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野口悠紀雄氏が解説! 在宅勤務で「コロナ転じて成長転機となす」方法

   新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済危機について、世界銀行は2020年6月に公表した報告書で、第1次、第2次の世界大戦に次ぐ深刻さだと形容している。

   現代では日本人の大半が第2次世界大戦の経験もないので、野口悠紀雄さんは、コロナによる危機を「かつて経験したことがない深刻な経済危機」と位置付ける。本書は、野口さんが新型コロナウイルスという「災い」と「福」となすヒントを寄せた一冊。

「経験なき経済危機 日本はこの試練を成長への転機になしうるか?」(野口悠紀雄著)ダイヤモンド社
  • オフィスでの仕事が「基本」なんて昔のこと…
    オフィスでの仕事が「基本」なんて昔のこと…
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働き方が変われば災い転じて福となす

「コロナが終わったところで、元の生活に戻ることはできない。コロナ後の世界はこれまでの世界と同じものではありえない。他方でコロナに対処するために導入されたさまざまな改革が、新しい社会を作っていくとの期待もある。たとえば在宅勤務。働き方が変われば、災い転じて福となすことができる」

   コロナ禍で、しばしば耳にする「ニューノーマル(新常態)」。野口さんはニューノーマルの中でとくに重要だというのが在宅勤務への移行だ。コロナ禍によって導入が推奨されたが、諸外国に比べれば日本のレベルはまだまだという。

   「eコマースやキャッシュレス化、またオンライン教育やオンライン医療についても同様の傾向」と指摘する。

   感染の可能性を高める満員電車での通勤を避けるため、テレワークやリモートワークによる在宅勤務が推奨され、多くの企業が導入したが頭打ちとなり、ニューノーマルの一つとなるには至っていない。

   その理由を、野口さんはこう指摘する。

「これまでの日本企業では、在宅勤務は育児や介護などの必要がある場合に例外的な働き方だと位置づけられてきた。つまり、在宅勤務は会社にとっては望ましくない形態であり、オフィスでの仕事が基本という考えが根強くあった」

   2020年の感染拡大のなか、西村康稔経済再生担当相が掲げた在宅勤務の政府目標は7割。だが、厚生労働省などによる調査では、東京都で5割を超えたものの、5%未満の県も少なくなかった。緊急事態宣言(2020年4~5月)が解除されると、それまで行われていた在宅勤務をやめる企業もあった。

   「在宅勤務ができる条件があるのに通勤を強いるのは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めようとしている状況では犯罪行為であるとさえいえる」と野口さんは指摘する。

「在宅勤務が望ましい」と考える日本人は80%

   ワクチン開発が相次ぎ、欧米では接種が始まっているが、コロナ禍の収束はいまだ見えていない。ウイルスの変異種が発見されているが、今後は新たな未知のウイルスによるパンデミックが起こるかもしれない。

   だから、このコロナ禍をとらえて、在宅勤務をはじめとするニューノーマルへの移行は一気に推し進めることが重要なのだ。

「ニューノーマルとは、長い時間かけて変わるというよりは、何かをきっかけに短時間のうちに変わる。そして、変化は一時的でなく、永続的だ。つまり、変化したものが元に戻らず、継続する。したがって、ニューノーマルに対応できたものが成長し、対応できなかったものが淘汰される」

   本書で引用されている世界各国の在宅勤務(テレワーク)率調査によると、ドイツ80%、米国60%で、日本は30%をわずかに上回る水準。欧米諸国以外でも、中国、インド、メキシコなどは50%以上だ。

   一方、この調査では各国別に「在宅勤務が望ましいと考える人」の割合を示しており、日本はそれが80%にのぼる。米国74%、ドイツ、フランスは68%。ここから日本は「労働者が在宅勤務を望んでいるにもかかわらず、企業がそれを認めない」国と解釈できる。

   在宅勤務のニューノーマル化を阻んでいるのは、この「オフィスでの仕事が基本という考え」の根強さに加え、紙文化やハンコ文化の伝統、社内ネットワークへの在宅接続の危険性、サイバー攻撃に対する脆弱性が指摘されている。

   これらは制度改革やネットワークの最新化、クラウドの利用などで解決できる。クラウドシステムを使えば、物理的なサーバーを設置せず少額の初期投資で、在宅勤務に適したネットワーク構築も可能という。本書では、その方法などについても詳しく解説している。

   日本では企業ばかりか政府も自分のところのネットワークに閉じこもっていて、外部のネットワークをつなげておらず、そのことが日本のデジタル化を遅らせている原因の一つだと野口さんは指摘する。

「クラウドは自社のデータを他企業に預けることになって不安だからしないと考えている人が多いのだ」
「コロナウイルスをきっかけに、日本企業での仕事の進め方を改革すべきだ。そうすれば日本の生産性を引き上げることができるだろう」

   本書では、ほかに「財政支出増でインフレにならないか?」という疑問に対する回答や「実体経済から離れた株価の動き」の理由について述べ、「迷走を続けた政治の対応」の背景などについても解説している。

「経験なき経済危機 日本はこの試練を成長への転機になしうるか?」
野口悠紀雄著
ダイヤモンド社
税別1600円