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「アフターコロナ」の不動産投資に異変あり 今は危険、サラリーマンでもできる? 狙い目のエリアとは

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、全日空(ANA)のような一流企業でも年収が3割カットになるなど、2020年は多くのサラリーマンが収入減に苦しんでいる。

   お金に関する不安が増すなか、マネー情報サイトなどでは、投資信託などの積立投資とともに、不動産投資を勧める記事や広告があふれる。これから不動産に手を出すのは危険ではないのか。それとも「押し目買い」のチャンスなのか。不動産評論家・実業家で、多くの不動産関連の著書がある牧野知弘氏に聞いてみた。

   サラリーマンや初心者によく勧められるのが、マンションやアパートなど居住用不動産への投資だ。コロナ禍でこれらの価値に変化は生じたのか。

  • コロナ後、タワマンの価値はどうなるのか?(写真はイメージ)
    コロナ後、タワマンの価値はどうなるのか?(写真はイメージ)
  • コロナ後、タワマンの価値はどうなるのか?(写真はイメージ)

「都心まで○分、最寄り駅まで徒歩○分」だけでは...

「居住用不動産に関しては、コロナ前までは最優先された都心までの乗車時間や最寄り駅までの近さといった通勤・通学を前提とした価値だけだと、価格を落とすかも知れません。テレワークが定着し、住宅に対する価値観が変わったからです」(牧野氏)

   どういうことなのか――。牧野氏が例に挙げるのは、かつて工業地帯だった場所に林立するタワーマンションだ。電車の駅に近く、眺望も申し分ないが、マンションの敷地から一歩外に出ると周囲は倉庫や幹線道路ばかりというところも。コロナ前は、3LDKの新築なら7000万円台、高層階なら1億円を超える物件も当たり前だった。

「家やその周辺で1日を過ごすことを前提にするならば、生活環境が追いついていない立地の物件は今後、選ばれにくくなるでしょう。むしろ、これまでは通勤圏から外れていたが、海や山など自然にもほど近く、スーパーや飲食店など利便施設が豊富な郊外の物件の方が上昇を見込めます」
牧野氏は「自然が近く、都心にも1本で行ける街の物件は価値が上がるだろう」と話す(神奈川県三浦市の三浦海岸付近)
牧野氏は「自然が近く、都心にも1本で行ける街の物件は価値が上がるだろう」と話す(神奈川県三浦市の三浦海岸付近)

   また居住用だけでなく、商業用の不動産でも「郊外回帰」の動きが出始めているという。

「都心部のテナントビルは、企業がテレワークを推進してオフィスの面積を縮小する傾向にありますし、飲食店や小売店などのテナントはコロナ禍で売り上げが激減して廃業・撤退が相次ぎ、空室が増えています。ビルを手放す動きが出始めているうえに、投資家の多くはさらなる下落もあると見て、まだ様子見です」

基準地価は下落 買うならいつ?

利便性が高い港外の駅周辺ではすでに動きが激しくなっているという(埼玉県川口市の川口駅前)
利便性が高い港外の駅周辺ではすでに動きが激しくなっているという(埼玉県川口市の川口駅前)
「逆に、首都圏では川崎や船橋、浦和、川口など郊外の利便性が高い駅の周辺では、物件を物色する動きが激しくなっています。テレワーク浸透で、郊外の住宅街に暮らす人が都心部のオフィスではなく最寄り駅の周辺で過ごす時間が多くなるだろうという見立てですね。実際、物件の成約も相次いでいますが、取引価格はまださほど上昇していません」

   郊外の駅周辺のテナントビルでは、従来のような「事務所」から、コワーキングスペースやサテライトオフィスに改装する物件も出てきているという。テレワークで都心部に通わないが、自宅では仕事をしにくかったり、気分転換したりしたい人向けの需要を見込んだものだ。こうした物件も価値を上げるかもしれないという。

   気になるのは、こうした物件への投資を始めるタイミングだ。

   国土交通省が公表した2020年7月1日時点の基準地価は、住宅地、商業地、工業地などを合わせた全用途の平均で、前年比で0.6%下がり、3年ぶりに下落した。2019年までは、東京五輪・パラリンピックの開催もあり、主に都市部でインバウンドの拡大を見込んでホテルや商業施設の開発が地価を押し上げてきたが、コロナ禍で「反転」が起き始めたように見える。

   が、訪日外国人客はコロナ禍でほぼいなくなった。収束が見通せないなか、地価の下落傾向は郊外や地方でも強まる恐れがある。

「インバウンドを見込んで大量に開業したホテルや『民泊』などの簡易宿舎は厳しい状況で、売りに出ているものも多いです。が、これらを買い取ろうという動きが2020年度内に出てくると私は見込んでいます。なぜならインバウンドはまた戻るから。新型コロナはいずれ収束します。インバウンドも一定数は戻るでしょう」

   牧野氏のもとにも、ビジネスホテルや、個人投資家でも手を出せそうな民泊などに関して、多くの問い合わせがあるという。が、牧野氏は「今はまだタイミングとしては早い」と語る。

「インバウンドが2019年の水準に戻るにはあと2~3年はかかるでしょうが、その頃には価格がまた大きく上昇する可能性がある。かといって今はまだインバウンドがいないので、宿泊客もおらず、利回りが悪い。コロナ禍に耐えてきたホテルの一部で『限界』を迎えそうな、2021年の2~3月が『買い場』だと私はアドバイスしています。なので今はまだ待つべきです」

団塊ジュニアの多くが所有? 意外な不動産投資の「軍資金」とは

   郊外の物件にせよ、民泊にせよ、不動産投資に踏み出そうと思っても、「元手」がなければ始められない。すでに自宅の住宅ローンを抱えている人には、新たな事業用ローンはハードルが高そうだ。牧野氏が着目するのは、団塊の世代が1980年代前後に購入した「マイホーム」のような資産の有効活用だ。

「団塊の世代の方は、高度経済成長期の真っただ中に社会人となり、40歳前後の働き盛りの時にバブル経済期を迎えて、大都市圏の郊外にマイホームを購入しました。今後、老後を迎える方は団塊世代ジュニアの方です。彼らの多くが、親が郊外に買ったマイホームを相続することになるでしょう。この資産を売却して『軍資金』にすることで、不動産投資を始めればいいのです」
「重要なのは『一本足打法』にならないこと。不動産も、他の投資と同じように、分散投資が大切です。相続した資産をうまく活用して、なるべく借金をすることなく不動産を買い換え増していけば、年金だけに頼らずに豊かな老後を過ごすことができるでしょう」

【牧野知弘】
オラガ総研株式会社 代表取締役/不動産事業プロデューサー
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産に入社し、不動産買収、開発、証券化業務を手がける。2009年株式会社オフィス・牧野、2015年オラガ総研株式会社、2018年全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、代表取締役に就任。ホテル・マンション・オフィスなどの不動産全般に関する取得・開発・運用・建替え・リニューアルなどのアドバイザリー、プロデュース業務を行う傍ら、講演活動を展開。著書に「空き家問題」(祥伝社新書)、「2020年マンション大崩壊」(文春新書)、「人が集まる街、逃げる街」(角川新書)、「不動産激変~コロナが変えた日本社会」など。週刊東洋経済、文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。