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不動産・住宅購入や賃貸借契約の際 「水害リスク」の説明が義務化された(中山登志朗)

   地震、台風、集中豪雨、噴火......。日本は「災害大国」です。2019年に発生した台風15号と19号は日本各地で大きな被害を生み、多くの方が犠牲になったり、住宅を失ったりしたことは記憶に新しいところです。また翌2020年夏には集中豪雨で球磨川が氾濫して大きな被害を出しました。日本の自然災害は温暖化の影響か年々その強さを増している印象があります。

   また、2021年3月11日は東日本大震災発生から10年という区切りの年でもあり、関連する報道も数多くなって、改めて自然災害から生命・身体そして財産を如何にして守るかということを考えている方も多いことと思います。

   これだけの「災害大国」の日本ですから、何処に住んでも絶対安全とは言えないまでも、相対的に災害リスクの低いところ、たとえば海から離れた高台や、川や運河がないところなどに住みたいというニーズは確実に増えてきています。

  • 住宅購入の際には「水害リスク」の説明が義務化された(写真はイメージ)
    住宅購入の際には「水害リスク」の説明が義務化された(写真はイメージ)
  • 住宅購入の際には「水害リスク」の説明が義務化された(写真はイメージ)

自然災害が多発するなか「説明の義務化」は当然

   そんななか、2020年8月に国土交通省の省令である「宅地建物取引業法施行規則」の一部が改正され、不動産取引において説明しなければならない重要事項に、水防法に基づいて作成された「水害ハザードマップ」を活用した水害リスクが追加され、義務化されました。

   これまで土砂災害や津波に関するリスクは重要事項説明の項目になっていましたが、不思議なことに水害リスクは対象になっていませんでした。冒頭の例を挙げるまでもなく、全国各地で地震や自然災害が多発する日本では説明義務化は当然のことと言えるでしょう。

   今回の改正によって、不動産会社は全国の各自治体が作成した水害ハザードマップを基に、物件の位置を示して浸水のリスクの有無などを顧客に説明しなければならなくなりました。併せて、近隣にある避難所の場所も伝えることが求められています。

   今後は重要事項説明時に水害リスクに関する説明を怠れば宅建業法違反となりますから、業務改善命令および業務停止命令などの処分を受ける可能性も十分考えられます。

   丘陵地や里山を造成した住宅地などは比較的急な斜面が多く、大量の雨が降ると土砂崩れや崖崩れが発生することがあります。こういった危険が想定されるエリアを過去の水害などから正確に把握し、地図に落とし込んで自治体が作成したものが「水害ハザードマップ」です。これまで目立った大きな水害が発生していないエリアではこの水害ハザードマップが更新されていないケースも散見されるようですが、たとえ古いものであっても、それを基に説明しなければならないという宅地建物取引業者の義務には変わりがありません。

重要事項説明は多岐にわたる

ネガティブな情報を含め、たくさんの説明を受ける......
ネガティブな情報を含め、たくさんの説明を受ける......

   不動産の売買契約や賃貸借契約の前には、必ず買主および賃借人は「重要事項説明」を受ける必要がありますが、それは宅地建物取引業者に説明する義務が課せられているためです(宅建業法第35条)。

   この契約を進めるにあたって文字どおり知っておく必要がある重要な事項について説明を受け、契約を締結するか否かの判断材料とするものですが、説明については必要かつ最小限に留められることもあります。

   つまり、今回追加された水害リスクや以前から重要事項説明項目であった土砂災害や津波に関するリスクは、これらのリスクが該当する地域であればネガティブな内容を多分に含んでいることになりますから、できればさらっと説明して通り過ごしたい事項ということになります。

   そもそも、重要事項説明で宅地建物取引業者が説明しなければならない項目は、多岐にわたります。

   列挙すると、まず基本項目として(1)有資格者である宅建士であることの確認や(2)物件所在地・態様の確認、(3)登記簿上に記載された事項の説明などから始まって、(4)建築基準法や都市計画法による利用制限の有無、(5)道路付けや電気・ガス・水道の敷設・設備状況、(6)契約条件や契約解除に関する事項、(7)損害賠償や違約金、手付金の保全についての説明、(8)改正民法に対応した売主もしくは賃貸人の契約不適合責任の範囲と履行に関する事項、(9)住宅ローンの斡旋に関する事項、(10)マンションであれば区分所有に関連する事項、(11)敷地権利に関する事項、(12)共用部および専有部ほかに関する多くの規約の説明(修繕積立金や管理費、管理の委託先などについても説明を受けます)など......です。

   これらに加えて、(13)造成宅地防災区域内および土砂災害警戒区域内であるか否かの確認、(14)アスベスト使用調査の有無とあれば調査結果などのネガティブファクターを説明したうえで、さらに(15)水害リスクについての説明も、新たに受けることになるわけです。

リスク説明のタイミングによる受け止め方の違いがポイント

   実際に重要事項説明を受けると、特に売買契約の場合は長時間に及ぶことも珍しくありませんから、一つひとつの項目について、集中力を切らさずに都度質問があれば差し挟んで、などと対応していくのはとても大変な労力を必要とするものです。

   したがって、この重要事項説明を受けるタイミングというのも、この新しく加わった水害リスクについてイメージするのに重要なポイントとなるだろうと思われます。

   というのも、このネガティブな事項について、物件購入および賃貸契約の比較的早い段階でも(他にも候補がいくつかあって検討している段階のイメージです)重要事項説明を受けることは想定されるため、仮にハザードマップで水没可能性が高いとされる色分けがされていて説明を受ければ、その段階で購入でも賃貸でも候補から除外される可能性が高いと考えられます。

   一方、周辺環境や価格、利便性や交通条件などから候補内で最も購入もしくは賃貸に最も前向きに検討したい物件である場合は、水害リスクに限らずネガティブファクターを強く意識せずに(ハザードマップ上では該当するが発生するかどうかわからない水害リスクでこの物件を諦めたくないという感情が発露するため)が判断してしまうこともあり得ます。物件購入や賃貸の契約を結ぶ判断をするうえで、説明を受けた際の受け止め方がポイントということです。

   もちろん発生規模にも寄りますが、水害は発生すると物件の使用に重大な阻害要因となるだけでなく、居住者の生命・身体にも影響する可能性が高いリスクですから、物件を買う、借りる際の前提条件としてハザードマップを確認するという姿勢が必要です。

   国交省では、「ハザードマップポータルサイト」を公開していますから、ネットから容易に確認することができます。

   このサイトでは水害リスクだけでなく、土砂災害、高潮、津波、道路防災情報も併せて確認できますから、現在住んでいるところがどのような自然災害のリスクがあるのか(またはないのか)について、調べておきましょう。

   なお、この制度変更に先立って2020年6月には都市再生特別措置法が改正され、土砂災害特別警戒区域などのいわゆる「災害レッドゾーン」と呼ばれる区域では、学校や店舗などの建設が原則として禁止されました。より安全に、より安心して住むことができる社会を目指す姿勢は、はっきり示されています。(中山登志朗)