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1人の女性の働き方が変わったら会社が変わった! 職場の「GOOD ACTIONアワード」の受賞者に聞く

   人材派遣・紹介業のワークスアイディ株式会社が、リクルートキャリアが運営する転職情報サイト「リクナビNEXT」主催の「第7回 GOOD ACTIONアワード」で、「審査員賞」を受賞した。

   「GOOD ACTIONアワード」は、働き方の多様性が進むなか、一人ひとりがイキイキと働くため、働くあなたが主人公となって始まった取り組みが職場に広がり、やがて職場や会社全体が変化していく、そういったアクションを応援するプロジェクト。ワークスアイディは、女性社員の妊娠・出産をきっかけとした働き方改革への取り組みが評価された。

   いったい、どんな取り組みなのか――。審査員でもあるリクルートキャリアの藤井薫(ふじい・かおる)リクナビNEXT編集長に評価のポイントともに、受賞したワークスアイディのHRS事業本部 HRSマーケティング室 室長の朝比奈一紗(あさひな・かずさ)さんに話を聞いた。

  • 「第7回 GOOD ACTIONアワード」で「審査員賞」を受賞したワークスアイディ株式会社の朝比奈一紗さん(2021年3月3日の表彰式)
    「第7回 GOOD ACTIONアワード」で「審査員賞」を受賞したワークスアイディ株式会社の朝比奈一紗さん(2021年3月3日の表彰式)
  • 「第7回 GOOD ACTIONアワード」で「審査員賞」を受賞したワークスアイディ株式会社の朝比奈一紗さん(2021年3月3日の表彰式)

キーワードはカジュアルでオープンでフラット!

   「第7回 GOOD ACTION アワード」の表彰式は2021年3月3日、オンラインで行われた。最終審査を経て、

●ワークスタイルバリエーション賞 株式会社ライトカフェ
●ワークスタイルイノベーション賞 大東自動車・三重県南部自動車学校
●トレンド賞 株式会社マクアケ
●審査員賞 株式会社ライトカフェ(ダブル受賞)、ワークスアイディ株式会社、大橋運輸株式会社、株式会社カクイチ
●Cheer up賞 福井大学医学部付属病院、宮城県漁業協同組合 七ヶ浜支所

の8つの取り組みが受賞した。

   リクナビNEXT編集長の藤井薫さんは、評価について「コロナ禍でも、どのようにエンゲージメントを高めているか。コミュニケーションを高めているか。どうやって人と人との関わり合いを再定義、再設計しているか、といった点に注目しました」と明かす。

   たとえば、無意識に過重労働をお願いしてしまった病院は、ユニフォームでシグナルを送る仕組みを考えた。それが、新しいコミュニケーションのあり方に繋がっているというわけだ。

「困っていることを見える化すると、わかっている人が教えられる。初めての人でもできるようになる。できる人が増えると組織も変わってくる。まずは、「見える化」することが大切です」

   「見える化 → わかる → できる → 変わる」の法則があるという。

   そして、働き方が「変わる会社」の特徴を、こう説明する。

「社長や上司発ではなく、現場発がこれからのトレンドになるのではないでしょうか。また、遊び感覚で多くの人を巻き込みながらのコミュニティづくり、現場(若手)から自発的に発信するように組織(環境)が変わっていくように思います。そういった会社は、上司が気が付かないような組織(横やナナメの組織)が多くできていて、人間のカラダが末端末端で動いているように組織が動く。カラダと組織は似ているかもしれません」

   共通のキーワードは、カジュアルでオープンでフラットだ。年齢や勤務年数、もちろん男女の別などに囚われず、若手でも、誰でも意見が言える職場だ。

   とはいえ、そんな理想の職場があるのか――。今は理想とは言えなくても、理想に向けて動き出している会社は少なくない。その1社が、ワークスアイディだ。

   結婚や妊娠、出産、職場復帰などの女性のキャリアに、どの男性社員も理解があるとは言えないのは、どこの会社も同じかもしれない。しかし同社は一人の女性社員のアクションをきっかけに働き方改革が進み、社風をも変えた。現在では女性を中心としたテレワークチームも誕生し、一人ひとりの希望をかなえられる体制を目指しているという。

   リクルートキャリアによると、受賞のポイントは

(1)自身のキャリアと向き合い、率先垂範し続けた女性社員の想いと行動力
(2)求職希望者との対面登録が多かった人材派遣業界の常識に流されることなく、電話面談や、2019年からはテレワークを積極的に推進した
(3)女性社員一人ひとりが希望をかなえられるよう、テレワークチームを組織した

としている。

   朝比奈一紗さんに聞いた。

左遷されたかと思い頭をフル回転

――働き方改革がはじまった経緯を教えてください。

朝比奈一紗さん「派遣希望者の電話面談を始めた時期は、5~6年前になります。当時は、私は結婚していましたが、妊娠はまだでした。入社以来、人材やITの営業畑を歩いてきました。社内にはまだ、きちっとした人事部がありませんでした(笑)。人材の会社って人材のプロ集団みたいな感じなので、人事部を作る必要性を感じてこなかったようなのです。そこである日、社長から『人事部の立ち上げをよろしく』みたいな感じで、私と当時も現在の上長の二人が、新設の『人材開発事業部』に放り出されたのが始まりです。
社長からは『ウチには人事部みたいなのもないから、そこで何か新しいことをやってよ』との要望だったのですが、営業しかしてこなかった私にとっては、『これはいわゆる窓際じゃないの? つまり左遷ってこと?』と頭の中が真っ白になりました。社長からも何もプランも示されず、真新しい部署に上長と私がポツンと二人。不安と焦りで、『このままでは自分の席も、会社の居場所もなくなるんじゃないか。これまでの経験と英知を結集して、今何かできることを、自分で作らなければ!』と気持ちをスイッチして、頭をフル回転させました。
そこで、今までの営業でしてきたことを振り返ってみたときに、派遣希望者の面談は、もうちょっと合理化できるのではないか? 効率化できるのでは? というところで、営業から離れて客観的に見たときに、そのような活路があるではと思って始めたのが最初のきっかけでした」
「第7回 GOOD ACTIONアワード」の表彰式(左から、リクナビNEXTの藤井薫編集長、審査員のアキレス美知子氏、朝比奈一紗さん、審査員の守島基博氏、審査員の若新雄純氏)
「第7回 GOOD ACTIONアワード」の表彰式(左から、リクナビNEXTの藤井薫編集長、審査員のアキレス美知子氏、朝比奈一紗さん、審査員の守島基博氏、審査員の若新雄純氏)

――電話面談と人事部とのつながりは?

朝比奈さん「今回の受賞を機に、社長に本心をうかがってみたところ、『本当に左遷とかではなく、私たちが営業しか経験していなかったので、一度、営業から離れてバックオフィス的な視点から自分たちのやってきたことを見たときに、新しい視点が出るのではないかと思って二人を営業から引き剥がしただけ』とのことでした。今までの価値観にない、何か新しいことをやってほしいというのが真意だったようです。とはいえ、私のこれまでの6年間は、左遷を命じた社長を見返すための戦いでした」

――会社の中で電話面談を推進するために障害はあったのでしょうか。

朝比奈さん「派遣の登録は、来社と面談で行っている会社では、手続きが完了するのに1時間30分~2時間かかります。手続き後に派遣の紹介の判断もしなければなりませんし、必ずしも派遣の紹介ができるわけではありません。そこにこれだけの時間をかけるのは、求職者にとってもマイナスだと感じていました。社内にも、面談を専門的に行っているチームがあって、電話面談の案を出してみました。結果は『何言ってんの、あんた』と、けんもほろろ。固定概念があったり、丁寧な対応をしなければという考えもあるので、既存のメンバーを説得するのは高いハードルでした。そこで『これは、自分自身で実行していかないと先に進まない。自分自身がまずやってみよう』と考えを変えました」

――自分で実行するに当たって、何が必要でしたか?

朝比奈さん「派遣登録者のデータは基幹システムに入っています。面談者が基幹システムにアクセスさえできれば、面談に必要な情報はすべて揃います。逆を言えば、特段の準備がなくでも面談は可能だというのが、私の肌感覚でした。あとは電話回線さえあれば、電話面談はどこでもいつでもできる。そして準備もそこそこに、実際に派遣希望者に電話を掛けてみました。結果は二つ。一つは、求職者の反応がめちゃくちゃ良かったこと。私たちが懸念していたことは、懇切丁寧にしてあげるために、求職者もちゃんと顔を見て面接したいのではないか。それをこちらの都合で電話に切り替えているのではないか、と思われてしまうこと。それは面談後のアンケートで、他社は交通費と時間をかけて面談に行かなければいけないが、家にいるときも職場での休憩時間でも電話面談ができるので『すごく登録が楽でした』とのメッセージが数多く集まり、求職者にも好意的に受け入れられていたのがわかりました。
二つ目は、マッチングで案件と人を結びつけることにおいて、マッチング率が下がらなかったのです。候補者数が何倍にもなりましたので、成約数もものごく上がったのです。それは売り上げにつながっていきますので、そこでも結果が出すことができました。求職者の満足度も上がり、売り上げも上がったことで、上層部からも評価される結果になりました。
今となっては不思議ですね。固定概念でしょうか。私も元のチームにいたら気が付かなかったかもしれません。一度はがして出されたことで、外から俯瞰して見られるし、その時は電話面談しかやることなかったので、その時間が与えられたのも良かったと思います」

――頑張れた原動力はなんでしょう。

朝比奈さん「原動力も二つありました。一つは、一人しかいなかったので、トラブルも自分で解決するしかありませんでした。また、左遷だと思っていたので、何か成功させて爪痕を残さないと退職なんじゃないかという危機感もありました。背水の陣で臨んでいました(笑)。ここで失敗すると退職だと思うと、走れましたね。
もう一つは、産休育休で戻ってきた女性も、私に影響を与えてくれたと思います。ある日、彼女のお子さんが発熱で会社を休んだことがありました。女性は子育てがあれば家の事情で会社を休まなければならないこともでてきます。しかし、休んで影響がでない部署はどこにもなかったのが現実でした。誰かが休んでもカバーできるような社員の働き方改革も会社にとっても急務だと、この時感じました。それも活動の原動力になっていたと思います」

社内から「これ、めちゃくちゃ楽だね」と好意的意見が続々

――コロナ禍で普及したテレワークなども、女性活躍推進のお考えから率先して取り組まれたようです。そのような取り組みを、どのように進めていったのでしょうか。

朝比奈さん「6年前ですが、社内で役職についていたのは男性だけでした。会社には、産休や育休を取ったあとのキャリアプランもありませんでした。女性たちの多くは、結婚や妊娠で辞めてしまいましたが、その理由は、女性社員への復職に何のサポートもない会社に愛想を尽かしたのだと、女性社員の潜在的な想いとして感じていました。規程では、産休・育休の復職では、元の配置に戻すことになっているのですが、会社の中でそのポジションを数か月から数年間空け続け、女性社員の産休育休後のキャリアを途切れさせずに復職させるのはできていないのです。偶然、育休から戻りたいという希望が女性社員からあり、そこで電話面談であれば、復職しても活躍できる場になるのではと、電話面談の導入に踏み切っていきました」

――「一人の活動」からのスタートでした。苦労したことはなかったですか?

朝比奈さん「正直、社内的な反発は少なくなかったです。来社面談は今までの会社の価値を作り上げてきたものですので、その業務も確立されているのです。それをなくすとなると、その業務に長年携わってきた者から意見が出るのはしかたがないと思います。また、求職者への対応も最初からうまくいっていたわけではなくて、『電話で済むんですか?』『電話面談で私は何をしたら良いのですか?』といった問い合わせが多数来ました。わからないことも多かったのです。問い合わせには1件1件対応しましたが、電話面談中に本社に問い合わせがかかってきたりして、大変な思いはたくさんありました」
「スタートは一人。社内の反発もあった」と振り返る朝比奈一紗さん
「スタートは一人。社内の反発もあった」と振り返る朝比奈一紗さん

――職場の男性社員の見る目や考え方などが変わってくることも必要だったように思います。そのあたりの変化は感じられましたか。

朝比奈さん「人材派遣仲介の仕事は、派遣募集する会社と求職者とのマッチングをコーディネーターが行うのですが、求職者数がある程度ないとマッチングもはかどりません。コーディネーターはとにかく求職者の数はたくさんほしいのです。しかし、求職者の面談で一人2時間もの時間がかかってしまうとなると、8時間あっても、最大4人までしか面談はできません。ところが電話面談であれば、一人15分から30分の面談時間となります。8時間フルで電話面談を入れると私一人で1日16人の面談ができます。しかも、面談後の処理を終えた状態でのコーディネーターへの人出しです。これを受けて、『これ、めちゃくちゃ楽だね』と好意的な意見が出ました。
あわせて、コーディネーターの残業が劇的に減っていったのです。一人当たり2時間の面談後の業務は、残業になるため、面談するほど残業が増える状態でした。私は、『電話面談は18時で終了するから、定時で帰れる』というのを周りにアピールしたくて、18時1分でタイムカードを切ることをしていました。すると『あの子、何? でも、16人送客してくれたよね』『どんな魔法を使っているの?』などと興味を持ってくれる社員が少しずつ増えていきました。また、時代的にも、業務の効率化や生産性を上げたいみたいなことは、上層部にもあったようです。現状1日4人のキャスティングだったのが、一人で16人がこなせるとなったとき、とても好意的な反応だったと感じました。さらに、産休・育休で休んでいた社員が時短で4時間でも電話面談をこなしてくれると、10人ぐらい面談数が増えます。すると面談数は1日26人にもなるのです。すると、今まで正社員4~5人でしていた仕事を、1.5人でこなしているとなり、『効率は最高にいいね』と社内でのインパクトも大きくなりました」

――取り組みの手応えを感じられるようになった時機や出来事。ターニングポイントになるようなエピソードを教えてください。

朝比奈さん「会社へのインパクトはあったと思います。コロナ禍のせいもありますが、会社では来社面談はゼロになりました。これまで、来社面談がないと業務が回らないという世界だったのですが、それをゼロにして業務が回る世界にガラッと変わりました。電話面談のメンバーもこの4月で12人の組織になります。この電話面談がなかったら、今の会社の姿にはなっていなかったと思います。きっかけは電話面談でしたが、求職者の評判も良くて、古参の社員も納得して。結果、成功に導けたと思います」

社会に蔓延する「同調圧力」に負けずにアクション!

――女性活躍の推進で、今後注力していきたいと考えておられることを、教えてください。

朝比奈さん「活躍している女性像がテレビや雑誌などで取り上げられますが、イメージとして『社会的地位のある女性』『キラキラしている女性』があります。ところが、私のチームの女性メンバーに『なりたい女性像』を聞いてみると、キラキラや成功ではなかったりしています。『安定した生活を送りたい』『地味かもしれないけど、それなりに幸せ』という価値観なのです。男性と比べて、女性は生き方の選択肢が多いように思いますし、女性は働く理由がさまざまです。たとえば専業主婦になれば働かなくても生きていける。それは選択肢がある分、選ぶ理由も多岐にわたるということで、一人ひとりの幸せは、画一でないのです。これから、女性が活躍していくためには、キャリアだけでなく、その人なりの価値観を一段階下がって見てみて、その人なりの活躍のありかたを見つけることが大切だと考えています」

――女性が新しいアクションを起こすために必要なことは何でしょうか。

朝比奈さん「女性にかかわらず、『何のために動くのか?』のモチベーションは、『個人の利益の追求』ではないでしょうか? 私の場合は『左遷されたくない欲望』でしたね。テレワークを推進したのも、妊娠の時にどうしたら仕事ができるかと考えてのことです。その個人の利益が会社の利益とつながると成功していくと思います。モチベーションは、一人ひとり違います。その一人ひとりの願望を叶えていく。正直、会社のために頑張れないですよ。自分がどれだけやりたいかの情熱がアクションにつながっていくと思います」

――これからアクションを起こそうとする女性、頑張っている女性たちにエールをお願いします。

朝比奈さん「今も、これからも多様性の時代です。社会や人が人を見る目も固定概念に縛られてはいけないと思います。特に男性、女性といった形でくくって考えるべきではありません。女性も価値観や生活スタイルがそれぞれにありますので、それを活かしてほしいと思います。また、日本の社会は『これってこうだよね』といった同調圧力みたいなものが蔓延しています。そういうものに負けないで頑張ってほしいです」

(聞き手 牛田肇)