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アフターコロナ時代の企業マネジメント キーワードは精神的、社会的な「幸せ」だ!(大関暁夫)

   2021年の世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」のテーマは、「グレート・リセット」です。このテーマの意味合いをクラウス・シュワプ会長は、次のように説明しています。

「第二次世界大戦後から続く社会経済システムは環境破壊をもたらすに至り、持続性に乏しくもはや時代遅れである。人々の幸せを中心としたシステムに構築しなおすべきである」

   確かに、地球温暖化などの原因とされるCO2(二酸化炭素)の削減問題をはじめ、第二次世界大戦終戦から75年を経て、社会経済システムはさまざまな歪を生み出してきました。もしかすると、今年世界中を席巻している新型コロナウイルスに対応するニューノーマル化への動きは、早急に新たな社会経済システムを生み出すべきであるという、自然界からの強い要請の現れではないのか、とすら思えるのです。

  • 新たな社会経済システム構築のキーワードは「幸せ」!
    新たな社会経済システム構築のキーワードは「幸せ」!
  • 新たな社会経済システム構築のキーワードは「幸せ」!

「Happiness」と「Well-Being」の違い

   シュワプ会長の言葉の中で我々ビジネスに携わる者が注目すべきは、新たな社会経済システム構築のキーワードとして用いられている「幸せ」という言葉です。特に、日本人の我々が着目すべきは、この言葉の言語が、我々が慣れ親しんでいる「Happiness」ではなく「Well-Being」であるということ。この2つの単語が表す意味の違いを、海外生活が長い友人に尋ねたところ、次のような答えが返ってきました。

「Happinessは感情的な幸福感を表し、Well-Beingは精神的、社会的幸福感を表しています。言い換えると、Happinessは短期的な心の状態としての幸福感を表現し、Well-Beingは安定的に感じられるどちらかと言えばより長期的な幸福感を表現していると言えます」

   シュワプ会長の説明の重要ポイントを、ひと言で「幸せ」と訳してしまうには、あまりに深い意味の違いがあることがわかります。そしてダボス会議のテーマに連なる「幸せ」がHappinessではなくWell-Beingである理由は、2015年の国連サミットで採択され現在国内の大手企業もこぞって取り組みに励んでいる、SDGs(持続可能な開発目標)とも連動していると想像がつきます。

   すなわち、SDGsの「S=Sustainable=永続的な」が、現在世界共通の取り組み姿勢であるからです。

   このように考えてくると、2021年ダボス会議におけるテーマ「グレート・リセット」のキーワードWell-Beingは、SDGsを念頭にアフターコロナに向かう企業マネジメントのキーワードとしても展開していくべきとの理解に至るわけです。

   では、企業マネジメント上どのようにしたらWell-Beingを実践していくことができるのか、少し考えてみましょう。

働く人の「幸せの4つの要因」

   慶応義塾大学大学院の前野隆司教授はパーソナル総合研究所との共同で、「はたらく人の幸福学プロジェクト」を立ち上げ、国内4634人の労働者を対象とした調査を行い、この点に関してレポートをまとめています。

   そこでは、働く人の「幸せの要因」と「不幸せの要因」について具体的に取り上げられていますが、特に「幸せの4要因」が企業マネジメントにおいて参考になるのではないかと思います。

   4つの要因は具体的に、「自己実現と成長の要因」「つながりと感謝の要因」「前向きと楽観の要因」「独立と自分らしさの要因」です。それぞれについて、反対の状態である不幸の要因との対比も含め、少しずつ説明を加えてみます。

「自己実現と成長の要因」は、やりがいや成長などを実感できるという状態です。裏を返せば、やらされ感やヤル気の欠如という状態が不幸な状態にあると言えるでしょう。
「つながりと感謝の要因」は、感謝できる環境は幸せを実感できる環境であるということであり、感謝の連鎖によるつながりや一体感がより大きな幸せにつながると言えるでしょう。逆に孤立感や孤独感は幸福感をもたらしません。組織ではまず上に立つ人から、感謝の気持ちを伝えつつ人のつながりを醸成することが重要であるといえるでしょう。
「前向きと楽観の要因」は、なんとかなると思える環境が作り出すものです。楽観的で細かいことを気にしない人は幸せで、悲観的で細かいことにばかり気を奪われるのは不幸です。リスクを取ってでもチャレンジしようとする、楽観的マインドを醸成できる環境づくりが大切になります。事なかれ主義や頭ごなしの否定は、その妨げになるでしょう。
「独立と自分らしさの要因」は、他人と自分を比べすぎる人は幸福感が低く、自分軸で判断し行動できる人は幸福感が強いという要因です。組織では、ステレオタイプな人材育成ではなく、ダイバーシティ的な発想で個々人の個性を活かせるような工夫や制度が重要になるでしょう。

   このように、「幸せの4要因」には、Well-Beingを実現する企業マネジメントのヒントにあふれているのです。

   たとえダボス会議は遠い存在であっても、出勤制限やテレワークの本格導入などで従来以上に組織内のコミュニケーションが希薄になりがちな状況下において、企業経営におけるWell-Beingの実現は確実に重要性を増してくるはずです。

   マネジメントの立場にある方々には上記4つの要因に対する自問自答を通じて、アフターコロナにおいても引き続き発展できる企業に不可欠なマネジメント要素となり得るWell-Beingに対する正しい理解を、得ていただければ幸いです。(大関暁夫)