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バッハ会長が「東京五輪」を見捨てた!? 海外メディアが仕掛ける「森会長辞任」への包囲網(井津川倫子)

   東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視発言が世界中で炎上するなか、国際オリンピック委員会(IOC)が「森会長の発言は完全に不適切」という声明を発表。当初は「(森会長の謝罪で)この問題は終わった」という「幕引き発言」をしていただけに、「とうとうIOCが東京を見捨てたのか!」との臆測が広がっています。

   さらに、このタイミングでIOCの公式ホームページやツイッターが、2022年の「北京冬季五輪モード」に変わったことから、「やっぱり東京五輪は中止なのか」「バッハ会長の関心は北京に移っている」といった声も。海外メディアの報道では、「森会長辞任」がジワジワと現実味を帯びてきました。

  • 東京五輪・パラリンピックは風前の灯火……
    東京五輪・パラリンピックは風前の灯火……
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IOCも必死?「森発言は完全に不適切」声明ににじみ出る焦燥感

   先日の記者会見で森会長は、「東京五輪開催の問題は『世論』だ」と、まるで開催の中止や延期を求める「世論」が障害となっているような発言をしましたが、皮肉なことにその「世論」を完全に見誤ったことが「大惨事」を招いています。

   女性蔑視発言をめぐる対応の鈍さに日本国内だけでなく世界中の「世論」が大反発! さらに、沈静化を図ろうとする関係者の発言があまりにも「とんちんかん」すぎて、火に油を注ぐ結果となってしまいました。

   そんななか、当初は「味方」だったはずのIOCまでが、「森会長の発言は完全に不適切」という声明を発表。衝撃が広がっています。

The recent comments of Tokyo 2020 President Mori were 'absolutely inappropriate' and in contradiction to the IOC's commitments and the reforms of its Olympic Agenda 2020
(東京五輪組織委員会森会長の発言は完全に不適切であり、IOCの取り組みや五輪改革案のアジェンダ2020と矛盾している)

   「absolutely inappropriate」(完全に不適切)というかなり強い表現から、IOCの断固とした決意のほどが伝わってきます。

   当初は「森会長は謝罪をしたのでこの問題は終わったと考えている」というコメントを早々に発表していたはずのIOCですが、態度が急変した背景には予想以上の「世論の反発」がありました。

   スポーツ専門メディアの解説によると、とにかくIOCは日本国民の「オリンピック離れ」を危惧しているとのこと。世論調査で中止や延期を求める声が高まっていることから、森会長の発言が「オリンピックのネガティブイメージをさらに強めた」との危機感を感じているそうです。

   さらに、国際世論の反発も「想定外」だったそうで、自分たちに火の粉が降りかかってくることを恐れたIOCがあわてて声明を出した、というのが実情のようです。

IOC声明が本当に伝えたかったことは......

バッハ会長は「東京五輪」を見捨てた?
バッハ会長は「東京五輪」を見捨てた?

   実際、IOCの声明文を全部読みましたが、私が感じたのはIOCの「焦り」でした。森会長の発言に対するコメントは全体の5分の1程度。全体としては、アスリートや理事といったあらゆる立場の女性たちをサポートしてきた、という実例をいくつも並べて「女性の活躍を応援するIOC」の「業績」を必死にアピールしています。

   たしかにIOCは女性の活躍を応援してきたのかもしれませんが、そのすべてを覆すような「森発言」の衝撃。取り繕うには「すでに時遅し」ではないでしょうか。

   残念ながら、IOCの声明も「火消し」とはならなかったようで、メディアのトーンは日に日に厳しくなっています。

Japanese Olympic leader remains in job despite IOC reprimand over sexist
(日本のオリンピック組織委員会会長は、IOCの女性差別に対する叱責にもかかわらず、辞任していない:米ワシントンポスト紙)

Tokyo Olympics face another problem because of its president
(東京五輪は会長のせいで新しい問題に直面している:AP通信)

Olympics Chief Said Sorry for Demeaning Women. In Japan, That's Often Enough.
(組織委員会の会長が女性差別発言について謝った。日本では「それで十分」となるようだ:米ニューヨークタイムズ紙)

森会長を留任させるリスク

   特筆すべきは、当初の報道と比較してハッキリと「森会長辞任」に言及するメディアが増えてきていることです。さらに、「このまま森会長を留任させれば、『ジェンダー平等』を掲げるIOCの存在意義が危機にさらされる」「(森会長の留任は)東京五輪とIOCにとって決定的なダメージだ」と、森会長を留任させる「リスク」を厳しく指摘する記事が目立ちます。

   なかには、「ここ数日間でIOCが森会長を辞任させられるかどうかが見ものだ」という専門家も。辞任を前提にした「お手並み拝見」ムードが漂っていますが、果たしてIOCはどう反応するのでしょうか?

   そんななか、IOCのホームページやツイッターが「北京冬季五輪モードに切り替わった!」ことが話題になっています。「バッハ会長はすでに東京を見捨てたのか!」との声も聞こえてきますが、実際は来年2月4日の北京五輪開幕に向けて1年を切ったことから、「カウントダウン」プロジェクトが始まっただけのようです。

   たしかにIOCのホームページを見るとすっかり冬季五輪モードに変わっていましたが、私が「興味深い」と思ったのは、北京冬季五輪を礼賛するバッハ会長の下記のコメントでした。

Having seen how China is overcoming the coronavirus crisis, we are very confident that our Chinese hosts will ensure safe and secure Olympic Games
(中国が新型コロナウイルスの危機をどのように克服してきたかを見ると、私たちは中国が安心で安全なオリンピックを開催できるということに大いなる自信を抱いている)

   「コロナウイルスに打ち勝った証しとしての東京五輪」は菅義偉首相の「決まり文句」ですが、バッハ会長にとっては中国こそが「新型ウイルスの危機を克服した国」のようです。

   お騒がせ発言で火だるまになっている東京五輪のことは忘れて、さっさと北京冬季五輪に目を向けたい、そんなバッハ会長の「ホンネ」が見え隠れしているような気がしました。

   それでは、「今週のニュースな英語」「inappropriate」(不適切)を使った表現です。

It is inappropriate!
(それは不適切だよ!)

His statement was inappropriate
(彼の発言は不適切だった)

His inappropriate statement causes a backfire
(彼の不適切な発言は裏目に出た)

   それにしても、海外メディアをウオッチしていて痛感するのは日本の政界や経済界トップの「世論とのズレ」です。今回の「森発言騒動」は完全に国内外「世論」を見誤ってリスクヘッジに失敗していますが、逆に「世論」の力を再認識させられました。フツーの人たちの声こそが未来を創る、と信じたいものです。(井津川倫子)