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自動車学校が取り組んだ驚きの「カイゼン」のビックリ効果

   少子化に加えて若者のクルマ離れで、全国の自動車教習所は年を追うごとに顧客である教習生の募集に頭の痛い思いを募らせている。

   本書「20代社員4割! 売上続伸! 人が集まる自動車学校のすごいカイゼン」は、それまでの「業界の常識」を覆す経営にトライして成功した教習所の社長が、その手法を明かした一冊。かつての教習所では考えられなかった「商品開発」が、その核だ。

「20代社員4割! 売上続伸! 人が集まる自動車学校のすごいカイゼン」(藤井康弘著)あさ出版
  • 自動車学校も「カイゼン」次第で人が集まる
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新商品「プレミアム・ハイスピード」を開発

   大阪府の南部中央、泉北地域にある高石市。ここの「高石自動車スクール」が本書の舞台で、著者の藤井康弘さんはこのスクールの社長だ。スクールは高度成長期の1960年に藤井さんの祖父が設立。藤井さんは3代目として2002年2月に社長に就任した。

   藤井さんが社長に就いてから教習生が減少。それに合わせて指導員も減り、非常に厳しい経営を強いられる時期があった。本書では、そうした「底」の時期から一転。V字回復を遂げるまでのことが述べられているのだが、その原動力は、人が集まる「商品」を開発できたことだった。

   その商品が、「プレミアム・ハイスピード」。「V字回復の起爆剤になった」ほどの画期的開発だった。ラグジュアリーカーを使った高速道路教習のような響きがあるが、じつは「AT車は最短15日、MT車なら最短18日で免許が取得できる」という教習コースだ。

   自動車教習所は毎年、4月の入学・就職を控えて1~3月が繁忙期。教習生の減少に悩んでいた時期にもこれは変わらず、お客の教習生にとっては予約が取りにくい状況が続き「2か月待ち」もあり得るという。そこで考えられたのが「卒業」時期を決めたサービスの提供だった。

   繁忙期にわざわざ人集めのサービスをしなくても......。傍目はそう考えてしまうのだが、藤井社長には深謀遠慮があった。この「プレミアム・ハイスピード」で、そのうたい文句を実現することで、超短期での免許取得を叶えた教習生の満足度はグンとアップ。卒業した教習生らは「高石なら早く免許が取れる」と口コミで広げてくれて、「お客様の数が増えていく...」という好循環をつくりだせると踏んだのだ。

予約の仕組み、お客様対応をカイゼン

   じつは、本書がタイトルに掲げる「カイゼン」の真相は「プレミアム・ハイスピード」ではなく、これを商品化するために取り組んだ「改善策」のことだ。「予約の仕組みのカイゼン」、「お客様対応のカイゼン」、「教習内容のカイゼン」と3つが挙げらえている。

   その一つ、「予約の仕組みのカイゼン」をみてみよう。教習所の予約は、どこのスクールでも、たいてい同じシステムで、高石自動車スクールでも、お客である教習生がパソコンやスマートフォンを使って自分自身で管理する。

   キャンセルは簡単で、天気が良くないという理由だけでキャンセルする教習生も少なくない。しかも、とくに繁忙期ではいったんキャンセルすると次の予約が非常に取りにくくなる。だから教習のスケジュール管理を教習生に任せておくと、なかなか免許がとれない原因になる。そこで藤井社長は教習のスケジュール管理を、スクール側が主導権を持って行うようにすることで「免許取得を達成できるようサポートしていく仕組みを採用した」。

   「サポート」は、「お客様対応のカイゼン」につながる。藤井社長は、教習所が生徒となるお客にとって、運転を習いに通う場所であるにもかかわらず、居心地がよくない場所であること承知しており、その改善のため、入学から卒業までをケアする「お客様係」を、「プレミアム・ハイスピード」の導入とほぼ同時にスタートさせた。

   お客様係は教習生一人に対して、指導員一人が「担当」に付く。そのケアは、

(1)教習生のスケジュール確認・長欠の際の来校促進
(2)入学時・仮免取得時・卒業時に「ありがとう・おめでとうコール」を行う
(3)入学時・仮免取得時・卒業時、長欠時にハガキを出す
(4)卒業時に「ありがとう・おめでとうレポート」を社長宛に提出

という内容だ。

10年で売り上げが145%アップ

   「教習内容のカイゼン」では、運転技術を身につけることと並んで「運転に慣れる」ことに重点を置いてリラックスしてハンドルを握れる教習を採り入れることなどを実施。こうした、従来の教習所では考えられなかった付加価値的なサービスをでも高石自動車スクールは周辺の競合スクールとの差別化に成功。自動車教習所の業界が右肩下がりで教習生や売上を減らす中、高石自動車スクールはこの10年で売り上げが145%アップした。

   スクールの評判が向上し、その効果は売上アップだけではないと、藤井社長。若い世代の従業員が増えて会社が活性化したという。自動車教習所の業界では、社員の高齢化が進み、平均年齢が50~55歳といった学校がある。その中で、高石自動車スクールの社員の4割を20代が占める。2020年時点で社員の平均年齢は35歳。「これだけ若い社員が多い自動車教習所は全国的に見ても珍しいといえる」と、藤井社長は胸を張る。

   本書では、藤井社長が手がけた「カイゼン」を他業界でも使えるよう、詳しい手順が解説されている。

「20代社員4割! 売上続伸! 人が集まる自動車学校のすごいカイゼン」
藤井康弘著
あさ出版
1500円(税別)