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変異ウイルスの今そこにある危機 尾身氏に激怒された菅首相が「あきらめ」の宣言解除(1)

   菅義偉首相2021年3月18日、首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言を解除した。東京都や埼玉県では下げ止まりどころか、明らかにリバウンド状態だ。変異ウイルスの感染者も、どんどん増えている。

   主要メディアの報道を見ると、菅首相も「あきらめ」と「打つ手なし」の末、解除に踏み切ったことがわかる。こんなことで大丈夫なのか?

  • 「あきらめ」の末、緊急事態宣言を解除した菅義偉首相
    「あきらめ」の末、緊急事態宣言を解除した菅義偉首相
  • 「あきらめ」の末、緊急事態宣言を解除した菅義偉首相

「宣言続けると感染者が増えて解除する時期を失う」

   今回の緊急事態宣言の解除、菅義偉首相は3月17日、記者団に、

「新規感染者数や病床使用率が解除の方向に向かっている。1月に比べれば感染者も8割減っている」

と、緊急事態宣言の「成果」を強調したが、有効な手立てを打てないまま、仕方なく解除したというのが実態だった。

   朝日新聞(2021年3月18日)「『自粛疲れ限界』宣言解除へ 専門家リバウンド懸念」が首相官邸のドタバタを、こう伝える。

「東京都ではこの日(3月17日)、400人超の感染者が確認された。この数字を聞いた官邸幹部は、『タイミングが悪い』とうめいた。東京都などで増加傾向にある。それでも政府は宣言を解除せざるをえないと判断した。官邸幹部は、その背景に『自粛疲れ』の広がりがある。『宣言を続けても、国民に頑張る体力や気力がなくなる。飲食店の時短営業も経済的に限界だ』と、社会がこれ以上の宣言に耐えられないとの見方を示す」

   実際、人出は各地で増えている。ソフトバンクの子会社「アグープ」のデータによると、3月12~14日の週末の人出を1月の週末と比較したところ、渋谷で35%増、銀座34%増、横浜29%増、新宿26%増だった。

   朝日新聞は、こんな側面も指摘した。

「夏の東京五輪・パラリンピックに向けた聖火リレーがスタートする3月25日より前に、宣言を解除するのが望ましいとの声も政府・与党内から漏れる」

   毎日新聞(3月18日付)「薄い効果『諦め』解除」も、諦めた末の解除だったと指摘する。

「政権幹部は『もう宣言を続けていても仕方がない。解除せざるを得ない』と漏らす。『延長しても打つ手がない』(首相周辺)のが実情だ。首相と西村康彦経済再生担当相、田村憲久厚生労働相が3月16日に官邸に集まった際、閣僚らからは『このまま続けて増えたら、緊急事態宣言の意味がなくなってしまう』との声も出た。『伝家の宝刀』だった宣言が『竹光』扱いになってしまう...と」

   ズルズルと宣言を続けていても感染者がどんどん増えるだけで、解除する時期を逸してしまう。いったん解除してリセットしようというわけだが、決定的な対策があるわけではない。

   今回は首都4都県の知事たちの結束がバラバラだったことも解除につながった。現状で解除するなら、3月7日の前回期限で宣言を終えてもおかしくなかったのだ。条件が同じだったからだ。

   東京新聞(3月18日付)「都の感染1か月ぶり400人超、宣言解除へ 有効策も選択肢もなく」がこう伝える。

「政府は解除の目安として、感染状況で最も深刻な『ステージ4(感染爆発)』から脱却し、少なくとも『ステージ3(感染急増)』相当に改善することを掲げるが、当時も数字上は到達していたからだ。実際、経済を重視する菅義偉首相は直前まで解除に前向きだった」

神奈川・千葉の乱で動きを封じられた小池都知事

首都圏知事の反乱にあい、動けなかった小池百合子都知事
首都圏知事の反乱にあい、動けなかった小池百合子都知事

   その菅義偉首相に「待った!」をかけたのが、小池百合子都知事だった。1都3県の知事が結束して政府に解除反対の直訴をする構えを見せたことで、首相は再延長を決断した。しかし、今回は知事たちに再延長を求める声は出なかった。小池知事は身動きが取れなかったのである。いったい、何があったのか。

   朝日新聞(3月18日付)「『自粛疲れ限界』4知事、崩れたワンボイス」が知事たちの内幕をこう伝える。知事たちのワンボイスが完全に崩れ去ったきっかけは、3月3日にあった4都県知事の非公開会議だった。

「会議の出席者によると、宣言延長を政府に要請しようとする小池氏の案に、(選挙区が神奈川の)首相に近い黒岩裕治・神奈川県知事は『総理の判断を仰ぐことが筋。ワンボイスでなくても良いと思っている』と異議を唱えた。千葉県の森田健作知事も『総理が最終的に判断すると述べている』としたうえで、『4都県が一緒くたになる必要もない』と黒岩氏に同調した。共同での政府への要請は見送られた」

   結局、今回の解除について小池都知事が自らの考えを明らかにすることはなかった。

   こうした政府と知事たちの確執に呆れた政府対策分科会の尾身茂会長が、菅義偉首相に対して怒りを爆発させる場面があった。日本経済新聞(3月18日付)「収束見えぬ宣言全面解除 首相『もう出したくない』」が、こう伝える。

「『知事に頼るからこうなった。首相は判断ができない』。尾身氏はおおみそかの12月31日(2020年)、非公式会合で不満を爆発させた。東京都と政府の連携不足への怒りだった」

   昨年12月中旬、政府内の見通しは楽観的だった。感染は年末年始に収まると菅首相も読んでいて、国民に強くアピールすることなく、対応を知事たちに任せていた。実際には忘年会が主因とみられる感染の急拡大が起きた。

   日本経済新聞は、政府と知事たちの連携の「目詰まり」が高齢者施設の相次ぐクラスターを起こさせてしまったと指摘する。

「『3月末までに約3万の高齢者施設で検査をする』。首相が3月5日の記者会見で表明した高齢者施設の検査は、昨年冬からの懸案だ。高齢者への広がりを阻止しようと、首相が施設への検査を指示しても、(保健所などが動かず)検査は進んでいなかった。都老人保健施設協会の幹部は『万が一のことが起きたら経営できなくなるリスクがある。検査しない施設を責められない』と実情を打ち明ける」

   つまり、首相が旗を振っても現場の知事たちとの連携が悪く、保健所を動かせないうえ、感染者が見つかったら経営危機に陥るという高齢者施設の抵抗にあい、検査が進んでいないのが実態だというわけだ。尾身氏は、こうした連携の悪さに激怒したのだった。

(福田和郎)