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スポーツ関連書の品揃えは折り紙つき! 人々はきょうも「歴史」を求めて訪れる(Vol.14 「ビブリオ」)

   すずらん通りの一本裏手に入った場所の緑の看板が目印だ。角に面したガラス戸からは、本で埋め尽くされた店内が見える。

   足を踏み入れると、さまざまなスポーツに関する本や資料、サイン色紙やサインボール、ファイルで保護された肉筆原稿などが迫り来るようにぎっしりと積まれている。

緑色の看板が目印の「古書 ビブリオ」
緑色の看板が目印の「古書 ビブリオ」

ネット通販で気づいたスポーツ本の需要

   身体を横にして、そろりそろりと足を進める。主に野球関連の書物が多いが、ラグビーや相撲、バレーボールやサッカーなどの品揃えも充実している。多くの、これでもか! というぐらいスポーツの本にこだわり、焦点を当てた古書店は世界でも珍しい。

   朗らかで親しみやすい雰囲気の店主小野祥之さんは「ビブリオ はよく野球専門店と思われるけれど、スポーツと肉筆ものをメインでやっています」と話す。小野さんは古書組合の副事業部長を務めビブリオの店主として野球関連のイベントの主催や本の出版など、さまざまな活動をしているパッションに満ちた人である。

   本好きな小野さんは、大学院生時代に古本屋でアルバイトをしていた。

「軽い気持ちで入ったんです」

   本人は飄々と語るが、それからの経歴は一本道を真っ直ぐに貫かれているように感じる。靖国通りに面した老舗の玉英堂書店で修行を積み、その後独立。代々木、渋谷に店を構える。

   1990年代後半、まだインターネットでの古書販売が一般的でなかった当時から、通信販売を積極的に取り入れ、活用したところ想像以上の反響があり、スポーツの本の需要に気づいたそうだ。それは「ビブリオ」の主なジャンルのうちの一つを生み出す大きなきっかけとなった。神保町にリニューアルオープンしたのは2005年12月のことだ。

迫り来る本の山
迫り来る本の山
「今は純粋な『本』だけを扱っているわけではないですね、『歴史』を売っている仕事だと思っています。おもしろい歴史資料が手に入ったときはワクワクしますし、お客さんの手に渡るときには喜びを感じます」(小野さん)

スターのグッズはいまでも人気商品

コーナーの一角を占める『肉筆もの』
コーナーの一角を占める『肉筆もの』

   オススメの品を尋ねると、国内外の昭和スターのサイン入りブロマイドやポスターがびっしり差し込まれた箱の中から「ビブリオらしいといったらこれですかね」と昭和の歌姫、美空ひばりのサイン入りブロマイドと、オリックス・ブルーウェーブ時代のイチロー選手のサイン色紙を出してくれた。スターのサインものは今もファンが多く、お客さんの反応も良いそうだ。サインの状態も細かくチェックして適正な価格をつけている。

   じつは、こうした「お宝」の入手方法が、ずうっと気になっていた。ちょっと聞いてみると、小野さんは「入手するのは信頼のおける筋から。価格はお客さんとの長年のコミュニケーションから導き出すんです」と明かした。

   他にも、店内で販売されている野球ボールモチーフのマスキングテープやTシャツなど、クリエイターとコラボしたビブリオオリジナルグッズも要チェックだ。

年代とともに変化するスターの筆跡を見比べるのも楽しい
年代とともに変化するスターの筆跡を見比べるのも楽しい

多くの企画を実現させる行動力

   小野さんの活動は古書店店主に収まらない。昭和20年代の野球史にスポットを当てた「昭和20年代野球倶楽部」では毎月イベントを行い、「東京野球ブックフェア」では年に一度、野球の本のお祭りを開催。フリーペーパー「おさんぽ神保町」(筆者も表紙イラストを担当している)では、5年近く神保町のグルメレポートを連載している。

   2015年には『高校野球100年を読む』(著者/編集:小野祥之, 『野球太郎』編集部 ポプラ社)を出版しており、野球史の研究や神保町の街を語るには欠かせない人物の一人である。

   いったい何が小野さんの原動力になっているのだろう――。「まぁ、誘われたら断れないんですよね」とあっけらかんと笑う。人を惹きつけ、新しいアクションを起こすことに長けている小野さんの、今後の活動も楽しみである。(なかざわとも)