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「テレワーク中の同僚の雑用が増えてつらい」女性の投稿に怒りと同情の声が交錯 同僚はママ友と楽しくランチ...(2)

   緊急事態宣言が出されてテレワークを導入する会社が増えている。しかし、誰かが出社しなければならない。そんななか、

「テレワークの同僚の雑用が増えて出社がつらい」

という女性の投稿が同情と共感を呼んでいる。

   投稿主は、4人しか事務員がいないなか、1人で毎日出社を命じられたシングルマザー。4人分の雑務を担わざるを得なくなったばかりか、ほかの社員の電話対応、来客対応で消耗しきっている。しかも、在宅ワーク中の同僚は、「勤務時間」に美容院やママ友とのランチまで楽しんでいるという。

   彼女はどうしたらよいのか――。専門家に聞いた。

  • 在宅の人にかかってきた電話もとらなくてはいけない(写真はイメージ)
    在宅の人にかかってきた電話もとらなくてはいけない(写真はイメージ)
  • 在宅の人にかかってきた電話もとらなくてはいけない(写真はイメージ)

在宅ワークだけがいい思いをするのはトップの責任

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルグループの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、今回の「テレワークの同僚の雑用が増えて出社がつらい」という投稿の話題について、意見を求めた。

――今回の投稿と回答者たちの意見を読んで、率直にどのような感想を持ちましたか。

川上敬太郎さん「本当に悩ましい状況だと思います。投稿者さんが、『体力的にも精神的にもとてもつらい』『八方塞がり』と表現されていることから、切迫した状況が伝わってきます。社長さんからは『こういう時なので乗り越えてほしい』と言われているとのことですが、このままの状態を続けてしまうと、投稿者さんの心身の負担は、いずれ限界を迎えてしまうように思います。
回答している方たちも、そんな厳しい状況を理解したうえで、我がことのように親身になっている様子がうかがえます。1人だけ出社して雑務をこなす投稿者さんは、孤独な立ち位置になりがちだと思います。回答者の方たちからのアドバイスはとても心強いのではないでしょうか」

――今回の問題の背景には2つの問題があるように思います。第1点は、現在のコロナ禍でテレワークを推進した場合、出社する人にさまざまな事務の負担が増えるという問題です。この点に関して今まで調査したことがありますか?

川上さん「コロナ禍で一度目の緊急事態宣言が出された際(昨年6月)、働く主婦層に、在宅勤務に対する意識調査を行ったことがあります。すると、『育児や介護をしながら働く人が増える』とポジティブな意見が大勢を占めました。在宅勤務する側としてはメリットのほうを強く感じる傾向にあります。
逆にいうと、投稿者さんの会社のように業務設計に不備がある職場の場合、在宅勤務の人ばかりがメリットを享受している裏側で、出社している社員にさまざまなデメリットが生じてしまっている可能性は十分考えられます。まさに在宅の3名の事務員だけがいい思いをして、投稿者さんだけがつらい思いをしている構図ですね」

急に在宅ワークを始めた会社には「出社被害者」が多い

お茶出しの雑務もこなさなくてはならない(写真はイメージ)
お茶出しの雑務もこなさなくてはならない(写真はイメージ)

――なるほど。2つ目として、職場の「名もなき雑務」の問題があります。電話とりとか、コピー機のインクの補充とか、山のようにある細かな仕事です。多くの場合、投稿者のような女性事務員だけが担わされることが多いですよね。

川上さん「そのとおりです。かつて、働く主婦層に職場の同僚とのお花見について尋ねたことがあります。その際、意外なことに職場の同僚と花見したいとは『思わない』と回答した人が6割にものぼるという結果となりました。『思わない』と回答した人に理由を聞くと、『準備、片付けに手間がかかる』『場所取りが大変』などの言葉が並びました。花見一つをとっても、職場では女性が準備や片付け、場所取りなどの雑務を任されやすい傾向があるのが実態です。
雑務というと軽く捉えられがちですが、分量が重なれば重なるほど、負担感は増していきます。1人で雑務を担わされる投稿者さんがまさにそういう状態です。管理する側は、そのことをしっかりと頭に入れておくべきだと考えます」

――今回、投稿者は「一番職場に近い」という理由で毎日出社になりましたが、こういう「在宅ワーク」と「出社」の分担の仕方をどう思いますか?

川上さん「業務分担の判断にはさまざまな要素が関係してくるため、部分的な条件だけを挙げて一概に判断の良し悪しを評価することは難しいと思います。あくまで推測ですが、投稿者さんの職場では、コロナ禍で出勤者の比率を極力下げるに当たり、通勤負荷が比較的少ない人に優先して出社してもらうことが最適だという判断になったのかもしれません。
ただ、投稿者さんは現状に強い不満を抱いています。職場側が投稿者さんの納得を得られていないことは明白であり、今の業務分担のあり方には、大いに改善余地があると考えます」

――投稿者はLINEの会話で、在宅ワーク仲間が美容院やママ友とのランチに出かけていることを知りましたが、かなり「ゆるい」会社に思われます。こういう会社の体質について、どう思いますか。

川上さん「自由さというメリットがある会社なのだろうと思います。各自が独立して仕事をコントロールできているようなので、基本的には働きやすい職場なのでしょう。ただ、投稿を見ると、『3日分の昼休み3時間分を私用でまとめてとったのでセーフ』など、労働基準法違反と思われる対応が日常化しているルーズさがあるようです。ガバナンスに難があると言わざるを得ません。投稿者さんは、会社のルーズさの犠牲になってしまったようにお見受けします」

――当然ですが、回答者の多くは「会社がおかしい」「上司や社長に掛け合うべきだ」と答えていますね。

川上さん「コロナ禍のような非常時にイレギュラーな事態が生じてしまうのは致し方ない面もあります。しかし、投稿者さんの状況は明らかにおかしいと思います。業務設計や職場体制を改善する必要がありますが、最も効果的な相談先は決定権を持つ社長さんです。既に社長さんに相談されているようなので、具体的な改善につながればと願います」

―― 一方で、「私も同じ目にあっている」という共感の声も多く寄せられました。ほかにも同じ立場で苦しんでいる人が大勢いそうです。

川上さん「コロナ禍が発生する前から、在宅勤務を進めてきた会社は、緊急事態宣言発出があっても比較的トラブルが少なかったように思います。しかし、大半の会社はコロナ禍を機に無理やり体制変更を迫られたはずです。出社および慢性的な残業が前提だった体制のままコロナ禍を迎えた会社では、投稿者さんと同じ状況になっている人がたくさん生まれていることは容易に想像できます」

「頑張らずに思い切って休んでしまうのも方法です」

職場で掃除した雑巾の洗濯も仕事だ(写真はイメージ)
職場で掃除した雑巾の洗濯も仕事だ(写真はイメージ)

――人が良すぎる投稿者は、結局、我慢する道を選んだようです。投稿者や、同じ境遇で悩んでいる人たちに、川上さんならどうアドバイスしますか。

川上さん「コロナ禍さえなければ働きやすく、給与面で恵まれていた職場なので、投稿者さんはなかなか強気に交渉をしづらいのではないかと思います。ただ、ワクチンが開発されたとはいえ、コロナ禍の終息が見えたわけではありません。我慢するだけだといずれ体調を崩してしまうのではないかと心配です。
投稿者さん自身が長く健康に働き続けるために、そして、コロナ禍が長引いても会社自体がスムーズに業務運営できるようにしていくためにも、粘り強く改善策を出し続けることをお勧めしたいと思います」

――トップの目配りが重要になりますか。

川上さん「投稿者さんに集中している業務は、俗に言われる『名もなき雑務』です。『名もなき雑務』の最大の問題は、その存在を認識していない人にとっては、『見えない雑務』である点です。社長さんには、それがはっきりとは見えていないのではないでしょうか。
一方、今は在宅勤務中でも、出勤時はその雑務に対処していたほかの事務員の方々には、見えているはずです。もっと積極的に投稿者さんをヘルプしてくれてもよいのに、と思ってしまいます。ほかの事務員たちが見て見ぬふりをしていると仮定すると、当番制で出社する提案をしても、協力を得るのは難しいかもしれません。
やはり、トップダウンで職場体制を改善してもらうことが、最も現実的な解決策と考えます。権利を強く主張して事を荒立てる対決スタンスではなく、投稿者さん自身にとっても会社にとってもプラスになるような形で、職場をより発展させる提案を粘り強く出していただきたいと思います。
とはいえ、ただでさえ疲弊している中で、それは大変なことです。思い切って休息をとっていただきたいと思います。投稿者さん自身の健康保持に必要な休息であることはもちろん、投稿者さんに戦力として長く働き続けてもらうために、会社にとっても必要な休息です。また投稿者さんがお休みを取ることで、投稿者さんが置かれている状況が、他の人にも『見える』ようになるきっかけにもなるかもしれません」

(福田和郎)