J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

飲食店に「網かけ」「GoTo」でふっ飛んだ緊張感 緊急事態宣言「発令」できないガースー首相に怒りの声(2)

   菅義偉首相は2021年1月4日、年頭の記者会見で、新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大の対策のため、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県を対象に緊急事態宣言を発令することを「検討する」と表明した。

   東京都の新規感染者が昨年の大晦日に1300人を超えたことをはじめ、首都圏で正月三が日も高止まりを続けていることを受けた形だ。

   しかし、この危機的状況に及んでもまだ、「検討する」という歯切れの悪い物言いと、自分は「多人数で会食」しながら飲食店に責任転嫁をするガースー首相に、

「もう誰もあなたにコロナ対策を期待しません!」

  と厳しい怒りの声が起こっている。

  • 菅首相が緊急事態宣言をためらうワケは……
    菅首相が緊急事態宣言をためらうワケは……
  • 菅首相が緊急事態宣言をためらうワケは……

代表選手にも広がる「東京五輪はないほうがいいかも」

   ところで、菅首相が緊急事態宣言発令をためらっていた大きな理由が、もう一つあった。それは、「東京五輪・パラリンピック開催」への影響だ。そうでなくても、国内の感染拡大に歯止めがかからないため、開催への機運が盛り上がらず、五輪は逆風にさらされている。そこに、緊急事態宣言を発令したらどうなるか。産経新聞(1月3日付)「五輪も影響 選手の練習制約か」が、こう伝える。

「政府が再び緊急事態宣言の発令に踏み切った場合には、今夏に延期された東京五輪・パラリンピックへの影響は避けられそうにない。選手の練習環境に制約が生じる事態も懸念され、国内外で開催可否をめぐる議論が再燃しそうだ。政府は昨年12月26日、新型コロナウイルス変異種の国内侵入を防ぐため水際対策の強化を発表。大会本番を見据えて11月に導入された外国からのスポーツ選手の特例入国措置も一部停止となった」

   昨年の緊急事態宣言の期間中(4~5月)は、トップ選手の強化拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)などが利用中止に追い込まれた。五輪まで7か月を切った今、同じ状況になれば、史上最多の金メダル30個を目標に掲げる日本選手団の強化に影響が出かねないというわけだ。

   しかし、産経新聞が心配するのは、代表選手の強化策への影響だが、もっと根本的に開催の是非にまで影響しかねない、と指摘するのが毎日新聞だ。1月3日付の「検証:コロナ再拡大、練習・試合ままならず 五輪選手の強化難航」という見出しの記事で、五輪代表選手の強化プランが宙に浮いている現状どころか、選手の間にも五輪開催に懐疑的な声が広がっている実態を、こう報告する。

「(新型コロナが爆発的に拡大している)米国など強化拠点が一時閉鎖された国は多数あり、欧州では家族が感染した競泳選手が代表選考会に出場できず涙を流す事態も起きている。さまざまな局面で公平性を保つことが難しくなっており、JOC(日本オリンピック委員会)の強化関係者は『メダルの目標は同じ土俵に上がって初めて言えること。ロックダウン(都市封鎖)を行う国もあるなか、目標を言うべきではない』と複雑な表情を浮かべる」

   そして、代表選手の間でも「五輪を開催していいのか」と懐疑的な声が広がっているという。共同通信が昨年12月に行った世論調査で、今夏の五輪開催について、「中止すべきだ」が29.0%、「再延期すべきだ」が32.2%と、合わせて6割以上が反対したことを踏まえ、毎日新聞はこう続ける。

「東京五輪・パラリンピックを目指す選手のメンタル指導にあたる荒井弘和・法政大学教授(スポーツ心理学)には、選手から『五輪は開催できるのかな』『いっそ大会がなくなってもいい。次の目標に向かえるから』との苦悩の声が届くという。荒井氏は『100%歓迎される雰囲気ではないことをみんな承知している。いろんなものを抱えながら揺れ動いている』と複雑な胸中を代弁する」
「五輪を目指す選手らをサポートする大阪体育大の菅生(すごう)貴之教授(スポーツ心理学)は『五輪などやっている場合じゃない、という声が選手らに少しずつ影響を与えている。そんなボディーブローが続けば、選手の大きなダメージになる。五輪への機運を醸成していくには、スポーツ界が一体となり、スポーツの価値を訴え続けていく必要がある』と指摘する」

   と結んでいる。

   しかし、「今、緊急事態宣言で感染拡大を止めなければ東京五輪はどうなる!」と菅首相にハッパをかけたのが、主要紙で唯一、社説で「緊急事態宣言を発令せよ」と檄を飛ばした産経新聞(1月4日付)の「主張(社説)」だ。「緊急事態宣言 首相は早期発令の決断を」の見出しで、最後にこう結んだ。

「今、目の前にある危機に対処できなくては、夏の東京五輪も開催が危ぶまれる。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は1日(元旦)、新年挨拶に『(東京五輪)はトンネルの終わりの光になる』と記した。この期待に応えたいではないか」

医療専門家「一番大事なのはリーダーからの強いメッセージ」

いつになったら終息するのか......(写真は、新型コロナウイルス。国立感染症研究所提供)
いつになったら終息するのか......(写真は、新型コロナウイルス。国立感染症研究所提供)

   こうした事態を医療の専門家は、どう見ているのか。

   濱田篤郎・東京医大教授(渡航医学)は、朝日新聞(1月4日付)「『緊急事態』要請 専門家は」の中で、こう述べた。

「11月下旬からの『勝負の3週間』が終わった後も、感染は収まらなかった。『外出を控えて』など、わかりやすい言葉で政府は国民に発信できていない。医療崩壊を防ぐために緊急事態宣言は必要だ。宣言を要請している4都県に限定し、1か月程度の期間が必要だ」

   感染症内科医の岩田健太郎・神戸大大学院教授は、同じ朝日新聞の中でこう強調した。

「基本に戻り、感染者を減らす対策を打つ必要がある。だが、宣言は最後の手段だ。『ここを超えたら緊急事態宣言を出すから、いま頑張ってください』と条件を提示すべきだ。医療崩壊で苦しむのは患者だという理解が広がり、危機感を醸成できれば宣言は回避できる」

   大曲貴夫・国際感染症センター長は、毎日新聞(1月4日付)「『第3波』感染抑え込み 『国は明確なゴール示せ』」の中で、感染者が1日あたりゼロや数人レベルの台湾やニュージーランドを例にあげ、「リーダーシップの重要性」をこう訴えた。

「社会全体が目標を持って対策できるよう、国レベルで明確なゴールを示す必要がある。『ある程度感染が収まったら、対策を緩める経済活動を元の状態に戻す』ということを繰り返すと、さらに状況が悪化するということを1波から2波、2波から3波の経験で学んだ。その繰り返すは避けなければならない。一番大事なのはリーダーからの強いメッセージだ」

(福田和郎)