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P&Gはここまで丁寧に社員を育てている!

   コロナ禍のリモートワークで、「部下の働きぶりがよく見えない」と思っている管理職の方はいないだろうか。本書「上司力強化マニュアル」を読むと、上司は部下にDemand(要求)するとともにCare(気遣い、フォロー)することで、人材育成していくことを痛感する。

   本書はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社のノウハウを凝縮したものだが、外資系企業の、じつに緻密な指導法に驚かされる。「売り上げを伸ばせ」と要求ばかりしている管理職に猛省を促す本だ。

「上司力強化マニュアル」(高田誠著)リーダーズノート出版
  • P&G社の部下の育成法を「伝授」!(写真はイメージ)
    P&G社の部下の育成法を「伝授」!(写真はイメージ)
  • P&G社の部下の育成法を「伝授」!(写真はイメージ)

至れり尽くせりでまずは部下を軌道に乗せる

   著者の高田誠さんは、1987年にP&G入社。製品開発部でアリエール、ジョイなど日本市場向け商品のほか、海外向け商品の商品企画開発を担当。2010年広報部長職で退社。2013年に株式会社オーセンティックスを設立。さまざまなコンサルティングをしている。著書に「P&G式 伝える技術 徹底する力」(朝日新書)などがある。

   なぜ、あなたの部下は「できません」と叫ぶのか? という問題意識に基づき、新入社員から段階を追い、6つのステップの56のアクションで部下を育成するノウハウを示している。

   正直、ここまで手取り足取りしないといけないのか、と思う人もいるだろう。とりあえず、最初の「スターター・ステージ」を見てみよう。

   「まずは部下を軌道に乗せる」とある。新人の小林さんと初めて部下を持った主任の鈴木さんのやり取りという形で進む。

   「小林さんはまだよくわからないと思うんで、いろいろやってね。そのうちわかってくるから、特にまだ担当とか決めてないんで」と指示した鈴木さんに、小林さんは「私には担当がないんですか?」と、内心叫んでいる。

   上司のアクションその1として、最初から役割を決めてあげる、とある。担当、業務の目的、主な業務、ポイントなどを書き出してあげるのだ。

   さらに1週間のスケジュールを立ててあげる、最初はセットアップした仕事を与える、部署の人物と役割を紙に書いて渡す、職場の用語集を作ってあげる、「期日」と「期待するアウトプット」を明確にしてあげる...... と、まさに至れり尽くせりだ。

   そのうち鈴木さんは、小林さんがどうも受け身で、「自分で力をつけようと思っているのでしょうか?」と不満を持つ。高田さんは「自分の成長は自分の責任!」と突き放すことも大切だ、と書いている。

だんだんレベルが上がる

   レベル2の「テクニカル・トレーナー・ステージ」は、部下に基本の力をつけさせるのが目的だ。部署で必要な専門力をリスト化して渡す、「どんな話も3つにまとめる」を徹底させる、工程表を作らせるなどを挙げている。

   あいさつ、礼儀、言葉づかい、時間、約束など社会人として基本的なことに問題がある部下に対しては、「社会人として、それではダメだ」とはっきりと伝えることも必要だ、としている。

   ステップが上がると、動機付けと仕事の仕方で自ら動く人材に育てる、効果的に助けて部下を成功させる、と上司の役割も変わる。

   レベル5の「プロモーター・ステージ」になると、部下を組織に認めさせることも必要になる。「こんな成果を上げました」と言える仕事を与える、「露出」の機会を作る、プレゼンは絶対に成功する準備をさせることなどを挙げている。

   レベル6「キャリア・プランナー・ステージ」になると、「将来の成功を支援する」段階になる。将来の姿を書かせる「ビジョン・シート」を導入している企業もあるだろう。部下のビジョンと組織がWin-Winになるストーリーを作ることが、望ましいという。そうすれば、「やりたいことがあるのでやめます」はなくなるという。

   最終レベル7の「育成マスター・ステージ」になると、育成力を自分の強みにすることを目指してほしい、と高田さんは求めている。

育成に時間とエネルギーをかける

   「50%の時間とエネルギーを育成に使う」と高田さんは説いている。

   育てることは勝つための方法だから、自分がビジネスへ直接に貢献することと合いまって、結局は一つのことになるという。

   本書の考え方の基本にある「Demand and Care」という概念は、高田さんがかつて在職したP&Gジャパンの当時の社長Ravi Chaturvedi氏が強調していたことだという。

   本書は、同社で引き継がれてきたノウハウを高田さんがさらに整理し、ブラッシュアップしたものだ。ここまで精緻に社員の人材育成をマニュアル化していることに驚いた。社員研修とは名ばかりで、部下をあまり育てることに熱心ではなかった日本の企業との考え方の違いは大きい。

   「放任主義」を公言し、「部下は勝手に育つものだ」と言っている上司も少なくないのではないだろうか。彼らにはもしかしたら、部下を育てる気などないのかもしれない。

   そんな上司に当たったら、どうするのか? 本書を参考に自分の組織の業務について書き出し、自分で自分の仕事や役割を考え、行動するしかない。

   先日、紹介した「テレワークで部下を育てる」(青春出版社)でも、部下に目標を達成させるまでの道筋をデザインする、チームを育て組織の成果を最大化する仕掛けを作るなどのノウハウが紹介されていた。

   テレワークだからこそ、部下がぐんぐん育つ方策もあるという。プレイヤーとして実績を挙げてきた人にこそ、読んでもらいたい一冊だ。部下の育成はマネジメントの基本でもある。

「上司力強化マニュアル」
高田誠著
リーダーズノート出版
1600円(税別)