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氷河期再来? 企業の採用予定55.3% 2021年は9年ぶりの低水準

   2021年度に正社員の採用予定がある企業は55.3%で、3年連続の減少となり、第2次安倍政権の経済政策のアベノミクスの「入口」にあたる2012年度(54.5%)以来の水準まで低下した。

   帝国データバンクが3月15日、2021年度の雇用動向に関する企業の意識調査を発表した。2020年はコロナ禍の影響で、有効求人倍率の大幅な低下や新規学卒者の就職内定率も大きく下がるなど、労働需給がひっ迫した。政府は雇用調整助成金などの施策や、企業に70歳までの雇用機会の確保を努力義務とするなど雇用を下支えしているが、先行きの不透明感もあって企業は慎重な姿勢を崩さない。

  • コロナ禍で企業は採用をしぼり始めた……
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前年2月調査から3.9ポイントの大幅減少

   調査によると、2021年度(2021年4月~22年3月入社)の正社員(新卒・中途入社)の採用状況を聞いたところ、「採用予定がある」(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)と答えた企業は、前回調査(2020年2月)から3.9ポイント減の55.3%となり、3 年連続で減少した。2021年度の正社員の採用見込みは、12年度(54.5%)以来の水準に低下。新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞などの影響を受けた。

   正社員の「採用予定がある」と回答した企業を規模別にみると、「大企業」は 79.5%(前回調査から3.4ポイント減)となり、高水準ながらも8年ぶりに8割を下回った。さらに、「中小企業」は3.4ポイント減の50.2%となり、規模を問わず、慎重な姿勢を示す結果となった。

   企業からは、

「新型コロナの影響による業績見通しも不透明であることから、採用も様子を見ている」(金属加工機械卸売、宮城県)
「売り上げの伸びが見えているようであれば採用するが、横バイから減少ぎみな現時点では採用はできない」(一般機械器具卸売、東京都)

などの声が多く聞かれた。

   一方で、採用を前向きに検討している企業からは、

「技術系を採用したいが今までは応募がなかった。他企業が控えている現状が中小企業にとって人材を集めるチャンスと捉えている」(油圧・空圧機器製造、東京都)
「慢性的な人材不足に陥っているなかで、景気が悪化しているといえども、採用を控えることは中長期的にはマイナスの影響があると認識している」(金属工作機械製造、岡山県)
「先行き不透明だが、今後の自社の将来を考えると、人材を確保し教育訓練しておく必要がある」(製缶板金、福島県)

といった将来を見据えて採用を行うという声もある。

「育てる余裕なし」中途採用に即戦力求める

   2021年度の正社員の採用見込みを、新卒新入社員と中途社員をそれぞれ聞いたところ、「採用予定がある」(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)割合は、「新卒新入社員」で39.1%、「中途社員」で45.0%となった。

   規模別では、「大企業」では新卒、「中小企業」では中途採用の割合が高くなっている。中小企業からは、

「新卒を教育している時間がないので、どうしても即戦力である中途採用に偏る」(各種商品卸売、神奈川県)
「現場の稼働が間に合わない状況が続いており、新卒社員については社会人としての教育を行う体制が整わないため中途のみで採用予定」(有機化学工業製品製造、大阪府)

といった声が多くあがった。

   また非正社員(新卒・中途入社)の採用状況を聞いたところ、「採用予定がある」(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)と答えた企業は36.8%で、前回調査から7.4 ポイントの大幅減となり、9年ぶりに3割台まで減少した。「採用予定はない」とする企業は5 割近い水準まで増加している。

   「採用予定がある」企業を業種別にみると、コロナ禍以前から人手不足が深刻だった「飲食店」が73.1%でトップとなった。次いで、スーパーマーケットなどを含む「各種商品小売り」が69.6%で続いた。内食需要の高まりで人手不足の割合が高まっていることが一因と考えられるという。

   「家具類小売」(66.7%)や「飲食料品小売」(64.6%)、「人材派遣・紹介」(63.3%)、「娯楽サービス」(61.7%)など、個人向けの業種が上位に並んでおり、採用意欲は強い。

「努力義務」の70歳雇用、課題多く

70歳雇用「マッチングが難しい」「職種や業種による」「体力不安」......
70歳雇用「マッチングが難しい」「職種や業種による」「体力不安」......

   さらに、改正高年齢者雇用安定法に基づき、今年4月から新たに努力義務となる「70歳までの就業機会の確保」への対応について聞いたところ、「70歳までの継続雇用制度の導入」を予定している企業は、25.4%となった(複数回答)。加えて、「もともと70歳まで働ける制度がある」が16.4%。半面、「(現時点で)対応は考えていない」は32.4%、「わからない」は14.9%で、対応を決めかねている様子もうかがえた。

   企業からは、

「技術の伝承という観点から継続雇用をしている」(ニット・レース染色整理、福井県)
「働けるうちは何歳でも雇用していくというモットーにより 70 歳以上の社員も元気に働いている」(石油卸売、兵庫県)

など、前向きな声がある一方で、

「マッチングが非常に難しく断念している」(ソフト受託開発、富山県)
「ドライバーという職種柄、高年齢者の雇用は安全の根幹である認知、判断、動作の基本操作への影響が表れる可能性があるので、どうしても年齢の引き上げには慎重にならざるを得ない」(一般貨物自動車運送、群馬県)
「高齢者にとって体力的に厳しい業種なので希望が少ない」(各種食料品小売、岐阜県)
「業種や業態にもよりさまざまであり、ひと括りに70歳までの就業機会を確保するのは厳しいのではないか」(和洋紙卸売、茨城県)

といった、さまざまな課題を指摘する声が多くあがった。

   シニア層の雇用が進むことで、「会社の新陳代謝が悪くなる」「若手社員を採用しにくくなる」との「後ろ向き」な声もチラつく。