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「企業版」が普及しないのはなぜ?「ふるさと納税を奪い合う構図」から脱却せよ!(鷲尾香一)

   2020年9月24日、総務省は10月からの1年間のふるさと納税を適用する1786の自治体を発表した。

   今回は申請のあったすべての自治体が参加できることになったが、依然として、ふるさと納税頼みの地方自治という問題点は解消されていない。

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知られていない「企業版ふるさと納税」の仕組み

   2019年6月から「ふるさと納税の返礼品は寄付額の3割以下とし、地場産品に限る」とする改正地方税法が施行され、総務省がふるさと納税の対象地方自治体を指定する制度が開始されている。

   この指定制度では、総務省が大阪府泉佐野市をはじめとした4地方自治体を指定から除外したことで、泉佐野市が国を相手取って訴訟を起こす事態に発展した。今年6月30日に最高裁判所が国・総務省の措置は違法とする判決を下したことで、総務省は泉佐野市を含む4自治体の制度復帰を認めている。

   一方で、東京都はこの指定制度に反対しており、今回も申請を行わず、高知県奈半利町は返礼品の基準である「地場産品」「寄付額の3割以下」について虚偽の申告を行って指定を受けていたため、2年間は制度に復帰できないことになっている。

   筆者は7月23日の「大阪・泉佐野市『逆転勝訴』でも解消されない ふるさと納税の『欠陥』」(J-CASTニュース会社ウオッチ 2020年7月23日付)で「本質的な問題はふるさと納税がなければ、地方自治が成り立たなくなっていることにある」と指摘した。

   たとえば、「地方創生応援税制」(以下、企業版ふるさと納税)の現状をみると、655の自治体しか認定を受けていない。これは、ふるさと納税制度の約3分の1だ。

   ふるさと納税といえば、個人を対象としたものと思われており、企業版についてはほとんど知られていないだろう。だが、企業版のふるさと納税は非常に有意義な制度だ。

   「地方創生応援税制」というように、企業版ふるさと納税制度に認定されるためには、自治体は地域再生計画を策定し認定を受ける必要がある。地方再生法のもと、内閣府が認定した自治体の地方創生プロジェクトに対して、企業が寄附を行った場合に法人関係税の税額控除が受けられる。対象プロジェクトは以下のようになっている。

(1)しごと創生:地域産業振興、観光振興、農林水産振興、ローカルイノベーション、人材の育成・確保等
(2)地域への人の流れ:移住・定住の促進、生涯活躍のまち等
(3)働き方改革:少子化対策、働き方改革等
(4)まちづくり:小さな拠点、コンパクトシティ等

   企業版ふるさと納税制度は、2016年に2019年までの4年間の時限措置としてスタートしたが、2020年度の税制改正で5年間延長され、さらに税額控除の拡充が図られた。

   加えて、新型コロナウイルス感染拡大で生活環境が急激に変化するなか、総務省は7 月 31 日、「企業版ふるさと納税・ヒト版(仮称)」の創設を発表した。詳細はこれから検討されるが、年度内の実施を目指している。

企業の寄付実績は2016~18年度に3130件、65億7700万円

   企業版ふるさと納税制度では、内閣府から認定された自治体の地方創生プロジェクトに対して、企業が10万円から事業費の範囲内まで寄附することができる。ただし、この寄付は自治体から企業への経済的な見返りを禁止しているため、企業の本社所在地の自治体には行えない。こうして、企業と自治体の癒着に歯止めを掛けている。

   2016年度から2018年度までの企業による寄付の実績は3130件で65億7700万円となっている。対象プロジェクト別には、以下の通りだ。

・しごと創生分野=2423件、9億2700万円
・地方への人の流れ分野=376件、8億100万円
・働き方改革分野=156件、2億7700万円
・まちづくり分野=175件、5億7200万円

   ふるさと納税制度は、返礼品に商品券や高額返礼品を設定して、「ふるさと納税を奪い合う構図」が問題となった。総務省の指定制度により、過度な返礼品はなくなったものの、「ふるさと納税を奪い合う構図」は続いている。

   その背景には、ふるさと納税で得られる資金を「年度間の地方自治に充当している」点がある。つまり、地方自治を行ううえでふるさと納税に頼っているのだ。しかし、このやり方は明らかに「自転車操業」だ。

   「企業版ふるさと納税」は地方創生事業を進めるうえで、重要な財源となる可能性がある。 「ふるさと納税を奪い合う構図」から脱却し、自立した地方自治を行うため、各自治体は知恵を絞り、魅力的で実行可能な地方創生事業を作り、「企業版ふるさと納税」を十分に活用するべきだ。(鷲尾香一)