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「鬼滅の刃」を現代人の精神性から検討した新しい解釈書【尾藤克之のオススメ】

   社会現象となっている「鬼滅の刃」。筆者は、最初は正義感の強い主人公が成長とともに鬼を対峙するありきたりなストーリーと考えていました。しかし、コロナ禍における自粛ムードにも関わらず作品は空前の大ヒットを記録します。そこには、何か秘密があるに違いないと、誰もが思っていたのではないでしょうか。

   今回紹介する一冊は、博覧強記の哲人経営者として、ネット界で知られる著者が「鬼滅の刃」ブームに切り込んで、社会現象になった大ブームのメカニズムを完全に解き明かします。「鬼滅の刃」論の決定版といえるでしょう。

「『鬼滅の刃』に学ぶ なぜ、コロナ禍の中で大ヒットしたのか」(一条真也著)現代書林
  • 「鬼滅の刃」大ブームのメカニズムを解き明かす!(画像は「鬼滅の刃」公式サイトより)
    「鬼滅の刃」大ブームのメカニズムを解き明かす!(画像は「鬼滅の刃」公式サイトより)
  • 「鬼滅の刃」大ブームのメカニズムを解き明かす!(画像は「鬼滅の刃」公式サイトより)

「鬼滅の刃」が描く魂のルールとは

   みなさんは「盆踊り」のルーツをご存知でしょうか――。「盆踊り」は祖先などの霊魂や神を迎え、また送り出す様式として用いられていたものです。民俗学の柳田國男は長野県下伊那郡阿南町の「新野の盆踊り」がもっとも原形を留めていると評しています。

   著者の一条真也さんは、

「この例では初盆の切子灯籠を先頭にして堂や祠を回った後、村境で踊り神送りと言われる神の送り出しが行われます。この様な例から、盆踊りが踊りをもって祖先などの神を迎え、そして送り出すことに重点が置かれた行事であったことが理解できましょう」
「『阿波おどり』は盆踊りの大衆化した事例ですが、その起源は詳らかではありません。しかし、精霊踊りや念仏踊りが原形である点や、開催される時期を考えれば、盆踊りと同じ観念に基づいて形成されているとみても良いでしょう」

   と言います。

   「精霊流し」という、長崎県や熊本県、佐賀県でお盆に行われる死者の魂を弔って送る行事があります。初盆を迎えた故人の家族らが、盆提灯や造花などで飾られた精霊船に故人の霊を乗せて、「流し場」と呼ばれる終着点まで運ぶものです。この行事は、爆竹の破裂音、鉦(かね)の音、掛け声が交錯する喧騒の中で進行します。

「特に長崎市のものが有名ですが、佐賀や熊本など北部九州でみられる行事です。盆の15日もしくは16日に、盆の供え物を川や海に流して仏を送り出すものです。長崎市のものは鉦や爆竹が伴い、大変な賑わいを見せます。この行事は送り出す方面が主として注目されますが、本来は盆に先祖を迎える行事と対になっていたことが指摘されており、そうした風習が残る地域もあるといいます」(一条さん)

年中行事の意義とはなにか

   ほかにも、日本における祭礼はたくさんありますが、新型コロナウイルスはあらゆる祭礼に何らかの影響を与えていると、一条さんは指摘します。さらに、コロナ禍における祭礼のあり方は、日本人の「こころ」を安定させるためにも、今後早急に検討されなければいけない課題だともいいます。

「冠婚葬祭、年中行事、そして祭礼は広く『儀式文化』としてとらえることができます。そして、それらは『かたち』の文化です。それが何のために存在するのかというと、人間の『こころ』を安定させるためです」
「コロナ禍では、卒業式も入学式も結婚式も自粛を求められ、通夜や葬式さえ危険と認識されました。しかしながら、儀式は人間が人間であるためにあるものです。儀式なくして人生はありえません。人間の『こころ』はいつの時代も不安定ですが、だから安定させるための『かたち』すなわち儀式が必要なのです」

   一条さんは、そう見ています。

   本書は、現代人の精神性を検討したうえで「鬼滅の刃」のヒットした要因を解説しています。さらに、日本人の性質を踏まえた上で「儀式」に帰結させている点が興味深いといえます。「鬼滅の刃」の新たな解釈を知りたい人には一読の価値があるといえるでしょう。(尾藤克之)