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三菱ケミカル株が1年4か月ぶり高値 クルマや半導体向け需要に期待

   総合化学大手、三菱ケミカルホールディングス(HD)の株価が上昇基調にある。2021年3月18日の終値は、前日比3.8%(31.3円)高の857.3円まで値を上げ、1年4か月ぶりの高値をつけた。

   野村証券が投資判断を3段階で真ん中の「ニュートラル」から最上位の「バイ」に格上げし、目標株価も690円から1040円に大幅に引き上げたことを材料に買いが集まった。その後もルネサスエレクトロニクスの工場火災がもたらす半導体不足による自動車減産といった懸念材料はあるものの、値を崩さず高値圏を維持している。

  • 三菱ケミカル株が上昇基調に……(写真はイメージ)
    三菱ケミカル株が上昇基調に……(写真はイメージ)
  • 三菱ケミカル株が上昇基調に……(写真はイメージ)

証券会社の投資判断引き上げが手がかり

   野村証券は3月18日配信のリポートで、投資判断を「バイ」に上げた理由について、

「自動車や鉄鋼、半導体、液晶ディスプレイなど幅広い顧客産業向けの需要に回復感が見られるうえにオフィス集約などによるコスト抑制が期待できるため、2021年3月期以降のコア営業利益予想を増額した」

としている。

   また、予想を増額したことで株価に「割安感が出てきた」とも指摘。さらにベルギー出身のジョンマーク・ギルソン氏(57)が2021年4月1日に社長に就任することについても、「事業ポートフォリオを見直す可能性がある」として選択と集中の加速に期待を示した。

   三菱ケミカルHDは米国の工場閉鎖や、無形資産としての製薬関連技術の価値見直しにより1000億円超の減損損失を計上することなどから、2021年3月期は480億円の最終赤字に転落する見通しで、化学大手の中では「業績悪化組」と見られていた。

   しかし、最近は化学関連市況の改善のほか、オフィスを集中させるなどとした中期経営計画、ギルソン氏への社長交代なども好感され、株価は回復を続けていた。

   そこへ再成長を予想する野村証券の格上げ判断が出たことで、期待がさらに高まった格好だ。

「しがらみない」ギルソン新社長の手腕に注目

   投資判断の格上げまでいかずとも、内外の証券会社による目標株価の引き上げは、2021年に入って相次ぎ、10社前後にのぼる。3月15日配信のリポートで630円から810円に引き上げたSMBC日興証券は、「足元では石油化学市況の高騰が追い風、長期目線では構造改革に期待」と理由を挙げた。

   ちなみに、ギルソン氏への社長交代は2020年10月23日に発表された。ギルソン氏は当時、医療関連資材などの仏ロケット社のCEOだった人で、米国籍も持つ国際人。妻は日本人で日本に住んで働いた経験もある。

   以前から欧米化学企業の経営に携わり、改革派として化学業界では知られていたそうだ。ギルソン氏は記者会見で「ポートフォリオ変革に注力する。一部事業の売却もあるだろう」「自分の役割は海外の強化」などと述べていた。

   ただ、外国人社長が就任すると言っても、経済同友会代表幹事なども務めた実力者の小林喜光会長(74)は4月以降も留任する。小林会長がギルソン氏の改革を阻むことはないにしても、かつて日産自動車の全権を掌握したカルロス・ゴーン氏のように、しがらみのなさを存分に発揮できるかどうかは、まさにギルソン氏の手腕にかかっている。

   一方、中期経営計画は2021年2月25日に発表されたもので、21年4月~23年3月までの2年間が対象。野村証券が指摘したオフィス集約によるコスト抑制は、この計画に盛られている。東京都内の3か所に分散していた本社のオフィスを丸の内に集約するほか、生産自動化などを進めて220億円分を合理化しようとしている。

   個別の事業でも、世界シェア首位のアクリル樹脂原料「MMA」について、事業の本社機能をシンガポールに集約し、世界を見渡した迅速な判断に基づいた運営に徹するなどとしている。(ジャーナリスト 済田経夫)