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【震災10年】企業倒産は2061件、負債総額1兆7143億円 「今なお発生し続けている」

   東日本大震災が発生した2011年3月11日から、まもなく10年になる。同年3月から21年2月までの10年で、震災被害が倒産の直接・間接的な要因となった「東日本大震災関連倒産」は累計で2061件にのぼった。負債総額は累計1兆7143億円。帝国データバンクが2021年3月8日に発表した。

   倒産件数は、震災1年目だけで513件に達し、1995年に発生した「阪神・淡路大震災」関連倒産の394件、「2016年 熊本地震」関連倒産の61件(件数はともに21年2月時点の累計)をも優に超えた。

  • 震災、不景気、コロナ禍……「息切れ倒産」(写真はイメージ)
    震災、不景気、コロナ禍……「息切れ倒産」(写真はイメージ)
  • 震災、不景気、コロナ禍……「息切れ倒産」(写真はイメージ)

コロナ禍で経営環境に厳しさ、懸念される「息切れ型」倒産

   最大震度7の揺れに加え、東北地方の太平洋側沿岸を襲った巨大津波、東京電力・福島第一原子力発電所の事故などで、直接・間接を問わず過去に類を見ない広範囲な地域の企業が甚大な被害を受けた。工場など設備の損壊や、従業員や取引先の被災や販路の喪失、国内サプライチェーンの寸断などで事業継続がままならなくなった企業が続出。震災直後から、東北3県を中心に多くが倒産。その影響は直接被害を受けなかった企業にも及び、全国各地に広がった。

   しかし発生から10年が経つと、震災に起因する関連倒産は、年々沈静化に向かっている。2020年3月~21年2月までの1年間では40件と、1年目の513件に比べて1割未満の水準に減少した。

   これまでの10年をみると、なお未だ1件もなかった月はなく、関連倒産は月平均3~4件のペースで発生するなど、震災による影響がくすぶっている。

   この間、経営を再建させ事業を軌道へ乗せることに成功した被災企業がある一方、震災以降経営を立て直すことができずに行き詰った企業は少なくない。震災を要因とした倒産の中には、当初の経営再建計画の甘さや経営手法の問題などがあったとしても、「10年が経過した今、一概に東日本大震災だけが経営破たんの引き金となったとは言い難い側面もあろう」と、帝国データバンクはみている。

   たとえば、「タイサン」ブランド知られた水産加工・販売業者の太洋産業(東京都中央区)は、岩手県大船渡市にあった主力の大船渡工場が震災で全壊。経営再建を進めていたが、サンマの不漁などが追い討ちをかけたことで業況が改善せず、資金繰りが悪化して2018年7月に民事再生法の適用を申請した。

   2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大による景況感の落ち込みは大きな痛手だ。東北の主力産業でもある観光やイベントの自粛が続き、倒産の新たな「火ダネ」になっている。

   たとえば、福島県猪苗代町の田村屋旅館は沼尻温泉で最大規模の温泉旅館で、国内の利用客に加えて年間5000人ほどの外国人観光客利用があった。ところが、東日本大震災と福島第一原発事故の影響で、震災前まで利用が多かった学生や訪日外国人観光客が激減。その後も客足は回復せず、借入金の返済に苦慮してきた。

   そこに新型コロナウイルスが襲いかかり、宿泊客の相次ぐキャンセルが発生。ついに自力での事業継続は不可能と判断し、2020年3月に民事再生法の適用を申請した。

   震災から11年目に入っても被災地を中心に、こうした震災に起因した「息切れ型」倒産の増加が否定できない。

2021年の倒産件数は40件、10年連続で発生

   帝国データバンクの調査によると、「東日本大震災」関連倒産の発生状況は、震災後5年目にかけては毎年100件超が発生していた。6年目以降は本格化した復興工事をはじめ、被災地での生活再建や地域経済の再始動を背景に、関連倒産は年々沈静化の傾向をたどり、10年目となる2021年(2020年3月~21年2月)では40件と、発生から10年で最も少なかった。

   ただ、震災関連倒産のうち、地震や津波による建物の倒壊や喪失など「直接被害型」の倒産が占める割合は、震災直後に比べて大きく高まっているのが近年の傾向という。1年目の9.2%から5年目以降急速に拡大し、ピークとなる8年目には全体の56.1%を占めたほか、10年目でもなお4割を占めた。

   震災を乗り越え、政府や自治体の経営支援を活用して工場や事業所などのハード面は再建したものの、取引先の廃業や需要の低迷などで売り上げが当初の想定よりも下回ったことで、徐々に資金繰りが苦しくなり、最終的に経営が破たんするケースが多い。

   帝国データバンクは、震災がもたらした影響は10年を経た今でも企業経営に色濃く影を落としており、震災関連倒産は発生から10年、120か月連続で発生し続けているという。

東日本大震災で多くの建物が倒壊した(岩手県宮古市 2011年)
東日本大震災で多くの建物が倒壊した(岩手県宮古市 2011年)

   業種別でみると、過去10年の発生のうち最も多かった業種は「サービス業」で累計463件だった。次いで「製造業」の423件、「卸売業」の417件と続いた。

   当初は、流通網の寸断や取扱商材の風評被害、取引先の廃業などの理由で需要が急減し、中間流通を担う卸売業者での倒産が多く目立った。しかし、ここ数年は東北地方を中心に製造業の件数が増加しており、10年目では累計件数で6件差ながらも卸売業を上回った。

   さらに詳細をみると、「ホテル・旅館」が134件。地震と津波による宿泊施設の流失や損壊、観光客減少による客室稼働率の低下などを受け、借入金の返済猶予など資金繰り支援を受けつつも抜本的な収益環境の改善には至らず倒産に陥るケースが多く、震災から10年を経て、なお多く推移している。

   荷動きや取引先の減少などに見舞われた「一般貨物自動車運送」の51件、震災直後の資材調達難といった影響を強く受けた「木造建築工事」の50件、被災地の主力産業である一方、不漁や需要低迷などで業況の回復が鈍い「生鮮魚介卸」の38件などの倒産が多い。

直近5年間で倒産件数が最も増えたのは「宮城県」

   都道府県別でみると、島根県を除く46都道府県で震災関連倒産が判明。10年間の累計で最も多かったのは「東京都」の478件だった。次いで「宮城県」が205件、「茨城県」の122件、「静岡県」の115件と続いた=下図参照

都道府県別の倒産発生件数(出典:帝国データバンク)
都道府県別の倒産発生件数(出典:帝国データバンク)

   地震や津波の被害を直接受けるなど、影響が極めて大きかった太平洋沿岸では、震災10年を経過してなお倒産が多発する一方、西日本地域では直近5年間で1件も判明しなかった県が散見されるなど、年数の経過とともに震災の影響が薄まっている。

   このうち、6年目以降の増加件数をみると10件以上増加したのは6都県にのぼり、最も増加したのは「宮城県」(5年目:145件 → 205件、60件増)だった。震災10年目で200件に達し、発生件数も増えるなど発生ペースは依然として衰えがない。次いで「東京都」(437件 → 478件、41件増)、「福島県」(55件 → 89件、34件増)と続いた。