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「有名企業正社員じゃないとイヤ」家計が苦しいのに働かない妻に悩む夫 どっちがどうなの? 賛否大激論!(2)

「家計が苦しいのにプライドが高くて、パートなんかしたくないという妻にどうしたら働いてもらえるでしょうか?」

   こんな40歳男性の投稿が多くの女性の同情と怒りを誘っている。

   男性の妻は、元有名企業の総合職。小学校の子供が2人おり、上の子の中学受験で塾代などにお金がかかるのに、妻は、

「有名な会社の正社員じゃないと働かない」

という気持ちが強いらしいのだ。

「何様のつもり。そんな奥さん、離婚しちゃなさい!」

という声まで起こっているが、その一方で、

「私も同じだった。奥さんの悩みがよくわかる」

という共感の声もある。専門家に聞いた。

  • 子どもが中学受験するまでは…
    子どもが中学受験するまでは…
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自分の市場価値を落としたくないという計算では

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルグループの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、今回の「プライドの高い妻に働いてほしいが...」という投稿をめぐる話題について意見を求めた。

――今回の投稿と回答者たちの意見を読んで、率直にどのような感想を持ちましたか。

川上敬太郎さん「家計を考えて妻に働いてほしいと思う投稿者さんの気持ちもわかる気がします。ただ、投稿者さんはどこまで妻の本音を理解しているのかが気になりました。『パートなんかしたくないというプライドがある』『有名企業の正社員という条件でしか働かないつもり』という2点が事実なのか憶測にすぎないのかで、投稿者さん自身がとるべき行動が大きく変わってくるように思います」

――今回のテーマに関係のある「専業主婦の働く意欲、あるいは環境」に関して調査をしたことがありますか?

川上さん「毎年一年を振り返るタイミングで、仕事と家庭の両立を希望する働く主婦層に、女性が働きやすくなった実感の有無を質問しています。2020年の調査『2020年、女性は働きやすくなったか?』では、74.8%の人が実感は『ない』と回答しました。残念ながらここ数年、働きやすくなっていないと回答する人の比率がじわじわと上昇しているのが現状です。
特に昨年(2020年)は、新型コロナウイルスの影響によって非正規で働く女性の多くが仕事を奪われました。今まで以上に働きづらい現状が続いています」

――あくまで夫(投稿者)の見方ですが、妻の「有名企業の正社員でなければ働かない」いう考えについてはどう思いますか? この考え方に対して多くの女性たちが「離婚をちらつかせたら」とまで怒りを募らせています。

川上さん「本当に妻のプライドが原因だとしたら、妻はもっと柔軟な考え方をしてもよいのではないかと思います。夫が必死になって家計のために働いているのに、自分はプライドを盾に働こうとしない、と非難の声が上がってしまうのも致し方ない面があると思います。
ただその前に、本当に妻の本音なのかどうかの検証が必要です。また、本音だとしても有名企業にこだわる理由は何なのか。本当にプライドだけで主張しているのか。有名企業で働いていた自分の市場価値を落としたくないという意味であって、家計のために自身の給与単価を少しでも高くすべきだという考えがあるのかもしれません。正社員を希望しているのも、一度パートで働いてしまうと自身に支払われる給与相場が下がってしまうと思い込んでいるのかもしれません。
投稿者さん自身が、妻の真意を誤解している可能性もあります。妻が実際にそのように発言したのだとしても、その真意は何なのか今一度しっかりと耳を傾けてみてはどうかと思います」

ジョブリターンを利用して元の会社に戻る方法も

専業主婦を続けます!
専業主婦を続けます!

――一方、妻の気持ちもよくわかるという意見も少なくありません。かつて有名企業の総合職として働きながら、家族の要望や働き口がないなどの事情で働けない実情を訴えている人もいました。

川上さん「これだけ多様性が重視され、個人の意志が尊重される時代になっても、いまだに家庭とのバランスをとりながら働くことは難しいというジレンマを多くの女性が抱えています。個人の意識のほうが進化のスピードが早いのに、社会システムのほうが追い付いていないというのが現状です。投稿者さんの妻もきっと、目の前に用意されている選択肢の少なさを感じているはずです。

――妻の希望を叶えるには、育児・介護などを理由に一度退職した従業員をもう一度雇用する「ジョブリターン制度」や、企業の元社員(OBやOG)のネットワークである「アルムナイ」を活用したらよいとの意見もいくつかありました。

川上さん「行政などが取り組んでいるジョブリターンの支援などがあればぜひ検討されるとよいと思います。仮に就業につながらなかったとしても、様々な助言や市場環境の情報を得ることができます。また、アルムナイについても働く女性の意識調査『一度退職した会社に戻るのは、あり?なし?』を行ったことがあります。
一度退職した会社に元社員が復帰できるアルムナイについて、約9割が賛成だと回答しています。そして復帰したいと思ったことが『ある』と回答した人の割合は6割近くを占めました。ただ、アルムナイについては、会社によってかなりスタンスが異なるのが実情です。投稿者さんの妻が、かつての勤め先に戻ることを選択肢に入れているのであれば、ぜひ情報を仕入れておかれるとよいと思います」

妻に働いてもらった分の家事・育児を夫が負担できるのか

――専業主婦の仕事復帰といえば、50代の男性社員が役職定年制にひっかかり、平の肩書に戻るケースがよくあります。それまで年収800万円台だったのが500万円台に減り、子供がまだ大学生・高校生なのにローンも残っており、家計がピンチになる。ずっと専業主婦できた妻が急に働かなければならなくなり、困ったというトラブルがよく聞きます。今回と似たケースですが、どう思いますか?

川上さん「役職定年に限らず、病気や事故などで仕事から離れざるを得なくなるような事態が発生することもありえます。家計の状況によっては、子どもたちにも学校を休学または退学して働いてもらわなければならないかもしれません。妻に限らず、家計を一にする者にはすべて、いざとなれば自らが働いて収入を得なければならない覚悟が必要です。それは、家事や育児といった家周りの仕事が家族全員の務めであることと同じだと考えます」

――なるほど。ところで、川上さんなら投稿者とその妻にどうアドバイスをしますか。

川上さん「まず、妻の本音を知ることから始められてはどうでしょうか。確認してみると、じつはそうではなかったということは熟年夫婦にでもあることです。妻も投稿者さんの状況が見えていないのかもしれません。家計収入は足りているのか、今後の収支はどうなりそうかといった情報をご夫婦でしっかりと共有することで、初めて話し合いのスタートラインに立てます。
投稿者さんとしては、妻に働いてもらうことが前提になっているようですが、本当にそれがベストなのかを一度検証してみていただきたい。妻が働くということは、その分、投稿者さんの家事・育児の負担が増えるということです。 また、中学受験をするならば、その分の教育コストがかかり、受験対策の負担も増えます。教育費を捻出するのであれば、収入を増やす以外に支出を減らすという方法もあります。また、中学受験せずに公立に通ってしっかり学びながら難関大学を目指すという方法もあります。ご夫婦で、お互いが持っている情報や意見、思いなどをすべて共有したうえで、一緒に解決策を練っていただきたいと思います」

(福田和郎)