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コロナ禍で炙り出されたIT後進国「日本」の姿 「そのことを認識することから進化は始まる」と野口悠紀雄氏

   新たに発足した菅政権は、行政や社会のデジタル化の遅れへの対処を真っ先に取り組むべき問題として掲げ、デジタル庁の創設や、その指揮官としてのデジタル改革相のポストを設けるなど、菅義偉首相は並々ならぬ決意を示した。

   新型コロナウイルスの感染拡大に対処する中で、従来の規制や縦割り行政に阻まれ、さまざまなオペレーションが大きくつまずいたことの反省からだ。そのつまずきをレポートしたのが本書「虚妄のIT立国ニッポン コロナ騒動でわかったリモートワークもオンライン授業も第三世界諸国並みの真実」だ。

「虚妄のIT立国ニッポン コロナ騒動でわかったリモートワークもオンライン授業も第三世界諸国並みの真実」(新型コロナ問題取材班)宝島社
  • 緊急事態宣言で外出自粛が求められ、閉鎖された東京駅地下改札口
    緊急事態宣言で外出自粛が求められ、閉鎖された東京駅地下改札口
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日本の技術力はホントにすごいのか?

   日本は十数年前までは、世界に冠たる技術大国だった。現代で世界のIT覇権をうかがう中国は当時、発展途上国。いつの間にか、日中は立場が入れ替わり、それも日本は大きく引き離されている。

   しかし国内だけの様子をみて、日本の「先進性」をなお信じている人が多いという。コロナ対策で導入が加速したテレワークやオンライン会議は十分に機能を果たし、業務に支障がないとみるや、コロナ禍を機に働き方を変更し在宅メインに切り替えた企業も少なくない。

   スマートフォンの位置情報をビッグデータ化して観光地ごと、エリアごとの混雑具合がモニターされ、一時はコロナ関連のニュースの定番になった。こうしたことに接して「日本はすごい」と感心する。

   本書の第1章「デジタル覇権」で、元大蔵官僚の経済評論家、野口悠紀雄氏は、わたしたち一人ひとりが「まず日本が置かれている現状を正しく認識することから始めるべき」と訴える。そのことが、日本が現代にふさわしいIT国家になる第一歩だ。

   中国がこの十数年の間に発展途上国から一気に、世界のIT強国になった軌跡は「リープ・フロッグ(カエル跳び)」の典型。中国はアナログの固定電話網の整備が遅れていたが、ネットワーク構築が容易なデジタルの登場で、それを利用したスマートフォンが一気に普及したことなどが大躍進に寄与している。

   日本では1970年代、技術大国の道をばく進。金融では最新鋭の大型コンピューターを使って最先端の銀行システムを確立。全国のすみずみにATMが配備され、ほぼどこでも簡単に現金を引き出せるようになった。ほかにもさまざまな利便性がこのころに実現している。日本人が現金主義からなかなか抜け出せないのは、70年代に確立した技術で満足しまったからで、ITを使った合理化のため政府がキャッシュレス化を推進しても反応は鈍く、コロナ禍となって、にわかに現金を使う「後進性」が指摘されるようになった。

旧態依然から脱するチャンス

   こうした「後進性」は、ITを使った場合と比べさまざまにロスを生む。現金をやり取りすれば、勘定しなければならないし、金融機関への預け入れ、帳簿の記入など付随する手間がかかり、そのための経費もかかる。キャッシュレスのプロセスに乗せればそれらは省かれる。

   コロナ禍では、別の面でも「後進性」が露呈。スピードが大切な政府や行政の経済支援が大幅に減速した。

「給付金の申請をオンラインでできるようになったのはいいのですが、いざ始まると住民基本台帳との照合を手作業で行う必要が生じ、結局、書類を郵便で送ったほうが早いという冗談のような事態が起きたのです」

と、野口氏。菅政権が対処しようとしている第一歩は、こうした行政サービスをめぐることだ。

   「後進性」が明らかになったのは、行政でのことばかりではない。テレワークが推奨され実施が加速しているなかで、会社の社判をもらうためにだけ出勤しなければならない実情が指摘され、電子印鑑の利用が議論されるようになった。菅政権では、河野太郎行政改革担当相がさっそく、行政手続きでの印鑑使用を原則廃止する方針を示している。

   野口氏は

「今回のパンデミックは、日本社会の旧態依然ぶりを浮き彫りにした。その点では、そうした状況から抜け出すための絶好のチャンス。逆に言えば、この機会を逃せばもうチャンスはないと心得るべき」

と、警告を発している。

   本書では、日本のデジタル・ITをめぐる現状について詳しくレポート。野口氏が主張する「現状認識」に役立つ一冊。

「虚妄のIT立国ニッポン コロナ騒動でわかったリモートワークもオンライン授業も第三世界諸国並みの真実」
新型コロナ問題取材班
宝島社
税別1200円