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ポストコロナのサバイバルガイド アマチュアは通用せず、プロのみ生き残る世界へ

   1年前の今ごろには日本や世界が感染症のパンデミックに襲われることなど考えてもいなかった。コロナ禍にある世界がこの後にどうなっているかを予測することは難しい。

   本書「コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方」は、そうした中でも、経営戦略の専門家が状況を読み解いて、コロナ後に確実に起きると思われる変化を見通したもの。その変化の第一は、世界経済は大きく縮み、元の状態には戻らないということ。企業は「縮んだ経済」に合わせて戦略を立てる必要があるという。

「コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方」(遠藤功著)東洋経済新報社
  • ポストコロナの時代は「プロフェッショナル」の時代!?
    ポストコロナの時代は「プロフェッショナル」の時代!?
  • ポストコロナの時代は「プロフェッショナル」の時代!?

コロナ禍後も「70%エコノミーが妥当」なレベル

   著者の遠藤功さんは、経営コンサルタント。米ボストンカレッジで経営学修士(MBA)を得て、複数の外資系戦略コンサルティング会社に勤務。2020年6月末に欧州最大の経営戦略コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの日本法人会長を退任した。多くの企業のアドバイザー、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修に携わっている。良品計画やSOMPOホールディングスなどの社外取締役を務める。

   こうしたキャリアを持つ遠藤さんの予測では、世界経済は、コロカ禍が明けた後でも「70%エコノミーが妥当」なレベル。企業は、それに合わせて「身を縮める」しかなく「生き残るためには、痛みを伴う施策を断行せざる得ない会社も出てくるだろう」という。

   すでに実際に縮小に動いている企業もある。日産自動車は生産能力を540万台に減らすと発表。2018年には720万台だったから、4分の3になる。日産は2019年に660万台に減らすことを発表しており、コロナ禍で120万台の追加削減を決めたことになる。

   コロナ禍ではまず、インバウンドが姿を消してしまったことに代表される「移動蒸発」が起き、このことが「需要蒸発」の引き金を引き、「雇用蒸発」につながった。いわば「蒸発のドミノ倒し」。倒れたドミノをすべて組みなおすのは容易ではない。これが「70%エコノミー」が続くとみる所以だ。

人員の適正化、コストの変動費化を進める

   本書では、企業のポストコロナに向けたサバイバル戦略として、3つの方策が示されている。「人員の適正化(ダウンサイジング)を断行する」「コストの『変動費化』を進める」「目先のビジネスをものにし、しっかり稼ぐ』――がそれだ。

   日本企業は1990年代のバブル崩壊後、3つの過剰に苦しめられた。「設備の過剰」「債務の過剰」そして「雇用の過剰」。2000年代初めのリストラの断行で、設備と債務の過剰については限定的なものになったが、本書によれば、雇用の過剰は今もって大きな課題として残っている。

   そして、このコロナ禍ではさらに余剰感は増しており、ダウンサイジングをためらっている暇はない、というのが著者の主張だ。

「早期退職制度の実施、給与水準の見直し、再教育を施したうえでの配置転換など、あらゆる施策を動員して人員の適正化を進めなければならない」

   人員のダウンサイジングもさることながら、会社そのものを身軽にすることが最大のリスクヘッジだと著者は言う。そのために必要なのが、コストの変動費化による固定費の圧縮だ。コロナ禍の影響を、最も深刻に受けたのは固定費の高いビジネス。大規模設備投資型の産業や、人を多く抱える労働集約的な産業は、経済活動が止まって稼働率が一気に下がり、苦境にあえいでいる。航空会社や鉄鋼会社が代表例だ。

   これらの業界では今後、人件費について「正社員主体」から「契約社員など期間限定的な雇用形態」が増えるとみられる。日常の事業運営を担う「コア人材」を正社員として採用し、専門性を生かすプロフェッショナルやエキスパート的な人材は、契約により活用するのがこれからの人材戦略の柱の一つとなるとしている。

アマチュアのニーズは消滅

   「70%エコノミー」の中では、企業のダウンサイジング、雇用形態の変化で、コロナ前にあった雇用の蒸発が続き、一度蒸発した仕事は元には戻らない。ポストコロナ世界では「アマチュア」のニーズはなくなり、「プロフェッショナル」だけが売り手市場を享受できるようになる可能性がある。

   本書では、前半で経営者に向け、コロナをめぐる状況の解説や戦略の考え方を述べ、後半では働く人に向け、今後、仕事や働き方がどう変わるかについて予測。そこでは、「『プロ』として勝ち残るためのパラダイムシフト」として、ポストコロナにプロとして生きるためのパラダイムシフト(発想転換)を5項目提示しているほか、「プロ化するビジネス社会で生き残るための処方箋」にも紙数が割かれている。

   企業、労働者双方に向けた、ポストコロナに向けたサバイバルガイド。

「コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方」
遠藤功著
東洋経済新報社
税別1400円