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コロナ禍で窮地の鉄道会社 関連ビジネス拡大が裏目になって......

   線路に列車を走らせるだけではなく、乗客や駅周辺に集まる人を相手にしたビジネスを展開しながら経営規模を拡大させてきた鉄道会社が、長引くコロナ禍で窮地に陥っている。

   外出の自粛やテレワークの普及によって、本業の鉄道事業で乗客の減少が長期化しており、なかでもレジャーや旅行といった、コロナ禍で打撃を受ける関連ビジネスの比率が高い大手が2021年2月に相次いで業績を下方修正した。

  • コロナ禍で鉄道大手は苦戦を強いられている(写真は、西武鉄道)
    コロナ禍で鉄道大手は苦戦を強いられている(写真は、西武鉄道)
  • コロナ禍で鉄道大手は苦戦を強いられている(写真は、西武鉄道)

西武HDが滋賀県の近江鉄道を保有していたワケ

   首都圏の鉄道会社では、西武ホールディングス(HD)がその代表例だ。東京の池袋や新宿といったターミナルと埼玉県を結び、1日平均約180万人を運ぶ西武鉄道が中核会社だが、国内に47のホテルを展開して、28か所のゴルフ場や9か所のスキー場を擁するプリンスホテルも傘下に抱える。

   この西武HDが2021年3月期の連結最終損益の業績予想を下方修正。赤字幅が従来の630億円の予想から800億円に拡大するとした。これは新型コロナウイルスの再流行によって、国内外で営業するホテルなどの施設の稼働率が再び落ち込んでいるため、収益性低下を踏まえて固定資産の減損処理を実施することが主因だ。

   かつて堤義明氏が率いたコクド・西武グループを銀行主導で再編して現在の経営体制になった西武HDは、当時に手広く展開したホテルやレジャー施設を引き継いでいる。

   今回、赤字が続く完全子会社の近江鉄道(滋賀県彦根市)を、地元に無償譲渡することに伴う減損も計上している。首都圏のイメージが強い西武HDが、関西に鉄道会社を保有している事実は意外だが、義明氏の父でグループの基礎を一代で築いた康次郎氏が滋賀県出身だったこともあり、戦前に傘下に入れた経緯がある。

近鉄は早期退職を募集

   一方、関西でコロナ禍による影響が深刻な鉄道会社は、私鉄として営業距離が国内で最も長い近畿日本鉄道を中核とする近鉄グループHDだ。2021年3月期の連結最終損益の赤字額を従来予想の480億円から780億円に下方修正した。さまざまな企業をグループに抱える中で、特に経営状態が悪化しているのは連結子会社で東証1部に上場しているKNT‐CTホールディングスだ。

   なじみのある社名ではないが、その傘下にはいずれも大手旅行会社の近畿日本ツーリストとクラブツーリズムを抱えており、コロナ禍の外出自粛や出入国制限を受けて売り上げが急減。2020年12月末時点で債務超過に陥った。立て直しのため2021年1月には希望退職を募集し、全従業員の約2割が応じている。

   鉄道の乗客も減少しており、近畿日本鉄道も早期退職の募集や新入社員の採用抑制による人員削減計画を発表した。近鉄グループHDの赤字額の拡大には、こうしたリストラ関連費用も含まれている。

   大手私鉄の中でも、コロナ禍の影響を比較的受けにくい不動産事業の割合が高い社は赤字幅を抑えられており、旅行やレジャーに重点を置いてきた会社と明暗が分かれる形になった。今回の業績悪化を受けて従業員の削減に踏み切ったのは、コロナ禍による需要減が一時的ではないと判断した証左であり、2021年も鉄道会社にとって厳しい経営環境が続きそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)