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【襲来!新型コロナウイルス】コロナ禍をうまく乗り切った国ベスト10位に東南アジアから7か国! 日本9位の理由が「クルーズ船騒ぎ」とは?(2)

   新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっている。WHO(世界保健機関)が2020年3月11日にパンデミック宣言を出してから4か月が経った。

   各国が新型コロナ感染拡大防止のため、さまざまな対策を打ってきたが、アメリカやブラジル、インドのように感染拡大に歯止めがかからない国と、台湾、香港のように抑え込みに成功した国と明暗が分かれる。

   そんななか、ニッセイ基礎研究所が7月3日、「新型コロナウイルスと各国経済 コロナ禍をうまく乗り切っている国はどの国か? 49か国ランキング」という調査レポートを発表した。

  • 「クルーズ船騒ぎ」が結果的に幸いした(?)日本の安倍晋三首相
    「クルーズ船騒ぎ」が結果的に幸いした(?)日本の安倍晋三首相
  • 「クルーズ船騒ぎ」が結果的に幸いした(?)日本の安倍晋三首相

「経済か」「命か」各州の対応がバラバラの米国はどちらも中途半端に

――なるほど、確かに日本、台湾、香港は島国ですね。韓国とマレーシアは半島ですが、北の国境(編集部注:韓国は北朝鮮、マレーシアはタイ)以外では海に囲まれていますから、ほぼ島国ともいえます。

高山さん「島国の利点は、外国から飛行機や船で来るので空港と港をおさえれば、人の移動をモニタリングできて、ウイルスの侵入を監視しやすいということです。初期の段階で水際対策を効果的に働かせて国内へのウイルス輸入感染を抑えることができました。その際、面積が小さいことも人の移動の距離が短くなり、感染経路を追うのに有利に働きます。
アメリカのような広大な国では、国内でも長い距離の移動を行っている可能性があり、追跡が困難です。しかも、州ごとに経済再開を優先させたり、行動制限を呼び掛けたりと、方針がバラバラの状態でもあります。州ごとに方針が異なっていると、国全体で見たときに結局どちらの方針も中途半端になり、感染拡大に歯止めをかけることが難しくなります。 同じ広大な国でも中国の場合は、強権政治で発生地の武漢をロックダウンして抑え込み、第2波の北京も強力に抑え込みました。非常に厳しい外出規制をかけてウイルスが外の地域に拡大しないように抑えられたため、ほかの地域の規制を緩めてすぐに経済再開に踏み切ることができ、結果的に経済被害が少なく済みました。トップダウンでメリハリをつけた対策をとることができたことが大きいですが、中国の政治体制だからこそ効果的に実行できたという面もあると思います」

――ヨーロッパ諸国の被害が大きかったことも、地域が広大すぎたからですか?

高山さん「そのとおりです。EU(欧州連合)はシェンゲン協定(編集部注:原則的に出入国検査なしに自由に国を行き来することができる協定)に加盟している国の間では国境の移動が自由ということもあり、イタリアで発生して、あっというまに全ヨーロッパに広がりました。国境を封鎖したり、その後に国によっては罰則を設ける厳しい都市封鎖や行動制限を行ったりしましたが、対応は後手に回ったと言えます。
かなり早期に中国からウイルスが侵入していた可能性もありますが、結果的に水際対策措置が遅くなったことが感染の急拡大につながったと言えます。ウイルスが侵入してからでは水際対策の効果は落ちてしまいます。水際対策が奏功した台湾や香港は、むしろロックダウンはヨーロッパより厳しくありません。いかに初動が大事か、ということを示しています」

連日報道される「クルーズ船」でコロナの怖さが一気に広まった

強権政治だからこそ抑え込めた習近平国家主席(写真は人民日報より)
強権政治だからこそ抑え込めた習近平国家主席(写真は人民日報より)

――しかし、日本の場合、安倍政権が習近平国家主席の国賓来日に遠慮して入国規制が遅れ、春節期間中(1月24日~30日)に大量の中国人観光客の入国を許してしまいました。また、2月には横浜でクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染を引き起こした際の対応も批判されました。その日本が9位にランクインしたことには違和感があるのですが、理由は何でしょうか。

高山さん「先に述べたように厚生労働省の初期対応は早かったのです。1月7日に空港で、武漢からの帰国者で発熱や咳がある者は検疫官に申告するよう呼びかけています。また、中国に渡航する者にも注意を呼びかけています。しかし、それ以上に国民への注意喚起という意味で効果が大きかったのは、あなたが指摘したクルーズ船の騒ぎでしょう。
連日、新型コロナウイルスがテレビや新聞で大きく報道され、情報がたくさん出てきて、国民に行き渡るのが非常に早かった。国民のコロナに対する危機感を高めて、その後、緊急事態宣言が出されても自粛要請に素直に従う人が多かった。その点、震源地から地理的に遠かった欧米人が少なからず油断をしていた面もあると思います」

――今後の見通しはどうなるのでしょうか。

高山さん「今回の評価はまだ途中段階です。今後、第2波、第3波が来た場合はその対応の巧拙で評価が変わってきます。ただ言えるのは、よく『経済再開を優先させるか』『感染拡大を防止して命をとるか』と論議されますが、今回の調査でわかったのは、どちらの対策が優れているかは一概に言えないということです。
たとえば、ヨーロッパ諸国の中では、個人の人権を尊重するスウェーデンでは経済活動を強く制限する措置は実施しませんでしたが、経済への被害を避けられた訳ではありません。逆にポルトガルは早期のロックダウンを実施し人命を重視したけれど、それでも一定の犠牲者は出てしまいました。ヨーロッパは各国がさまざまな対応を取りましたが、どちらが優れているという事はありませんでした。
東南アジアと比較すると、結果は五十歩百歩でした。感染者数が多くなってしまったヨーロッパでは、行動制限を課していなくても、人々や企業が感染防止的な行動を実施するため、経済への影響が生じてしまいます。また、ロックダウンを実施しても、感染が収束するまでには時間を要し、コロナ被害をすぐに抑えられた訳でもないということです」

――というと、第2波の襲来を考えると、何が一番大切なのですか。

高山さん「つまり、一番大事なことは初動体制でウイルスの侵入を抑えることだったと言えます。侵入されたあとに『経済か』『命か』と議論しても、どちらも一定の被害を被ってしまうということです。
第2波以降でも当然、水際作戦は重要です。ただし、多くの国では国内での感染者が一定数確認されていますから、国外からの感染者を防ぐということだけでなく、国内で発生した感染者を広げないという対策も重要になっています。水際対策だけでは感染拡大を防げなくなっているという意味でも、これまで以上に難しいかじ取りが求められると思います」

(福田和郎)