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テレワークでも人は育つ! 人材育成のプロが書いた「新しい上司の教科書」

   コロナ禍でテレワークを導入した会社で働くマネージャー、管理職の中には、「部下の仕事の様子が見えなくなった」「耳からの情報が入ってこなくなった」とイラだっている人も多いだろう。

   そういう状況下でもテレワークで部下を育成し、チームで仕事の成果が出せるマネージャーになるにはどうしたらいいのか? 本書「テレワークで部下を育てる」は、テレワーク時代の新しい上司の教科書というべき本だ。

「テレワークで部下を育てる」(片桐あい著)青春出版社

テレワークのNG上司

   著者の片桐あいさんは、人材育成コンサルタント産業カウンセラー。カスタマーズ・ファースト株式会社代表取締役。日本オラクル株式会社サポート・サービス部門に23年間勤務し、社内の人材育成を担当した。2013年に独立し、企業研修講師として約2500人の育成に従事してきた。

   テレワークはあくまでも仕事のやり方であり、リアルに出勤しているときとテレワーク導入後で、仕事の目的や目標が変わることはない、というのが片桐さんのスタンスだ。

   ただ、テレワークで部下を育成するには、ちょっとしたコツやコミュニケーションのバリエーションが必要だと説いている。

   まず、「あなたは大丈夫?」とテレワークのNG上司のタイプを6つ挙げている。

  • ・指示出しばかりの「コントロールタワー型上司」...... 長く続けば、部下は指示待ち人間に
  • ・細かく報告されないと不安な「タクシー無線型上司」...... 報告に時間を取られ、部下は不満を持つ
  • ・何かと干渉し過ぎる「カーナビ型上司」...... 部下は自分で切り拓く力が弱くなる
  • ・感情が見えにくい「ロボット型上司」...... おもしろみのない職場に
  • ・型にはめて個性をつぶそうとする「調教師型上司」...... 優秀な人材が流出するリスクも
  • ・放りっぱなしでフォローしない「丸投げ型上司」...... 部下はやる気が沸かず、モチベーション低下

   自身がどのような傾向にあるのかを確認し、改善ポイントがわかれば、修正すればいいという。

人材育成の「5つのR」

   新型コロナウイルスが流行した2020年、片桐さんは依頼された新入社員の研修をすべてリモートで行った。

   新人たちは口をそろえて、「早く職場に行きたい」「上司や先輩の顔を見て仕事をしたい」と訴えたという。リアルな職場の空気感や緊張感を肌身で感じたい、というのが大きな理由だ。

   テレワークになると、実際に触れ合うことができず、パソコンのモニターを通じてやりとりすることになる。「俺の背中を見ろ」といった育成はできなくなった。だからこそ、伝えるべきことはきちんと言語化し、部下に対する期待を可視化する作業が常に必要になる。

   仕事における報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」は、部下から上司に対して行われるものだったが、片桐さんは「逆・報連相」を意識していくようにと書いている。

   上層部から自分に下がってきた情報をチームに落とし込み、組織で決定した連絡事項について、部下にきちんと流す。また、相談も上司から部下に対しても行うようにしましょう、と提案している。

   多様な個性の人を部下に持ち、しっかりマネジメントしていくには、自分が組織のハブになるという覚悟を決めるように求めている。

   テレワークでは人は育てられないという勘違いを正し、テレワークで人材育成をするための全体像を示している。その際に「5つのR」という要素を挙げている。

   「Reason(理由)」「Relation(関係)」「Rule(ルール)」「Route(ルート)」「Risk(リスク)」だ。

   人は自分の理由でしか動かない、人は人との関係性の中でしか成長できない、人にはルールが必要だが臨機応変な対処も、人にはコミュニケーションのルートが必要、人が成長するにはリスクを冒す必要がある、と説明している。

   テレワークで離れていても、部下の成長を信じて「5つのR」を意識し実践すれば、必ず人は育つ、と力説する。

「テラハラ」って、なんだ!?

   さまざまな実践策も紹介している。オンライン会議のルール例、一人前に育てるための「シャドーイング」、顧客対応力を高めるための「ロールプレイング」。特に「ロールプレイング」は、オンライン会議システムを使うと効果的に行うことが出来るという。

   また、朝礼・昼例などの「顔合わせタイム」、雑談と相談がフラットに出来る「ざっそうタイム」を午後イチに設定して、コミュニケーションを取る機会を増やすことも提案している。

   最後に、パワハラ、セクハラ、モラハラなど、テレワークの環境下で起きやすい各種のハラスメントの予防と対処の仕方をまとめている。

   特に、新しいハラスメントとして警鐘を鳴らしているのが、「テレハラ」だ。さしたる理由もなくテレワークを強要されたり、逆にオフィスに出社するように強要されたりすることだ。テレワーカーとノンテレワーカーでの評価の差別や情報格差なども含まれる。

   自分が加害者にならないためには、部下であるメンバーの状態を把握すること、自分の感情をよくコントロールすること、などを挙げている。

   現在テレワーク下で、一部マネジメント業務に当たっている評者にとっても、有益なポイントがいくつも書かれていた。テレワークでも「人は育つ」という著者の強い信念にも心を打たれた。

   この「新しい上司の教科書」をマスターしたマネージャーは希少価値が高く、これからの時代に求められる存在になるだろう。

「テレワークで部下を育てる」
片桐あい著
青春出版社
1400円(税別)