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「安倍踏襲」内閣なのに高支持率の不思議 菅首相から見えてくるリーダーの資質とは?(大関暁夫)

   第99代日本国首相に菅義偉前官房長官が就任しました。第2次安倍晋三内閣で終始首相の参謀役である官房長官を務めたということもあり、氏の基本方針は前内閣の方針を踏襲するとのこと。そんな所信表明を受けての新内閣の支持率は、小泉純一郎氏、民主党政権の鳩山由紀夫氏に次ぐ新内閣発足直後としては史上3番目の高さだそうです。

   小泉氏は自民党改革をぶち上げ、鳩山氏は政権交代直後という共に現状打破的な印象が強いスタートであったことを思うと、菅新内閣がなぜそこまで高い支持率を得ているのか、個人的にはいま一つピンと来ていません。

  • 菅義偉首相はコロナ禍で揺れる日本を、どう舵取りする!?(2020年9月撮影)
    菅義偉首相はコロナ禍で揺れる日本を、どう舵取りする!?(2020年9月撮影)
  • 菅義偉首相はコロナ禍で揺れる日本を、どう舵取りする!?(2020年9月撮影)

「現状維持」ではリーダーとしての力強さに欠ける

   安倍前首相が持病悪化を理由とした突然の退任であったことへの同情票的な感情なのでしょうか、あるいは長引くコロナ禍で世の中が安定感を欠く中で、前政権の基本方針踏襲ということへの安堵感なのでしょうか。

   予期せぬ前首相の辞任を受けた登板で、今後の政策方針に独自性を打ち出す時間的猶予がなかったのかもしれませんが、目立つのは携帯電話料金の値下げやら、地方銀行の経営統合やら、庶民レベルで耳触りの良い「人気取り戦術」ばかり。新首相としてコロナ禍からの日本経済回復に向けたビジョンが見えず、個人的にはややリーダーとしての力強さに欠けているのではないか、と感じてしまうところではあります。

   たまたまではありますが、時同じくして日本経済新聞の人気連載「私の履歴書」で、9月の主役であるアートコーポレーションの創業者で現名誉会長の寺田千代乃さんの文章に、菅首相とは対照的な言動の記載があり、余計にそう思わされたのかもしれません。

   アートコーポレーションは「アート引越センター」の名前で日本初の引越し専門の運送業として創業した企業で、寺田さんは創業期の70年代後半には運送屋が手すきの時に手がける仕事に過ぎなかった引越しを、一大ビッグビジネスに育てあげた「業界の母」的存在です。

   この1か月間、彼女の話には経営者やリーダーが参考にすべき話が多数ありました。その中でも、私が特に興味を惹かれたのが、状況がジリ貧状態にある時に現状維持を目標とするような弱気なリーダーでは、組織は益々下降線をたどってしまう、という彼女の考え方です。

   売り上げが下降線をたどったバブル経済崩壊後の1990年代半ば。同社の幹部連中から社内の士気を上げるために売上目標を実績レベルまで下げて、確実に目標を達成させ士気を高めたらどうかという意見が相次いだなか、寺田さんは「目標は手を伸ばしてつかもうとするもので、最初からつかめる所まで下げたものを目標とは言わない」と、これを退けたのだといいます。

   結果的に、この判断が危機感の共有を通じて組織を鼓舞することにつながり、目標は見事達成。「やればできる」という達成感を皆で共有し、その後の大発展の礎をつくりあげたのだそうです。

寺田さんの信条「反省と挑戦」に学べ!

   菅首相の新政権の立ち上がりの姿勢を、寺田さんならどう思うでしょう。我が国がコロナ禍という経済的ジリ貧状況の中にあって、一国のリーダーたる首相が、前政権をまんま引き継いだ現状維持状態という、言ってみれば、やや弱気に思われるリーダーシップは、一流リーダーである彼女の論理で従えば、経済的にさらなる下降線に導いてしまわないのか、少々不安な気持ちにさせられるところなのです。

   こんな時だからこそ強いリーダーシップをもって、たとえば「1年以内に日本経済を、コロナ以前以上の状態にまで回復さえる!」などの強い決意を、GDP(国内総生産)などの具体的な数字を示しながら、その実現に向けた具体的な指針を国民に提示するぐらいの気概があってしかるべきなのではないか、と思ったわけなのです。

   ちなみに、連載内で書かれていた寺田さんの信条は「反省と挑戦」。業務見直しの基本姿勢を常に忘れないよう、本社の入口近くに今も掲げているのだそうです。

   いろいろありながら、「臭いものに蓋」状態で世論的にも消化不良の感じを残して終わっている安倍政権時代の不祥事への「反省」と、前述のとおりスタート時点では不足ぎみに感じる新たな「挑戦」。それなくして、就任ご祝儀的な支持率の高さは長続きしないのではないか、と感じた次第です。

   日本国のリーダーとして、成功した民間のリーダーたちから学ぶことも有益でしょう。「反省と挑戦」を踏まえた菅首相の我が国のリーダーとしてのいっそうの飛躍を、一国民として心より祈ります。(大関暁夫)

※本文章はあくまでリーダーシップの観点から書かせていただいたものであり、政治的な意図は一切ございません。