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コロナ禍で東京から人が流出しているって本当!? 人の移動は住宅政策の基本だから要チェック(中山登志朗)

   連載3回目は不動産の市場動向に密接な関連がある、人の移動の話です。言うまでもなく、人の移動は住宅ほか不動産の需要を生み出す源ですから、人の移動がどのようになっていて、その地域で今後人口が増えるのか、それとも減るのかは住宅政策にとって大きな関心事となります。

   この人の移動のことを「移動人口」と言い、月次および年次の集計結果が総務省から「住民基本台帳人口移動報告」にまとめられて定期的に公表されています。

   これは、人が生まれて亡くなってという人口の「自然増・自然減」とは別に、人が就職や転勤ほか何らかの事情で現在の居住地から移転したケース=移動人口を集計した数字「社会増・社会減」を捉えたもので、転出超過とは特定の地域(自治体単位)について転入してきた人よりも転出した人のほうが多いということを示しています。反対に入ってきた人のほうが多ければ「転入超過」となります。

  • 人の移動は住宅ほか不動産の需要を生み出す源(写真は、東京・渋谷駅前のスクランブル交差点)
    人の移動は住宅ほか不動産の需要を生み出す源(写真は、東京・渋谷駅前のスクランブル交差点)
  • 人の移動は住宅ほか不動産の需要を生み出す源(写真は、東京・渋谷駅前のスクランブル交差点)

東京都と首都圏の直近人口がコロナで「社会減」に

   人の移動については、新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年4月に緊急事態宣言が発出されたことによる「自粛」という表現で事実上制限されることになったのですが、宣言が解除された5月中旬以降、人の移動についても緩和されるとこれまでにない現象が発生しました。

   それは東京都および東京23区からの「転出超過」です。

   これまで東京都や東京23区では長らく「転入超過」が継続していました。進学や就職などによって日本全国から数多くの人が東京に住むようになり、反対に流出する人は毎年一定数にほぼ限られているため、人口の「社会増」が続いていたのです。

   それが2020年5月には東京都で1069人、東京23区では1314人の「転出超過」が発生しました。これはコロナの影響以外の何ものでもないと断言することができます。すなわち、通常の4月および5月は転勤などで東京から転出する一定数が見込まれるのですが、その数を超える東京以外からの流入によって「社会増」が継続していました。コロナで東京に新たに来る人が大きく減少したことによって、結果的に「転出超過」になったのです。

   連日ニュースでは少ない日でも100人、多い日では400人ほどのコロナ新規感染者数が「東京」で発生したと大々的に報じられれば、イメージの中の「東京」は感染者だらけかと想像するのですが、東京都の人口は約1400万人なので多くても0.003%程度の人が新たに感染している計算です。割合としては極めて小さくても不安は常にあるため、「東京以外」から「東京」に来ることを躊躇する、もしくは家族に止められることは大いにあり得る話です。

2020年の東京の「社会増」は10万人前後にとどまる

   その後の東京都および東京23区は、一たん翌6月に「転入超過」となったものの、7月以降は3か月連続で再び「転出超過」となっています。しかも転出超過者は東京都で2000人から4000人程度に増加する傾向にあり、周辺3県を含む首都圏全域でも9月は4,201人の転出超過を記録しました。

   これまで全国から人が集まる場所、それが都心であり東京であり首都圏だったのですが、その東京で人口の社会減が発生しているのです。

   テレワークの進捗や一時的に避難する目的で東京を離れる人もいれば、新型コロナウイルスの影響で仕事を失い実家や地元に戻る人もいるわけですから、コロナの感染状況が終息に向かわず長期化すればするほど、東京および首都圏からの人口流出は続くとみておくべきでしょう。

   例年、首都圏では15万人から多い年では20万人もの「転入超過」が発生していたのですが、現状の数値を見る限り2020年は10万人前後にとどまるものと推測されます。それでも転入超過であることにはやや驚きを隠せませんが。

   同様の状況は海外でも発生する可能性が高まっています。

   アメリカでは10月上旬に実施したアンケート調査(※1)で、推計1400万人~2300万人が都市部からの移住を検討しているとされています(サンプル調査のためブレが大きいです)。

   アメリカでも日本同様にテレワークが進み、都市部に住み続ける理由が希薄になったというのが大きな理由です。また、カリフォルニア州から移住を検討する人は前年同期比62%増の約5万3000人に達し、ニューヨーク州では約4万7000人が州外への移動を検討しており(前年同期比34%増)、温暖なフロリダ州への移住希望者が約2万2000人いるとの結果も公表されています(※2)。

※1参考リンク:「Economist Report: Remote Workers on the Move

※2参考リンク:「New York's Loss is Florida's Gain: Redfin.Com Users Leaving Expensive States Picks Up With Pandemic

   洋の東西を問わず、コロナ禍は人口密度が高く経済活動によって人が頻繁に移動し、密接に連携する都市部で集中的に発生し拡大しています。そういうエリアから逃れて少しでも安心して生活できるところに転居しようと考える人が増えるのは当然のことと言えます。

   筆者が所属するLIFULLが9月に公表した「緊急実施! コロナ禍での借りて住みたい街ランキング首都圏版」(※3)では、1位が神奈川県央部の「本厚木」となり、4年連続不動の1位だった「池袋」が5位に後退するという現象も起きています。

   11月中旬から国内でもコロナの新規感染者数が再び顕著な増加傾向を示しており、感染者の多い都市部から少ない郊外方面への人の移動は今後確実に進むものと考えられます。それに伴って住むところだけでなく、生活スタイル、仕事や学校なども変わる可能性があります。人の移動から見えてくる住宅市場の変化を機敏に捉えることが求められるのが、「Withコロナの住宅市場」ということになるのでしょう。

※3参考リンク:「緊急実施! コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(首都圏版)

(中山登志朗)