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IHIが1年ぶり高値 「稼ぎ頭」の航空部門の回復見通しを好感

   産業用装置・資材大手のIHIの株価が2021年3月12日に一時、終値で前日比5.8%(122円)高の2229円をつけ、約1年ぶりの高値となった。

   同日付の日本経済新聞朝刊で、山田剛志副社長が主力の航空部門について「2022年3月期の営業赤字は最大でも200億円」と、今期から好転するとの見通しを示したことが材料となった。コロナ禍で打撃を受けた航空機エンジン事業が、ワクチンの普及で回復するとの期待から投資家の買いが集まった。

  • ワクチンに期待! 航空部門に明るさ(写真はイメージ)
    ワクチンに期待! 航空部門に明るさ(写真はイメージ)
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航空エンジンは国内首位を誇る

   IHIの2021年3月期決算で、航空部門の営業赤字は400億円にのぼる見込みだ。こうした状況を踏まえて山田副社長は、部品の外部発注の見直しや研究開発費の凍結などで固定費を100億円以上削減する中で、新型コロナウイルス感染症のワクチンの普及によって民間機エンジンなどの需要は7~9月期以降は回復基調に戻ることが見込めるため、回復が可能との見方を披露した。

   一方、エネルギー部門などは増益を見込めるとした。

   IHIの歴史は、米国からペリーが来航した1853年に発足した「石川島造船所」に始まり、造船が祖業だ。1960年に石川島重工業と播磨造船所が合併して石川島播磨重工業となった際の初代社長は、後に東芝の社長や日本経済団体連合会会長、鈴木善幸内閣時代に行財政改革を審議した第2次臨時行政調査会会長を務めた土光敏夫氏だった。

   中国や韓国との競争が激しい造船事業は、次第に本体から遠ざかる格好となり、現在の稼ぎ頭は航空部門。なかでも航空エンジンは国内首位を誇る。社名は2007年に現在のアルファベット3文字の「IHI」になっている。

   現在の業容をもう少し詳しくみてみよう。

   航空部門は宇宙、防衛事業も擁し、2020年3月期の営業利益は403億円と4部門合計(セグメント間取引等調整前)の営業利益700億円の57.6%を占める、文字どおりの屋台骨だ。他3部門は、橋梁・水門や海洋構造物などの社会基盤部門(同期の営業利益は134億円)、パーキングシステムやシールド掘進機などの汎用機械部門(同114億円)、ボイラーなどのエネルギー部門(同47億円)となっている。

江戸時代に創業したIHIのもう一つの強み

   2021年3月期においては、この主力の航空部門が苦戦を強いられた。旅客需要の低迷によりエアライン各社の経営が悪化しており、IHIのエンジンやスペアパーツの販売が大きく減少してしまったのだ。

   国内便は細々ながらも運航は続いているが、国際便の不透明感は大きく、国際航空運送協会(IATA)の予測によれば、2019年の水準への回復が想定されるのは2024年である。

   野村証券の2021年3月9日付のリポートでは、同日にIHIの井出博社長とのミーティングがあり、航空機関連の事業環境については「ワクチンの普及などにより旅客需要に回復の可能性はあるものの、まだ楽観的にはとらえられないとして、慎重な見方が示された」と記している。そうしたなか、当事者がやや明るい見通しを示した日経報道に投資家が反応した。

   一方、江戸時代に始まるIHIは古くから所有する土地を生かした不動産事業という強みもある。2021年3月期に全体としては営業黒字を確保する見通しであるのも、不動産事業が下支えしていることが大きい。

   現在、賃貸収入を得ている不動産以外にも東京都や愛知県に今後開発や売却を進める物件がある。こうした不動産の収益をいかに将来の成長につながる投資に振り向けられるか――。投資家が注視しているとの見方もある。(ジャーナリスト 済田経夫)