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【日韓経済戦争】菅義偉次期首相、韓国紙が酷評するワケ 「韓国の英雄を犯罪者扱い!」「安倍ほどの理念もないマキャベリスト!」(1)

   菅義偉官房長官(71)が2020年9月14日、自民党の両院議員総会で総裁に選ばれて、事実上、次期総理大臣に決まった。

   菅官房長官が安倍晋三首相の政策を引き継ぐと公言してきたことから、韓国メディアでは、安倍首相のアバター(分身キャラクター)として「アベター政権」とか「アベス(アベ+スガ)内閣」などと酷評してきたが、正式に次期首相に内定したことで、やや冷静に人物像や対韓国政策を分析する記事が登場している。

   韓国紙では、どう報道しているのだろうか――。

  • 韓国メディアが人物像を注目する菅義偉「次期首相」
    韓国メディアが人物像を注目する菅義偉「次期首相」
  • 韓国メディアが人物像を注目する菅義偉「次期首相」

「愛されるよりも恐れられたほうがはるかに安全だ」

   2020年9月2日付の聯合ニュースは「首相になる人が言った『安重根は犯罪者』」という見出しで、菅義偉官房長官の過去の言動について報じた。

   これは2013年11月、植民地時代の韓国で初代総監を務めた伊藤博文を暗殺した韓国の独立運動家、安重根(アン・ジュングン)の石碑建立を、中国と韓国が合同で進めていることに関連し、菅官房長官が安重根を「日本で言えば犯罪者であり、テロリスト」と呼んだことを蒸し返して批判したものだ。

   安重根は韓国では植民地独立運動の闘士として教科書でも大きく紹介されている英雄。当時の朴槿恵(パク・クネ)政権もこの発言には激怒。日本政府に厳重な抗議を申し入れた。以来、安倍政権の対韓国強硬路線のスポークスマンを務めてきた菅官房長官は、何かと「冷たい官房長官」「にべもない発言」などと韓国メディアの矢面に立たされてきた。

   そんな菅官房長官に対し、「次期総理」が確定すると、韓国紙には比較的冷静な人物像の分析記事が出るようになった。中央日報(9月11日付)「コラム:次期首相有力菅義偉氏、『力の論理』重視する土の箸とスプーンのマキャベリスト」は、菅氏が雑誌で連載している「人生相談」の記事を取り上げている。

   菅氏は今年(2020年5月)からビジネス雑誌『プレジデント』で「戦略的人生相談」という連載コーナーを持っているのだ。中央日報のイェ・ヨンジュン論説委員が、こう紹介する。

「(連載では)政治家・菅義偉の人生観や政治哲学、または自身の政治業績を前に出す『戦略的』表現が登場する。たとえば若い会社員が『昭和の考え方の上司が多すぎる仕事をさせる』と訴えると、菅氏は『自民党の税制調査会会長の甘利明先生は、事務所のスタッフがたるんでいると「菅事務所に出すぞ」と活を入れているとも聞きました』と答える」

   自分も同じような過程を通ってきた。毎日、朝から晩まで歩き続けるので靴がボロボロになり、見かねた支援者に靴をプレゼントされたこともあった。あなたの世代が抱くビジョンや、描いている未来像についての話を聞けば、上司もあなたの世代に会社の将来、日本の未来を託しても何の心配もない、と安心してくれるのではないか、とアドバイスするのだった。

「菅氏はマキャベリ(編集部注:ルネサンス期の政治思想家。どんな卑劣な手段を使っても、結果として国家の利益を増進させるのなら許されるという考え方を提唱)を通読している。菅氏は『恐れられるよりも愛されるほうがよいのか。2つのうちの1つを手放さねばならない時には、愛されるよりも恐れられたほうがはるかに安全だ』というマキャベリの『君主論』を引用した後、官僚社会を手中に収めた秘訣として『嫌われ役』を買って出たことを挙げた」

   中央日報はこう続ける。

「日本の官僚は菅氏の前では強く出ることができない。『意志あれば道あり』を信条とする菅氏に『できない』という言い訳は通じない。高位級官僚の人事に直接関与した。安倍氏が最長寿首相になることができたのは、菅氏の力を借りて官僚を掌握したからだ。ナショナリズムが顕著な安倍氏に比べ、菅氏は理念が明確ではない。だが、力の論理を優先するのはマキャベリストの共通点だ」

   さらに、菅氏の自叙伝『官僚を動かせ 政治家の覚悟』(2012年刊)を引用して、対北朝鮮、対韓国政策の「業績」をこう紹介する。2004年5月に「特定船舶の入港禁止に関する特別措置法」(通称:万景峰(マンギョンボン)号禁止法)を議員立法で成立させた。年間20回ほど往来する北朝鮮の万景峰号は、日本で暗躍する工作員が集めた毎回10億~20億円の現金を北朝鮮に運ぶ役割を果たしていたが、官僚の反対を押し切って法案を通過させたという。

「相性で外交はできない」と安倍氏に対する強烈な自負心

   中央日報が続ける。

「また、徴用工訴訟に対する報復として日本が昨年輸出規制を行ったのは、安倍氏と首相秘書官である今井尚哉氏が主導したと言われているが、菅氏も強硬論の立場に立った。菅氏は2015年の慰安婦合意(編集部注:元慰安婦支援のため韓国政府が財団を設立、日本政府の予算で10億円程度の資金を一括拠出する。合意に基づく解決策が『最終的かつ不可逆的』であることも確認)の立役者だったからだ。朴槿恵政権から文在寅(ムン・ジェイン)政権に代わって、慰安婦合意が覆されるのを見て大きな挫折感を味わった。韓国を関係悪化の原因提供者に転嫁する安倍氏の認識と少しも変わらない。菅政権が発足しても韓日関係の改善は決して楽観できないのはこういう理由からだ」

と、結んでいる。

「安倍アバター(分身)」と酷評されたことも(2020年9月7日付中央日報)
「安倍アバター(分身)」と酷評されたことも(2020年9月7日付中央日報)

   同じ中央日報(9月13日付)のコラム「グローバルアイ:侮れない首相菅義偉」の中で、ユン・ソルヨン東京特派員は、菅氏は「外交経験」のなさが最大の弱点とされているが、意外に捨てたものではないと評価している。

   9月8日の会見で菅官房長官は、

「外交は(首脳間の)ケミストリー(相性)だけで左右されるような簡単なものではない」

   と発言したが、これは各国首脳と個人的な人間関係を築いてきた安倍首相に対する強烈な自負心の表れだという。ユン・ソルヨン記者は、こう指摘する。

「菅氏は会見で、日米首脳電話会談を37回のうち36回同席した。韓国、中国、ロシア問題もすべて報告を受けてきたと、外交能力に問題はない点を強調した。それでも『頼りない』と言いたげな記者の質問に菅氏は神経をとがらせた。『ケミストリー』とは安倍首相を意識した単語だ。安倍首相がトランプ大統領とゴルフをして、ハンバーガーを食べ、厚い関係を誇示した姿を菅首相には想像しにくい。官房長官という職責上、菅氏は7年9か月間外遊をしたことがない」

   しかし、菅氏には先を読む外交能力があると、ユン・ソルヨン記者はいう。

「2016年の米大統領選挙でだれもがヒラリー・クリントン氏の当選を楽観していた時、菅氏はトランプ系関係者と会ってつながりを作っていた。2015年の慰安婦合意締結の際にも『米国を証人に立てるべき』として米国の歓迎声明を引き出したのも菅氏の作品だった。菅氏は主要国大使と定期的に会い昼食をするなど外交使節とも幅広い接点を維持してきた」

(福田和郎)