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コロナ禍に負けない「ベゾノミクス」 アマゾン化に向かう世界

   新型コロナウイルスによる感染拡大はなお収まらず、世界はウイルスとの共存を余儀なくされる「ウィズコロナ」の真っ只中。その中で、米アマゾンは「一人勝ち」ともいえる成功を収めようとしている。

   そんなコロナ禍にも屈することなく成長するアマゾンを、大企業から中小企業まで、世界でその手法をまねる企業が増えそうなのだ

   本書「アマゾン化する未来 ベゾノミクスが世界を埋め尽くす」は、コロナに負けず成長を果たしたアマゾンの知られざる内幕を探り、競合する各企業がアマゾンのやり方をまねて、アマゾンに対抗するようになる未来の世界を描いている。

「アマゾン化する未来 ベゾノミクスが世界を埋め尽くす」(ブライアン・デュメイン著、小林啓倫訳)ダイヤモンド社
  • 「アマゾン」は世界のビジネスモデルに…
    「アマゾン」は世界のビジネスモデルに…
  • 「アマゾン」は世界のビジネスモデルに…

拡散する「ベゾノミクス」

   著者のブライアン・デュメイン氏は、フォーチュン誌を中心にビジネスやテクノロジーの分野で数々の記事を執筆してきたジャーナリスト。本書は大勢のアマゾン関係者や元関係者への取材に基づいて書き上げられた。

   原題は日本語タイトルの一部にもなっている「ベゾノミクス(Bezonomics)」。レーガン元米大統領の「レーガノミクス」や安倍晋三前首相の「アベノミクス」のように、アマゾンの創始者であるジェフ・ベゾス氏の名前に「経済学(economics=エコノミクス)」を合わせた造語だ。「ベゾス流経営手法」ということになるようだ。

   デュメイン氏は、そのベゾノミクスが、発明者であるベゾス氏から離れて世界各国で有力な企業が採用するようになっていると指摘。将来、世界中のあちこちにアマゾンの経営手法をビジネスモデルとして踏襲する企業があふれるとみている、すでに拡散が始っている様子をレポートする。しかも、そのトレンドはコロナによるパンデミックで拍車がかかった。

「アマゾンはまさに、パンデミックのような危機を念頭に置いて設計されたと言っても過言ではない」

と著者はいう。

   以前は管理職が行っていた小売りに関する意思決定の多くは、今ではAIアルゴリズムによりなされており、注文や在庫保管の倉庫などに関する決定は自動で行われている。

   コロナの猛威で消費者が自宅にこもり、必要品の購入でアマゾンへの依存が強まり、注文はコロナ前から26%も増加。商品の仕入れや流通はAIで滞りなく処理され、また、採用プロセスもデジタル化されていたので、コロナ期の数週間で17万5000人の従業員を追加採用することができ、需要の急増にも難なく対応できた。

世界最大のクラウド、AWSが強み

   しかし、現場では混雑した倉庫の中で作業する従業員たちの感染を防止する措置で配送のスピードが低下。そこでベゾス氏は約40億ドルを投じて配送・倉庫システムの再設計と安全性の向上を図る。

   また、従業員の作業着の袖にAIシステムのデバイスを装着。作業員同士が近づきすぎるとライトが点灯したり警告音を発したりする仕組みで「密」状態を防ぐ環境づくりを行った。

   こうした予想外のコストを余儀なくされたアマゾンだが、小売業の世界で進んでいたオンライン化がコロナ危機で加速。消費者は「特に生鮮食品のような商品をオンラインで購入することの利便性を認識した」という。

   その証拠に、パンデミックの期間、アマゾンの食料品の注文は、2017年に高級食料品のスーパーチェーン、ホールフーズを買収したこともあり、60%も上昇した。こうしたことから、ある金融サービス会社の予測では、アマゾンの食料品の総売上高は2023年までに、2020年の水準の2倍である880億ドル(約9兆2000億円)に達するとされている。

   コロナ禍では、購買のオンライン化以外の面での変化も、アマゾンがサービス提供者として際立つことになった。アマゾンの事業の中で最も収益性が高いのは、世界最大のクラウドコンピューティング・サービスであるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)だ。

   ビジネスでのテレワーク、生徒や学生らのオンライン授業、ズームなどのビデオ会議プラットフォームを使った会議が「普通」のことになりAWSのビジネスはより強固なものになっているという。

   コロナ禍ではまた、人々はゲームやネットフリックス、プライム・ビデオなどのストリーミングメディア・サービスを利用する時間が増え、これらのサービスはみなAWSのサーバーを使って稼働している。コロナ禍以前のAWSを使ったサービスの顧客である航空会社やホテルなどは壊滅的な影響を受け、その利用をやめているが、AWS部門は2020年第1四半期に33%の成長を遂げた。

   「ウィズコロナ」が、アフターコロナ、ポストコロナに向かって、アマゾン化の時代の到来を示すことはほかにもある。アマゾンの自動化の取り組みが「ソーシャルディスタンス」の実現、非接触化の徹底と合致しているからだ。アマゾンのサプライチェーンではAIで制御されたロボットや自動運転の配送車が稼働。コロナによる再度の感染拡大や、別のパンデミックが発生するたびに、アマゾンの競争上の優位を与えるだろうと著者をみている。

アマゾンめぐり「二分する世界」

   小売りや消費者サービスですでに世界的企業となったアマゾンの「ご利益」にあやかり、各国では「〇×業界のアマゾン」というキャッチが多くみられるようになった。

   しかし、アマゾンとは関係なく、別の道を行く企業は少なくはなく、アマゾンをめぐって「ビジネスの世界は急速に二分されつつある」という。

   本書では「対アマゾン」の側に立つ企業も紹介し、「ベゾス氏がどのようにビジネスモデルを構築し、なぜこれほどうまく機能するのか、そしてこの巨大企業に対抗するために何ができるのかを、より深く探求」した。

   競合企業との対比が添えられ、アマゾンの経営戦略が立体的に迫る一冊。

「アマゾン化する未来 ベゾノミクスが世界を埋め尽くす」
ブライアン・デュメイン著、小林啓倫訳
ダイヤモンド社
税別1800円