J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

【日韓経済戦争】GSOMIA破棄しなかった文在寅大統領 お得意の「やるやる詐欺」か、「ポスト安倍」を計算か? 韓国紙で読み解く

   日韓対立の争点の一つだった日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について、2020年8月24日にも韓国側から破棄の通告がされると思われていたが、延長される見通しになった。

   当初は「破棄する!」と強気の姿勢だった文在寅(ムン・ジェイン)大統領のお得意の「やるやる詐欺」だったのか、あるいはまだまだ使える「反日カード」として温存する考えに変わったのか。

   背景には、健康に不安を抱える安倍晋三首相の動向の様子見があるようだ。韓国紙で読み解くと――。

  • 韓国メディアが「死に体」扱いしている安倍晋三首相(5月24日撮影)
    韓国メディアが「死に体」扱いしている安倍晋三首相(5月24日撮影)
  • 韓国メディアが「死に体」扱いしている安倍晋三首相(5月24日撮影)

韓国メディアではとっくに安倍首相は「死に体」

   韓国側は、GSOMIAの一方的な破棄通告の期限を8月24日としていた。それが一転、見送りになったと報じるのは文政権寄りと言われる左派系の新聞、ハンギョレ(8月24日付)だ。「韓日対立の争点『GSOMIA』延長される見通し 韓国、終了通告を翌日に控え存廃について言及せず、自動延長が有力」という見出しで、こう伝えている。

「GSOMIAの終了通告期限を翌日に控えた8月23日、大統領府と外交部(外務省)は同協定の存廃問題について、これといった立場を示さなかった。昨年7月の日本政府の輸出規制強化措置以降、この決定の撤回と協定の延長を結びつけて熾烈な対日外交を展開した時とは対照をなしている」

   ところで、「永田町を奔(はし)る安倍晋三首相『7月6日吐血情報』『改憲を...私にはもう時間がない』」というショッキングな見出しで安倍晋三首相の「健康異変」を報じたのは8月4日発売の写真週刊誌「フラッシュ」だ。以来、韓国メディアは連日、安倍首相の持病である「潰瘍(かいよう)性大腸炎の悪化か?」という見出しで、安倍首相の健康不安を報じてきた。

   それとともに文在寅大統領の対日姿勢も「軟化」した。文在寅大統領は8月15日に発表した光復節(編集部注・日本の終戦記念日、韓国では日本からの独立記念日)記念式典での演説でも「政府はいつでも日本政府と向かい合う準備ができている」とし、対話による解決の意志を明らかにした。

安倍首相と『敵対的共生』と言われる文在寅大統領
安倍首相と『敵対的共生』と言われる文在寅大統領

   韓国政府にとって「安倍首相の健康不安」は、日本との正面衝突を避け、しばらく様子を見て問題を先送りするうえで、渡りに船だったようだ。その事情をハンギョレ(8月7日付)「コラム:記者手帳 南北関係、GSOMIA...文在寅政権後半期のキーワードとは」が、こう説明する。

「文大統領が決めるべき問題は山積している。対外的には、北朝鮮関係の解決策が優先課題だが、前例のない3回の南北首脳会談を行っても結果につなげることはできなかった。米大統領選挙が3カ月後に迫っており、新型コロナが依然として猛威を振るっていることを考えると、状況は依然として厳しい。1年以上続く安倍晋三政府の輸出規制問題やGSOMIAの終了の可否も、決断を迫られる課題となっている」

   文大統領としては、日本の輸出規制を撤回させるためにGSOMI終了カードを直ちに切りたいが、GSOMIA終了に反対する米国の出方が気になる。GSOMIAは実際には米国との問題でもあるからだ。その米国が大統領選に入り、交渉不能状態に陥った。しかも、輸出規制の交渉相手である安倍首相もいつまでも政権にとどまるかわからない。それやこれやで、様子をしばらく見ようというわけだった。

文大統領と安倍首相は「敵対的共生」のよきパートナー

   韓国メディアはすでに、安倍政権をすっかり「死に体」(レームダック)と見なす見出しのオンパレードだ。たとえば、こんな案配だ。

東亜日報(8月23日付)「やつれた安倍氏、3日間の休暇を終えて公務復帰」
中央日報(8月24日付)「新型コロナ一発でぐらつく安倍首相...色あせた過去最長寿首相記録」
中央日報(8月24日付)「安倍首相、最長在任記録した日にまた病院へ...緊張する官邸」
朝鮮日報(8月24日付)「安倍首相、ほろ苦い最長連続在任...国民の半数『年内に辞任すべき』」
GSOMIA破棄の見送りを報じるハンギョレ(2020年8月24日付)
GSOMIA破棄の見送りを報じるハンギョレ(2020年8月24日付)

   文政権に批判的な姿勢を貫き、安倍政権との対話を呼びかけてきた保守紙の朝鮮日報でさえ、8月23日付の「コラム:萬物相 安倍の墜落」で、安倍首相を激しく酷評している。

「コロナ防疫の大失敗で安倍首相の支持率は最低を記録した。『ネズミでも使わない』といわれる布マスクを配布したが、逆に笑いものになった。大腸疾患まで再発した。周辺からは『非常に顔色が悪い』『近く辞任する』などの声が聞かれる。権勢は10年持たないと言われるが、その墜落はあまりにも急激かつ劇的だ。安倍首相は国内での人気が高いときでも周辺国、特に韓国での人気が最悪だった。外国指導者の好感度調査では金正恩(キム・ジョンウン)氏でさえ9%だが、安倍首相は3%だ。一言でいえば『極嫌』の指導者だった」

   そして、韓国メディアの関心はすでに「ポスト安倍」に移っている。朝鮮日報(8月13日付)「有力首相候補の石破茂『原発は維持、A級戦犯の合祀には反対』」では、後任候補8人を取り上げて分析している。石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎氏の8人だ。それぞれ一長一短があり、韓国にとって誰が最適任か決めかねている。

   ただし、先の朝鮮日報「コラム:萬物相 安倍の墜落」が、皮肉を込めて、こう結んでいるのは興味深い。

「文大統領が、今のように思う存分『竹槍歌』(竹槍を持って日本軍に反乱して玉砕した故事の歌)を歌い、『土着倭寇』(国内の親日派)批判を振り回せるのは、完全に安倍首相のおかげだ。『敵対的共生』のこの上ないパートナーというべきか。多くの専門家が『文在寅=安倍晋三の組み合わせでは、両国関係の改善は不可能』と展望してきた。どちらも国内政治に相手を利用するからだ。安倍首相の退場が韓日関係をどこに導くか気になるところだ」

   日本の次期首相が誰になっても、今よりはよくなると言っているようだ。

(福田和郎)