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2050年「CO2ゼロ宣言」とは何なのか! やる気がゼロ?の菅政権【震災10年 いま再び電力を問う】

   再生可能エネルギーに詳しい環境学者の飯田哲也(いいだ・てつなり)さんは、「CO2ゼロ宣言は、再生可能エネルギーの話」と言う。

   現在、菅政権が「2050年 CO2ゼロ」を宣言しているものの、そのロードマップは定かでない。原子力発電が稼働を停止している現在、日本の電力はCO2を排出する火力発電に依存している。これをどのように抑えていくのか。課題である。

   いったい日本の電力はどこに向かっていくのか――。

  • 日本の「CO2ゼロ宣言」遅すぎる……(写真は、環境学者の飯田哲也さん)
    日本の「CO2ゼロ宣言」遅すぎる……(写真は、環境学者の飯田哲也さん)
  • 日本の「CO2ゼロ宣言」遅すぎる……(写真は、環境学者の飯田哲也さん)

この30年間、日本は何もしてこなかった

――菅政権が2050年の「CO2ゼロ」を宣言しました。どのように思いますか。

飯田哲也さん「2050年は遠い先のようにも感じますが、2020年から30年を遡ると1990年です。この1990年に地球温暖化防止のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)ができ、1992年にブラジルの地球サミットで世界が地球温暖化防止枠組み条約を締結しました。すでに30年間を経て、この先の30年間の話をしようというのです。30年先が遠い話というわけではありません。
その流れの中で、日本は、これまでの30年間で何もしてきませんでした。今回、日本は「2050年 CO2ゼロ」を宣言したのですが、すでに120を超える国が『CO2ゼロ』を宣言しており、地球温暖化防止への取り組みでは劣等生ともいえる、今さらながらに遅い宣言でもあるのです。

――「2050年 CO2ゼロ宣言」のきっかけは、なんだったのでしょう。

飯田さん「2050年のCO2ゼロ宣言は、2015年のパリ協定からの流れといえます。これまでの地球温暖化防止の取り組みは、経済を重視すれば火石燃料を使用せざる得なく、いわゆる『経済と環境の対立』を解消する決め手がありませんでした。さらに、途上国に対しては地球温暖化防止の取り組みが発展を妨げてしまう、『先進国と途上国の対立』も温暖化防止の取り組みを妨げる問題として立ちはだかっていました。その状況を打開する『魔法の弾』(特効薬)が自然エネルギーであり、とりわけ太陽光発電と風力発電なのです。
太陽光発電と風力発電は2010年からの10年間で大きく進展しました。世界は、地球温暖化防止に向けて最速かつ最大の効果を期待できるのは、この太陽光発電と風力発電を利用した『自然エネルギー100%』こそが最も実現可能であることを、世界中で確信しています」

――世界の産業界も変化しています。

飯田さん「はい。世界の産業界も、自然エネルギー100%を目指す企業の集まりである『RE100』(「事業運営を100%再生可能エネルギーで調達すること」を目標に掲げる国際的なイニシアチブ)が2014年に始まりました。300社にのぼる世界のグローバル企業が参加していますが、自然エネルギーへの認識が変わっていったのがこの時期といえます。
しかし、日本ではRE100の自然エネルギー100%の運動は、原発ゼロを意味するため、経済産業省と日本経済団体連合会が、この運動を日本で『禁句』にしたとささやかれています。実際に日本の企業がRE100に参加したのは、RE100の発足から3年後の2017年のリコーが最初です。現在でも30社程度しかありません。日本では、政府も産業界も、CO2ゼロに向けての認識はほど遠いといえます。 すでに世界は、『2050年には太陽光と風力が中心になる』というエネルギーシナリオが中心です。太陽光エネルギーが7割。風力エネルギーが2割。その他の自然エネルギーで、再生エネルギー100%という構造です。これに対して、日本では菅政権が『2050年CO2ゼロ宣言』をしましたが、その実現をめぐって、国内で原発推進派と再生可能エネルギー推進派も対立しています。米国のバイデン政権が200兆円もの予算を投じるグリーンニューディール政策のような動きもありません。菅政権に確信をもって『再エネ100%』に変えていこうという意思があるかは疑問です」

自然エネルギー100%で産業はどう変わるのか?

「自然エネルギー100%への移行は100年に一度の大転換」と飯田哲也さんは言う
「自然エネルギー100%への移行は100年に一度の大転換」と飯田哲也さんは言う

――仮に日本の電力が100%再生可能エネルギーになったら、わたしたちの生活はどのように変わりますか。

飯田さん「自然エネルギー100%への移行は、100年に一度の大転換で、産業界の姿も変えようとしています。化石燃料と原発の大規模集中型の独占的な体制から、再生可能エネルギーと省エネの小規模分散ネットワーク型への大転換です。モビリティの分野でも『電気自動車+自動運転+ライドシェア』への流れが加速し、これまで日本の屋台骨を支えてきた自動車産業は大転換すると予測されています。『電気自動車+自動運転+ライドシェア』は、クルマを買わなくも、スマートフォンでいつでもどこでもクルマに乗れて、移動コストが10分の1になる未来の姿です。遅かれ早かれ、10年ぐらいでクルマを買うライフスタイルは一気に変わります。今、世界の自動車メーカーは、生き残りをかけて自動運転などの分野に投資を集中しています。電気自動車を造って売れば良いという話ではないのです。
自然エネルギー100%への転換は、長い歴史の視点で見ると大転換の時期であり、100年後に今を振り返ってみて『変わった』ことを実感することでしょう。
賢い国は、計画とルールをきちんと作って変わっていこうとしています。その点、日本は遅れています。世界の自然エネルギーはかなり安くなりました。隕石が落ちるかのようにコストが下がっています。その世界のスピードに日本も遅かれ早かれ巻き込まれていくことは明白です。遅れるほど痛みは大きいものになります。いかに早くスムーズに変革していくか。古い価値観で日本の変革を押しとどめている場合ではないのです」

日本の電力の未来像

飯田哲也さんは「電力の未来像は『インターネット』のようなものになる」と話す。
飯田哲也さんは「電力の未来像は『インターネット』のようなものになる」と話す。

――電力の未来は、どのようになるのでしょうか?

飯田さん「電力の未来像は、ひと言で『インターネット』のようなものになると思います。インターネットの初期に、無数のプロバイダーが出現しては集約されてきました。たとえば太陽光発電も、インターネットと同じようにベースのインフラが作られていくと予想します。電力そのものは、電力会社が巨大な火力発電所や原子力発電所でつくる必要はなく、いざとなれば自宅での太陽光発電や蓄電池などで足りるという、選択肢が多く柔軟なものになっていくと思われます。それはインターネットのように『意識しなくても使える』存在に近いものといえるでしょう。
そして、電力の未来像からみると、意識しなくても使える電力が何かというよりは、電力そのものが『何のためにあるか』というテーマを問い直さなければならないと思います。インターネットの場合では、プロバイダーが光回線でもどこでも、それを利用して『自分の生活、人生、仕事にどう生かすか?』がテーマになります。
では、電力の場合はなにがテーマになるのか。それは『人間の幸福な暮らしを支えるベース』であることではないでしょうか。たとえば、住宅ではスカスカで断熱が十分でない住宅では、冬はストーブや暖房をつけて無理にでも暖めなければなりませんが、断熱がしっかりしていれば家は暖かく、エネルギーを使わなくても快適に暮らせます。
エネルギーが自分たちの幸福な、不安のない暮らしにどう役立っていくのか? そのようなインフラとして広がっていくのが電力の未来像だと思います。そして、意識しないフレキシブルな電源として提供できる電力は、やはり自然エネルギーであり太陽光エネルギーなのです」

(聞き手 牛田肇)


プロフィール
飯田哲也(いいだ・てつなり)
環境学者
特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 所長

京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。国際的に豊富なネットワークを持ち、21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)理事、世界バイオエネルギー協会理事、世界風力エネルギー協会理事などを務める。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故発生以降は、経済産業省資源エネルギー庁、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員(~2013年)や内閣官房原子力事故再発防止顧問会議委員(~2012年)、大阪府、大阪市特別顧問(~2012年)など、政府や地方自治体の委員を歴任。日本を代表する社会イノベータとして知られ、自然エネルギーの市民出資やグリーン電力のスキームなどの研究と実践と創造を手がけ、いち早く「戦略的エネルギーシフト」を提言した。
主な著書に「エネルギー進化論」(ちくま新書)、「エネルギー政策のイノベーション」(学芸出版社)、「北欧のエネルギーデモクラシー」、共著に「『原子力ムラ』を超えて ~ポスト福島のエネルギー政策」(NHK出版)などがある。
1959年、山口県生まれ。