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【尾藤克之のオススメ】秋の夜長に、ハイボールを片手に読みたい一冊

   ハイボールが看板のバー、銀座の「ロックフィッシュ」は、開店時間を待って飛び込んでくる常連さんも多い人気店です。

   オーナーの間口一就さんは、酒に合うつまみづくりにかけては天下一品と評判です。缶詰つまみ(缶つま)やホットサンドイッチなど、一部の代表メニューは書籍化されてヒット作になりました。本書はそんな実力派の名物オーナーによる、「晩酌が100倍うまくなる酒飲みエッセイ」です。

「バーの主人がひっそり味わってきた酒呑み放浪記」(間口一就著)秀和システム
  • 洋食の定番メニュー「ロールキャベツ」が大好き!(写真はイメージ)
    洋食の定番メニュー「ロールキャベツ」が大好き!(写真はイメージ)
  • 洋食の定番メニュー「ロールキャベツ」が大好き!(写真はイメージ)

愛しきロールキャベツ

   やわらかキャベツに肉だねの入ったロールキャベツは洋食の定番メニューです。著者の間口一就さんは、ごちそう感を漂わしている洋食はが大好きだったと言います。

「カタカナの洋食というだけで、料理の格が上がった気分になり、喜んで椅子に飛び乗っていました。お刺身や焼き魚も好きなのですが、なんだかごちそう感を漂わせている洋食は、ただ者ではないぞと。その好物の一つに、花柄のキャセロールでコトコト煮込まれたロールキャベツがありました」
「合いびき肉に刻んだ玉ネギと、小麦粉を加えてタネを作り、お湯で柔らかくしたキャベツで巻いて、スープで煮込む手順は、何回聞いても覚えられなかったことを思い出します。母のロールキャベツには、かんぴょうが巻いてあって、少しばかりの違和感を覚えていました。ロールキャベツの煮崩れ防止のためであると知ったのは、ずいぶん後でした」

   間口さんは目を細めて、そう話します。

   スープはコンソメ味で、ケチャップを使ってトマトソースにしていたそうです。たくさん食べても飽きることがない味でした。

   間口さんは、

「いざ作ってみると、なんと難しいことか。とりあえず買ってきた合いびき肉に、刻んだ玉ネギを加えても、玉ネギが粗すぎるとお肉と馴染みません。茹でたキャベツの葉でタネを巻いても、なぜか破れてしまいます。爪楊枝を使って巻きを抑えるのが精一杯でした。かんぴょうを戻して巻くなんて、想像するだけでギブアップです」
「コンソメのスープで煮込み始めたところで、やっとホッとする始末です。センスのなさを思い知らされる料理でした。でき上がったロールキャベツは、ほぼゲンコツの大きさ。3個ほど皿に盛ってみる大中小とややサイズは違いますが、妙に愛らしいことよ。見た目は、その次。一番大事なのは味でもない、愛情だと言い聞かせていました」

と言います。

読書の秋の「お供」に......

   軽妙な語り口に、ページをめくる手が止まらなくなります。絶妙なハイボールを片手に、「食の風景」を覗いてみませんか――。

   銀座一うまいハイボールのお店・銀座「ロックフィッシュ」のマスターのエッセイはまさに絶妙です。アクリルボードを設置してコロナ対策も万全を期しています。昼の明るいうちから立ち飲みで味ってみてもいいかもしれません。

   これからの季節は、家飲みでひとり晩酌したり、バーや居酒屋にも、ひとりで行ったりすることが増えているかもしれません。そんなとき、スマホやテレビなどではなく、この本を片手にグラスを傾けてみましょう。

   著者が東京の片隅で出会った名物料理や、地方で味わった地酒と郷土料理の組み合わせの妙。思い出の中の懐かしの味や景色が再現されるかもしれません。秋の夜長にオススメしたい一冊です。(尾藤克之)