と同様に営業が認められていますが、クラブやディスコ、風俗施設は営業停止のままです。
   行動範囲は広がってきていますが、まだまだできないことも多いのが実情です。

義務でなければマスクは着けない?!

   スーパーに行ってみると、入口前に「1.5メートルの距離をとってください」と書かれた立て看板が置かれています。また、人数管理と間隔確保を目的に、ショッピングカートの使用を入店時の義務としており、マスクと手袋を着用した係員がカートを管理していました。

   ここで印象的だったのが、ひとりのお客が店から出たとたん、マスクをパッと外したことです。マスクが着用義務となるのは、公共交通機関や商店など特定の場所だけ。この人に限ったことではなく、義務の対象外となる屋外の路上や公園などでは、マスクを着けている人のほうが少ないほど。「場所」による義務化が必要になるワケです。

カートの数が制限されているので、時間帯によってはスーパーの前に行列ができることも
カートの数が制限されているので、時間帯によってはスーパーの前に行列ができることも

   また、前出のSさんはインタビューで、

「レストランの営業を続けていたり、そのために外出したりすることに対して、他の人から何か言われることはなかった。日本であれば、他人の目が気になって、生活がしづらかったかも」

   と、話していました。

   いわゆる、「自粛警察」のような事例をドイツで耳にすることがないのは、許可と禁止のボーダーがはっきりしていることに一因があるかもしれません。
   規制の下に暮らしを維持し、ウィズコロナの時代を生き抜こうとしているドイツ。収束までの道のりがたとえ長いものであっても、着実に前に進んでいくことでしょう。