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金融機関が挑むパラダイムシフト 地域金融機関に光明? デジタルバンキングとは何か

   デジタルトランスフォーメーション(DX)の波に乗り、欧米を中心に世界の金融機関でデジタル化が加速している。

   それは、インターネットを使って口座管理や資金移動ができるネット銀行ではなく、デジタル基盤の変更を必要とする「真のデジタル化」を実現したデジタルバンクの登場だ。メガバンクに比べて機動性がある地域金融機関の生き残り策の切り札でもあるという。デジタルバンキングとは何なのか――。

  • 地域金融機関が「デジタルバンク」に変わる!
    地域金融機関が「デジタルバンク」に変わる!
  • 地域金融機関が「デジタルバンク」に変わる!

現行のバンキング・システムは実物経済の「遺物」

   2020年12月17、18日に開かれる「デジタルバンキング展(DBX2020)」(日本金融通信社の主催)に先立って、事務局によるセミナーが11月30日に開かれ、コンテンツデリバリネットワーク(CDN)で知られるアカマイ・テクノロジーズ元社長で、世界のデジタルバンキングに詳しい小俣修一さん(同社特別顧問)が講演。デジタルバンキングの海外における最新事情や、日本の地域金融機関で導入を急ぐ必要性などについて解説した。

デジタルバンキングについて講演する小俣修一さん
デジタルバンキングについて講演する小俣修一さん

   金融機関は伝統的に、現金や手形・小切手という「実物」を処理するための店舗を構えテラー(スタッフ)を配して業務を運営している。地域金融機関もしかり。

   ところが、近年は「ネット経済」の規模が実物経済を上回るほど大きく成長。メガバンクはグローバル化の中でこれに対応しようとしているが、小俣さんによれば、地域の伝統的な金融機関は

「そのシステム基盤が実物経済向けに精緻に作られ、さまざまな事情から捨てることができないため、今でも多くの地域金融機関で古い技術や仕様のまま。ネット経済でのP2Pなどの金融処理にはほとんど無力」

と指摘する。

   金融機関のシステム技術の対応を歴史的にみると、エレクトロニックバンキングにより機械化対応を経て、オンラインバンキングで支店外からも即時取引が可能になるようコンピューター化を進めてきた。しかし、現代のネット経済の中で求められているのは、金融機関としてネット経済のバリューチェーンに対応できるデジタルバンキングの実現。「いつでもどこでもネットの中で途切れることなく双方向の窓口で金融サービスを提供することが求められている」ことだ。

   しかし、実物経済の「遺物」ともいえる既存のシステムを、地域金融機関は変更できていないというわけだ。

Java化、BaaS、APIへ進め

   多くの地域金融機関では、大型のホストコンピューターと専用線を使い、1959年に米国で事務処理用に開発されたCOBOL(コボル)やPL/1などの古典的なプログラミング言語を用いながら、「その周りに『デジタル化といった新しい課題への回答』を何とか飾り付けられないかと苦労しているのが現状」(小俣さん)。こうした中でデジタルバンキングを実現するためには、まず伝統的なシステム基盤を、OSに依存しないクロスプラットフォームである言語、Java(ジャバ)によるデジタル基盤(オープンシステム)に変えなければならない。

   閉じたバンキング・システムではなく、ネット経済のバリューチェーンの中で金融処理を担えるシステムを備えなければならないからだ。

BaaS事業は金融機関にとって可能性を秘める
BaaS事業は金融機関にとって可能性を秘める

   ホワイトラベルバンキング(OEM=Original Equipment Manufacturing=ソフトウエアを使って金融サービスを提供すること)によるシステムをウェブサーバーに移行したうえ、運用をクラウド化すればコスト削減と人材の有効活用の幅が広がる。

   Javaを使うことで銀行固有の機能の周辺に、ローンや保険、証券などをカバーする戦略的エコシステム(ビジネスパートナーとの協業など、共存共栄の仕組み)の構築の足掛かりとなり、ネットを通じた「顧客のくらしの手伝い」や、たとえば地元商店街の仮想化もできるだろう。また、給与計算や経費精算、請求書発行、資金繰り、マイクロファイナンスなどの企業経営アプリを創り出し、新たな手数料(役務費)の収入源にもなる。

   近い将来実現するとみられるデジタルマネーによる給与振り込みでは、スマートフォンのデジタルウオレットが振り込み先になる。つまり、デジタルウオレットが「第2の普通預金」となるわけで、金融機関の「真のデジタル化」は待ったなしなのだ。

   このような先進的な銀行サービスであるBaaS(サービスとしてのバンキング、Banking as a Service)事業が加わっていくことで、「新しい金融機関」に転換する可能性が広がる。

   米国では、アマゾンやグーグルなどGAFAの銀行業務のバックエンドとして投資銀行や信用金庫(Credit Union)がBaaSで提携しているが、こうしたIT企業やフィンテック企業、埋め込まれた金融サービスを提供したい一般企業との提携が金融機関のBaaS事業の好例だ。

地域との結びつきを強めてエコシステムを構築する

   あらゆるシーンでデジタル化が進み、小俣さんによれば、世の中のシステムはAPIを通じてクラウド上のシステムを相互利用することがトレンドになっていく。ウェブサーバーを備えた地域金融機関は独自APIを開発し、それによるBaaSを推進して、地域の中で戦略的な結びつきを強め、エコシステムを構築していくことが、今後の成長につなげる道と説く。

   「こうした課題には人材や社内文化が立ちはだかるだろう。行内を支配してきた価値観に劇的変化が求められている」と小俣さん。そのため、デジタルバンキングの実現は、金融機関にとっては「パラダイムシフト」であり、覚悟と意気込みを持って臨まねばならないという。

   なお、デジタルバンキング展(DBX2020)では、日本の地域金融機関の中で先行してDXに取り組む北國銀行(金沢市)の杖村修司頭取や、ふくおかフィナンシャルグループ(福岡市)が地銀で初めて設立するデジタルバンク「みんなの銀行」の設立準備会社の横田浩二社長らによる基調講演のほか、金融機関のDXや、デジタルバンキングについてのセミナーや展示が行われる。約30社が出展。12月17日と18日、東京駅日本橋口に直結するサピアタワー5階、ステーションコンファレンス東京とオンラインで開催する。