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緊急事態宣言延長、頼みの東京五輪が混迷 ワクチン接種も混乱? 菅政権「背水の1か月」(2)

   菅義偉首相が10都府県を対象に、緊急事態宣言の1か月延長を決めた。

   しかし、新型コロナウイルス感染拡大が改善し、3月7日までに宣言を解除できなければ、「菅おろし」は避けられない状況だ。

   そのためには、「国民の協力」「ワクチン接種」が必須条件だが、お先真っ暗の状態だという。

   追い込まれた菅政権の「背水の1か月」が始まった。

  • 「1か月で宣言が終わるのは難しい」と言っていた尾身茂分科会会長
    「1か月で宣言が終わるのは難しい」と言っていた尾身茂分科会会長
  • 「1か月で宣言が終わるのは難しい」と言っていた尾身茂分科会会長

官邸VS.厚労省の確執でワクチン接種が混乱する?

   政治家たちがこんな体たらくだからか、「国民の協力」にあまり期待ができないことを、朝日新聞(2月3日付)「空かぬ病床『行政の努力不十分』」が、こう指摘する。

「ソフトバンクの子会社アグープのデータによると、今回の緊急事態宣言直後は、主要駅周辺の人出は減ったものの、首都圏では早くも増加傾向となっている。『コロナ慣れ』『自粛疲れ』がうかがえる。宣言の延長にあたり、政府は現状の施策の継続を基本とし、新規の打ち出しや『出口戦略』に乏しい」

   また、菅政権がもっとも頼みの綱としている「ワクチン接種」にも暗雲が立ち込めている。菅義偉首相は2月2日の記者会見で、

「接種は2月下旬から言ってきたが、有効性、安全性を確認したうえで(医療従事者から)2月中旬にスタートしたい」

と前倒しで進める考えを示した。

   しかし、一方で昨年春の「一律現金10万円給付」時の大混乱のようにワクチン接種が遅れる可能性が出ているとの見方がある。

   産経新聞(2月3日付)「ワクチン接種 官邸VS.厚労省 3システム併存、混乱懸念 デジタル化で温度差」が、こう伝える。

「政府はワクチン接種で、全国民に番号を割り振るマイナンバー制度を使用した新たな情報連携システムを構築する。だが、別の流通管理システムも稼働させるうえ、各自治体が管理する予防接種台帳と計3システムが併存し、混乱が生じる懸念がある。政府が新システム構築を打ち出した背景には、デジタル化をめぐる首相官邸と厚生労働省の考え方の違いもありそうだ」

というのだ。

「ワクチン接種」はどうなるのか?
「ワクチン接種」はどうなるのか?

   3つのシステムの仕組みをカンタンに説明すると、実際にワクチン接種作業を行う地方自治体が、3つのシステムへの入力を行うことになり、現場の職員の負担が大きくなるという。背景には、この際、ワクチン接種を行政のデジタル化のモデルケースにしたい首相官邸と、旧来どおりの予防接種システムをもとに進めたい厚労省の縄張り意識があるようだ。「現金10万円給付」のときのように現場が大混乱に陥らなければよいが。

解除の目安「東京で1日500人」は緩すぎる

   さて、肝心の緊急事態宣言の解除の目安だが、菅義偉首相は記者会見で、

「新規感染者数でいえば、東京で1日500人、大阪で1日300人を下回ること」

などと数字を示した。

   この「東京で1日500人」の目安について、「ゆるすぎる基準だ!」と厳しく批判するのが産経新聞(2月3日付)「第4波阻止 都内感染100人以下に」だ。

「緊急事態宣言の期間が1か月延長された。昨秋からの『第3波』を数値上は克服できても、『第4波』の到来を防ぐことはできない。感染の徹底した封じ込めが今、求められている。感染症の専門家の中には『この勢いで減少すれば3月上旬に200人を切る』との見方があるが、これだけ減少させても、収束に向かうと言い切れないのが、コロナ対策の難しいところだ。実際、『第3波』の発生は、昨夏の『第2波』を完全に封じ込めなかったのが要因だ」

   さらに産経新聞は、こう指摘する。

「医療関係者の間では『十分な追跡調査を行うには100人を切る必要がある』との指摘もあり、新型コロナ対策分科会メンバーで経済学者の小林慶一郎氏も2月2日、記者団に『100人を切るか切らないかくらいまで落とすことができれば、感染者をコントロールしやすい』と語った」

   多くの人はすっかり忘れているが、昨年(2020年)4月に最初の緊急事態宣言が発令された時の東京都の新規感染者数は87人だった。そして5月に解除された時は8人に減っていた。それが現在、「500人に減ったら宣言を解除しよう」という議論になっている。「第3波」がいかにすさまじいか、よくわかる。逆にいうと、東京都で8人にまで減らしても、「第2波」「第3波」を防げなかったことになる。

海外では宣言の延長が日常茶飯事だ

緊急事態宣言の延長で新宿歌舞伎町の苦境が続く
緊急事態宣言の延長で新宿歌舞伎町の苦境が続く

   そもそも、緊急事態宣言の解除などありうるのだろうか。東京新聞(2月3日付)「宣言延長 世界で相次ぐ」は、欧米やアジアの国々で何度も非常事態宣言が出ては延長を余儀なくされている現状を、こう報告した。

「感染者が250万人を超えたイタリア。昨年1月以降、宣言の延長を重ねてきた。今年も1月13日に発表された宣言が4月末まで続く。劇場や映画館は閉鎖。移動にも制限をかけた。ポルトガルでも宣言延長が繰り返され、今年1月30日に2月14日までの延長が決まり、学校の対面授業が禁止された。タイは昨年3月の発令以降、宣言を継続。今年1月に9回目の延長が決まった」
「変異ウイルスが猛威を振るう英国はで1月、イングランド全域で3度目の都市封鎖を開始。学校の休校が続いている。感染者数、死者数とも世界最悪の米国。バイデン大統領は「愛国的な義務」として、国民にマスク着用を求めるキャンペーンを始め、他人と一定の距離確保を求める大統領令に署名した」

   こうしてみると、仮に3月7日に解除に成功しても、安心できる状況ではなさそうだ。

(福田和郎)