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DeNA南場智子氏、「初の女性副会長」誕生でも問われる経団連の多様性への本気度

   国際女性デーだった2021年3月8日、大手企業が加盟する経済団体の日本経済団体連合会が、新任の副会長にIT企業大手のディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長(58)ら7人を内定したと発表した。

   経団連副会長に女性が就任するのは初めてとあって、大手メディアはこぞって大きく取り上げたが、むしろ令和になるまで女性副会長がいなかったという日本の企業文化の男性偏重ぶりを際立たせることになった。

  • 経団連は多様性にどう取り組んでいくのか!?(写真はイメージ)
    経団連は多様性にどう取り組んでいくのか!?(写真はイメージ)
  • 経団連は多様性にどう取り組んでいくのか!?(写真はイメージ)

南場氏の副会長就任、ようやく実現

   南場智子氏とは、どういう人物なのか――。名門女子大の津田塾大学を1986年に卒業し、新卒で米コンサルタント会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。米ハーバード大学で経営学修士(MBA)を取得した。

   マッキンゼーから独立して、1999年に携帯電話向けポータルサイトを運営するために設立したのがDeNAだった。2011年には病気療養中の夫を看病するため社長兼最高経営責任者(CEO)を退任して、ヒラの取締役になったが、2015年に会長として経営の一線に復帰した。

   経団連にとって、南塲氏の副会長起用は長年の課題だった。前会長の榊原定征氏(元東レ社長、現関西電力会長)や現会長の中西宏明氏(日立製作所会長)が、何度も副会長就任を打診してきたが、いずれも断られてきた。

   今回はようやく実現し、中西氏は3月8日の記者会見で「多様な人材を積極的に活用していくためには、相当意識して推進していかなければならない」と語った。

   これまで経団連副会長に女性がいなかった理由は、現在の副会長の肩書きを眺めれば浮かび上がる。日本製鉄、トヨタ自動車、JR東日本、NTTといった日本を代表する大企業や大手金融グループ、大手商社の社長や会長ばかり。経団連の実態は、日本の政財界の一翼を担う大企業が経済活動を有利に展開できるよう政府・与党に対して働きかける「ロビイスト」の集団であり、会長と副会長にはその中核となる企業の代表が就いてきた。

大企業の現実は女性社長が皆無の「ザ・男社会」

   こうした大企業こそは戦後日本の経済成長を支える中で、男性の「モーレツ社員」が出世競争にしのぎを削り、女性は家事に専念して夫を支える、といった古めかしい価値観に基づいて、つい最近まで組織を運営してきた。

   それゆえ、こうした大企業ではまだまだ女性の役員は珍しく、女性社長は皆無だ。副会長の常連企業に「有資格者」が誕生するには、まだまだ年月を必要とする――。そこで、「人ありき」で南場氏に白羽の矢が立ったのだ。DeNAが経団連に入会したのは2021年3月1日付で、南場氏が副会長に内定する直前だった。

   DeNA のようなITベンチャーには、ロビー活動とは無縁の世界で自ら道を切り開いてきた企業が多い。ただ、IT業界の存在感が高まるにつれて、楽天を起業した三木谷浩史氏らが2010年に設立した「新経済連盟」のように、政府に対して発言力を強める動きも起きている。2007年から東証1部銘柄となったDeNAは、2012年シーズンからはプロ野球球団のオーナーにもなっており、社会的責任を果たす役割を期待される企業になりつつあるタイミングでもあった。

   南場氏は困難さを承知で踏み出す「ファーストペンギン」として、男性社会の象徴的な存在だった財界に風穴を開けるのか。人材の多様性を企業の成長に結び付けようとしている経団連の本気度が問われてくる。(ジャーナリスト 済田経夫)