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女性活躍なくして百貨店なし! 今後のキーワードは「アンコンシャスバイアス」 高島屋 人事部ダイバーシティ推進室の三田理恵さん

   老舗百貨店の株式会社高島屋は、女性管理職比率30%を超えている。

   2015年に「子育てサポート企業」の中でも、より高い水準の取り組みを行ったことで厚生労働大臣の認定(くるみん認定)の上位「プラチナくるみん」の認定を受けた。17年には、役員・管理職への女性の登用に関する方針、取り組みと実績などから、女性が輝く先進企業「内閣総理大臣表彰」も受賞している。

   もともと多くの女性が働く職場で、女性活躍が当たり前の企業風土が育まれてきた。女性活躍のこれまでと、さらに一歩進める取り組みがどのようなものなのか――。人事部ダイバーシティ推進室の室長、三田理恵さんに聞いた。

  • 人事部ダイバーシティ推進室 室長の三田恵理さんは「男女雇用機会均等法が施行される以前から、男女ともに総合職として働いています」と話す。
    人事部ダイバーシティ推進室 室長の三田恵理さんは「男女雇用機会均等法が施行される以前から、男女ともに総合職として働いています」と話す。
  • 人事部ダイバーシティ推進室 室長の三田恵理さんは「男女雇用機会均等法が施行される以前から、男女ともに総合職として働いています」と話す。

繁忙期の日曜・祝日は「社内保育」で育児支援

――小売業、特に販売職では女性が多いように思います。御社の場合、どのように女性活躍推進してきたのでしょうか。

三田理恵さん「当社の場合、正社員には販売職という区分はなく、男女ともに総合職として入社し、同じように仕事をしています。1986年に男女雇用機会均等法が施行される以前から同じ状況です。ただ働き方の選択肢という点で2017年に転勤を望まない、地域と職種を限定する雇用区分はできています。これは性差に関係なく働き方の選択肢として設けられたものです。
1986年以前から女性の取締役も選任されており、性別に捉われない男女同一の人事処遇を行ってきました。百貨店業を主とする当社は、お客様の8割が女性ですので、その感性や生活体験を活かせる女性の活躍は当たり前という風土ができあがっていると思っています。女性を活躍させようというより、当然のように男女を等しく処遇してきたのかと思います。1992年、『育児休業法』施行前から育児休職制度を整備しており、育児のための短時間勤務制度も法を上回る制度となっておりますし、女性の多い職場ですから、従業員のニーズに応えながら制度を整備してきた結果です」

――従業員の新規採用の時点の男女比率や社員の男女比率はどのようになっていますか

三田さん「新卒採用は男女ほぼ半々で推移しています(地域と職種を限定しない区分)。正社員数では、2011年に女性が男性の数を上回りました。2019年度末時点では女性が57%です。
この背景は、女性の勤続年数が伸びていることがあります。1991年当時女性の勤続年数は6.2年でした。このころ、女性は結婚や出産を機に退職するケースが多かったと思います。当社は短時間勤務制度を1991年に導入していますので、そこから出産後も働きながら子育するということが浸透していきました。2014年には女性の平均勤続年数が男性を上回り24.9年となりました。今では結婚、出産といったライフイベントを経ても働き続けることがごく普通になっています」

――仕事と育児との両立支援は、どこに特徴があるのでしょうか。

三田さん「当社の育児休職制度は、導入時は1年でした。それが2年に延び、今は3年間となっています。従業員の要望を踏まえ、拡充してきたということです。短時間勤務も同じで5時間なのか6時間なのかなどと、勤務時間を複数のパターンから選択できます。また勤務時間を短縮すると給与減額が発生しますので、休日数を減らすことで給与減額のないパターンも設定しています。こちらも従業員の要望に合わせて拡充してきた結果、現在、育児との両立のための勤務パターンは9種類あります。そのうち、8パターンは小学校3年生終了時まで、1パターンは小学校6年生終了時まで利用が可能です。
他には、保育の支援を行っています。育児をしながら百貨店で勤務する従業員の悩みの一つに日祝日の子供の預け先がない、ということがあります。週末や祝日といった売り場が忙しい日は、自分としても働きたい、職場からも働くことを期待されているけれど、保育園や学童がお休みで預け先がない、というジレンマがありました。これを解決するために、繁忙期の日曜・祝日限定の社内臨時保育を2017年に横浜店で開始、2019年には5店舗で実施しました。残念ながら2020年はコロナ禍で開催できなかったのですが、今後状況を、見ながら再開させていきたいと考えています」

保育スペースは高島屋で働く取引先の人も使える

店舗内の会議室などを活用して保育スペースを確保した(高島屋提供)
店舗内の会議室などを活用して保育スペースを確保した(高島屋提供)

――社内保育は、百貨店内につくっているのですか?それとも保育園などとの契約ですか。

三田さん「店舗の会議室などを活用して保育スペースをつくり、そこに保育専門業者に来ていただき、保育を実施してもらっています。この取り組みは、両立支援ということもありますが、繁忙時に仕事をして職場に貢献するのはモチベーションにも影響しますし、平日よりも接客機会の多い日曜・祝日に経験を積むことにより本人の能力開発にも寄与しますので活躍支援としても位置づけています。
また、百貨店はお取引先の販売員の方たちも多数いらっしゃるため、この社内臨時保育は、我々の直接雇用の従業員だけでなく、高島屋で働くお取引先の方も利用していただけるようにしています。実際のご利用も一定数あり、こうした取り組みを継続することによって社会課題への貢献に少しでもつながればと考えています。

――女性活躍推進を掲げて取り組んだというよりも、社員の方たちのニーズを生かす仕組みがあって、進んでいったということでしょうか。

三田さん「女性に限らず、貴重な人材が入社して育って来たら辞めてしまう、というのは会社にとって大きな損失です。圧倒的に女性が多い百貨店という事業を考えると、お客様の声に耳を傾けきめ細やかにお客様に寄り添って提案できる力、女性の感性と経験力が不可欠です。女性がライフイベントで辞めるのであれば何とかしよう、能力の発揮の阻害要因があれば取り除こう、という積み重ねをしてきた結果なのだと思います。
ただ、『女性活躍推進』は法律上整備された国の要請なので企業としてそれに応えようという後押しがあったのも事実です。より辞めなくてもいい制度を拡充しようという軸と女性の登用というもう一つの軸で何ができるのかを議論しました。当時、管理職比率、30%はまだ届いていなかったため、その実現に向けてアクションプランを立てて実行してきました。
当社の場合、2018年に30%を超えましたので次なる高みを目指すという段階に入っています。ここに至るまでには、2014年から2019年まで女性だけの選抜研修を集中的に行いました。女性の意識改革を目的にしたものでした」

――この選抜とは、どのようなものですか。上司の方が推薦するのでしょうか。

三田さん「当社の選抜研修は、部門長とすり合わせたうえで、人事からの指名です。年に一回、人事と直接面談をする機会があり、希望者全員と面談しています。そこで一人ひとりの状況が見えますし、部門ごとに行われる人材育成のための会議にも人事が参加して職場の状況や個々の課題や取り組みなどの情報を細やかに把握しています」

短時間勤務の人をマネジャーに登用する

――女性の意識改革の研修とは、管理職になるためのモチベーションや意識を醸成する内容ですか。

三田さん「そうですね。テーマは年度ごとに変えていましたが、身近なところから気づきを得るような内容にしていました。現場の第一線で活躍している女性は職場の運営やルールには詳しく部門長にも頼りにされる存在なのですが、会社の経営が今どういう状況になっているのか、百貨店業界においての自社の課題は何かなど、高い視点になると弱くなる傾向がありました。その視点の高さを引き上げる訓練を行いました。また、リーダー研修として自分の強みは何かをはっきりさせ、男性のリーダーと同じにはできないとあきらめるのではなく、女性らしいリーダーの在り方、自分の特性を活かしたリーダー像を探るような内容でした。この研修の参加者が、翌年に昇格したり、管理職に就いたり一定の効果が出ました」
「短時間勤務でもマネジャー職に登用してもいいのではないか」と、現在モデルケースづくりに取り組む(写真は、ダイバーシティ推進室の三田理恵室長)
「短時間勤務でもマネジャー職に登用してもいいのではないか」と、現在モデルケースづくりに取り組む(写真は、ダイバーシティ推進室の三田理恵室長)

――2018年に女性管理職比率30%を超えて、今後、高みを目指すということでしたが、これから女性を伸ばしていく工夫や取り組みはありますか。

三田さん「単純に男女比を考えるともっと増えてもいいと思いますので、常に前年を超えていくことを目標にしています。ここ2~3年である程度、形にできていることに短時間勤務の管理職登用があります。以前は短時間勤務を終えてフルタイム勤務になってからマネジャー職に登用していましたが、お子さんが2~3人いると20年近く短時間勤務を続けることになる場合もありました。そこで短時間勤務でもマネジャー職に登用してもいいのではないかと3~4年前からモデルケースをつくりながら取り組んでいます。形になってきていて、現在、約20人が短時間勤務でマネジャー職に就いています」

――短時間勤務の方をマネジャーにするにあたって、どんな工夫をしていますか。会社としてどんなサポートをしているのでしょうか。

三田さん「短時間勤務者を登用する際、そのマネジャーのポジションは、できるだけ多層な組織を選定しています。多層というのはその管理職の上に副部長、部門長がいるような上の層が厚いところです。上位のフォローが手厚く入りやすいところというのが一つの考えです。
もともと、短時間勤務の方は時間意識が非常に高いですし、自分が帰った後、部下に仕事を任せられるような体制づくりをしているようです。そのような時間意識に優れ、生産性が高い職場をさらに増やしていけるといいと思います」

――多層なラインに配属させるとのことでしたが、周囲の受け入れのための教育などはありますか。

三田さん「女性の意識改革研修を行った2014年から2年ほど男性の管理監督者研修を実施しました。女性の育成にフォーカスした内容で短時間勤務の部下ということではなく、女性を活躍させる、育成の仕方の内容でした」

――今後予定している取り組みがあれば、教えていただけますか。

三田さん「じつは2020年度から女性に限らず、個の時代に即した多様な部下を育成することを目的とした研修を行う予定でしたが、コロナ禍の影響で実施できなかったので2021年度に実施する予定です。あとは私の個人的な考えなのですが、今後のダイバーシティのキーワードは『アンコンシャスバイアス』だと思っています。『私は女性だから...。きっと女性はこうだろう。男性だからこうなんだ』という、無意識の偏見が女性に限らず、個の成長や組織の活性化を妨げる可能性があります。これに関して、今後何かできそうか、どうしたら効果的なのか、考えているところです」

(聞き手 水野 矩美加)


プロフィール
三田 理恵(みた・りえ)
高島屋 人事部ダイバーシティ推進室 室長
大学卒業後、1999年入社。新宿店で食料品売り場を担当。人事部のパリ研修生などを経て人事部へ。新卒・中途採用、教育などに携わり、2009年にグループ企業である東神開発へ出向、人事業務を担当。12年に育児休職を取得後、高島屋本体の人事政策担当。15年に2度目の育児休職を取得、16年復職。
2019年より現職。